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施設を開くの最終形態は、ただの住宅

今回も、施設を開くお話。さっそく。

施設を開くことが一番簡単なケアとまちづくりかもしれない。前回は、高齢者の日常を彩るために施設を開くという方法があるという話だった。施設を開いて、まちの人たちの関わりしろを作ることで、多くの世代が施設を訪れる。すると、高齢者だけの施設ではなく、多世代が集まる施設になり、結果として高齢者の日常を彩ることができる。

例として、駄菓子屋という関わりしろを作っている銀木犀、通り抜けという関わりしろを作っているツルガソネ保育所特養プロジェクトを紹介した。関わりしろはいろいろなパターンがある。マガジンでも今後、様々な関わりしろを紹介していきたいと思っているので、ぜひお楽しみに!

関わりしろを作るという方法で施設を開くことはできないか。ツルガソネ保育所特養プロジェクトは、通り抜けの他に保育所と特養を併設することで、多世代を巻き込んで、日常を彩った。つまり、多世代がいる環境をいかにデザインできるか

そう考えると、荻窪家族プロジェクトはかなり面白いプロジェクトだ。建物の所有者であった瑠璃川正子さんが今の高齢者住宅で看取られるのは嫌だという想いからプロジェクトを構想され、建築家の連健夫さんが設計を手がけた「地域開放型の賃貸共同住宅」。賃貸住宅のほかに、地域の人が集う工房やラウンジ、集会室などの共用スペースを持ち、住む人、使う人が一緒に作っていく暮らしを目指している。

このプロジェクトが面白いところは、高齢者の日常を彩る上で、多世代がいる環境を作ることを考えたときに、もはや高齢者住宅ではなく、多世代共同住宅になったという点。もうみんなで一緒に住んじゃえ!ってところだろうか。プロジェクト代表さんの瑠璃川さんも一緒に。瑠璃川さんは一緒に住むだけではなく、大家さん用の特別室を作らず、シャワーは各部屋にあるが、お風呂は住民と共同で使っているらしい。このあたりは住民と同じように住んでみて試行錯誤するという瑠璃川さんの素敵な感性が垣間見える。

(写真:ツバメアーキテクツより)

さて、一緒に住んでしまったら、多世代が関わらざるを得なくなる。というより他人と一緒に住んで生活するという家族生活に近い日常となる。いいことも悪いことも多世代で共有する。もちろん、多世代が同時に暮らすのは難しい。僕もシェアハウスに近いシェアスペースを利用しているが、家事や片付けをどうするかという点で結構もめる。Netflixで放送中のリアリティーショー、テラスハウスをみていても、だいたい揉めるはこういう些細なことから。荻窪家族プロジェクトの場合は、掃除に関しては住民ではなく、大家さんか業者がしているとのこと。また暮らしの保健室を併設することで、医療や介護に関する悩みは気軽に聞けるような体制を整えている。住宅とすると、生活機能の一部を失いつつある高齢者にとって難しい。もちろんできないことをお互いが補完しあい、若者が高齢者の暮らしを少し手伝い、高齢者が経験を若者に伝えるという関係ができると理想的だと思う。ただ高齢者の失いつつある日常生活機能を共同生活する若者にお願いすることはできない。一部のメンテナンスの部分は運営者がやることは必要かもしれないなぁと思う。その点では、サービス付き高齢者住宅に近いかもしれない。

またこのプロジェクトは、家族という定義を考え直させてくれる。高齢者の場合、家族と呼ぶ人がもうこの世にいないことも少なくない。そのような方がこの多世代共同住宅に入った場合、家族の定義の拡張という意味でも荻窪家族プロジェクトは面白い。家族の定義を考える上で、お互いに助け合うような関係性は家族に近いのではないかと僕は思っている。荻窪家族プロジェクトの本も出版されているので、よければ。


同じようなプロジェクトが東京大学の近く本郷でも行われている。ひとつ屋根の下プロジェクトだ。プロジェクトの概要は、文京区に住むシニアの空き部屋を大学生、大学院生が借りて共生するというもの。シニアと大学生が自分たちの生活を送りつつ、夕食・団らんを共にしたり、地域の活動に共に参加したり共通の時間を持つ。面白いのが、大学生が意気揚々と部屋を借りる代わりに色々と手伝おうと思って入居すると以外にも高齢者は困っていなかったという話だ。若者がいるとどこか日常が楽しくなる。誰かが帰ってきてくれる嬉しさがある。幸せがある。何も介護を手伝って欲しいとかそういう話ではない。日常を彩りたい高齢者と間借りしたい大学生のマッチングがそれぞれの日常を楽しくさせるんだ。

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