見出し画像

よしもと漫才劇場のシステム変更について&翔GP全組感想


大阪吉本の若手芸人の登竜門、よしもと漫才劇場。
劇場を運営する上でのシステムが、新たに変更されることがこの度発表されました。

今までも何年かに一度のペースで行われてきた、若手お笑い界の改革。
この劇場にかつて約5年ほど所属した僕から見て、今回の改革について思うことを書きたいと思います。


劇場がスタートしてもうすぐ9年になります。
昔は、お笑いに詳しくない人や、またお笑い好きを自称する人からしてみても、大阪の若手の一劇場の事などよく知らない人が多かったと思いますが、今や数多くの全国的スターを輩出し、お笑い界の醸成に一役買ってきた通称“マンゲキ”。
マンゲキは、日本のお笑いを語る上で、決してスルー出来る存在ではなくなってきていると僕は思います。

なのでここで、改めてマンゲキとはどういう劇場なのか。
今後、どういうシステムに変更されるのか。
またそれに伴い、若手お笑いシーンがどういう状況になるのか。
今回の改革がもたらす意義などについても触れていきたいと思いますし、なるべく、知らない人や興味がある人向けに一から説明することを心がけていきます。


よしもと漫才劇場とは


まず、よしもと漫才劇場について軽く説明します。
二丁目劇場、baseよしもと、5upよしもとに次ぐ若手の劇場として2014年12月にオープンします。
場所は大阪難波、NGKの真向かいにあるワッハ上方というビルの5階です(5upよしもとと同じ)。

「“若手の劇場”ということは、大阪で活動している芸人全員がここに集まってるんか」と思われるでしょうが、そんなことはありません。
劇場メンバーとは、オーディションやネタバトルを通じて、勝った者だけが劇場に所属を許される人たち。
ここのライブに出られて初めてお給料が発生する、いわば“プロ”のお墨付きが手に入るのです。

しかも、テレビのオーディションや、賞レースの予選、あらゆる仕事なども劇場メンバーの特権。
なので、所属できていないオーディション組は、所属を目指して血眼になって頑張るのです。
これはbaseや5upなどの時代もそうです。
よしもと芸人として生計を立てるためには、劇場に所属しているかどうかが非常に大事なのです。


芸歴でカテゴリを分ける


マンゲキに変わる直前の5upは、芸歴が10年目までの芸人(当時のNSC27期)しか所属できない劇場でしたが、マンゲキになった瞬間何が起こったかというと、以前に若手の劇場を卒業したばかりの10年目以上の芸人も再び所属できるようになったのです。
少数精鋭といった感じではなく、芸人の母数が多くなってしまいました。

そこで劇場側は、「中堅(まあいうても全然若手)」と「若手」に線を引き、カテゴリを分けます。
それが現在につながる、極(きわみ)メンバー翔(かける)メンバーです(厳密に言えば、最初、猛(たける)みたいなやつもあったけど、すぐ終わった)。

NSC32期以上が極メンバー、NSC33期以下が翔メンバーといった形です。

「極ライブ」は、基本的に人気メンバーが出るものが多く、対して「翔ライブ」は、無名の若手の育成といったように、少数精鋭の劇場ではなくなった分、その代わりにカテゴリを分けた上で、ライブ自体にそれぞれ特性を持たせることにしたのです。


こういった形でマンゲキはスタートします。
お客さん側としても、すでに売れている人気者を見たかったら極、ネクストブレイクのフレッシュな若手を見たかったら翔、といった感じで、目的ごとに選べるようになりました。
なので、“応援する”という側面から、熱狂的なお笑いファンが翔メンバーにはつきやすいのです。


翔メンバーの歴史


育成の劇場、マンゲキ。
芸歴で線を引いて、若い芸人にいっぱいライブ経験を積んでもらって、時にはバトルを行い、ネタを磨かせていく。
という意味でも、マンゲキの歴史を語る上でのメインは、「翔メンバーの歴史」であるといっても過言ではありません。


スタート時のNSC33期以下の翔時代を第一期(2014~2019年)とします。
この頃の代表的なメンバーは、(以下敬称略)霜降り明星、ミキ、ニッポンの社長、ビスケットブラザーズ、マユリカ、さや香、からし蓮根、コウテイ、ゆりやんレトリィバァなどなど(全然まだまだいっぱいいます)。

他にも東京進出した組でいうと、コロコロチキチキペッパーズや、男性ブランコ、蛙亭も途中までは翔メンバーでした。

この時代は主に33~35期の芸人が人気を支えていました。

2018年10月の翔メンバー
※よしもと漫才劇場Twitterより


続いて第二期(2019~2023)に突入。
33、34、35期が極メンバーに変更になり、翔メンバーが36期以下になります。
ちなみに僕のコンビは、第一期のラスト1年くらいの時にメンバーに所属できたので、第二期のいわばオープニングメンバーでした。

この直近の4年で活躍し、世間的な認知度を高めたメンバーと言えば、カベポスター、ダブルヒガシ、天才ピアニスト、フースーヤ、爛々、エルフ(2022年に東京進出)などでしょうか。

第二期最初の方の翔メンバー
なんでそんなええとこおるねんw


そして今回発表されたのが、36~40期の翔メンバー卒業。
前置きが長くなってしまいましたが、今回のシステム変更は、翔メンバーの芸歴変更についてだったのです。


33期は芸歴8年目での卒業でした。
僕ら36期も「大体そのくらいで卒業なのかな」と思っていましたが、8年目はスルー。結果的に10年目での卒業になりました。
それもそのはずですよね。2~3年前はまだそこまで世間的に売れたとされる芸人がいなかったわけですから。



今回のシステム変更に思うこと



今回の翔メンバーのシステム変更について特徴を挙げるならば、

①7月いっぱいでの卒業
②36~40期の大幅卒業

といった感じでしょうか。

※よしもと漫才劇場noteより


前回のパターンは年度末、芸歴が変わるタイミングの3月卒業だったので、次にシステムが変わるタイミングも年度末だろうと思っていました。
夏はマンゲキ主催の夏フェスがあるので、そこからの切り替えなんでしょうが、正直びっくりしましたね。
まあ、M‐1の予選前ということもあるのか、どうか。

大幅卒業に関しては、「なかなかバッサリいったね」と思われがちですが、僕個人としては妥当なのかなと。
というのも、33期が翔トップになったのが大体5年目。
36期がトップになったのが6年目。
今回のトップは今年芸歴5年目の41期。
過去を振り返っても、芸歴の区切り的にはそこまで驚くことではないと思います。

まあただ単純に、36期が10年目に到達して前回より卒業のタイミングが2年分ずれたことにより、下を合わせると自ずと5期分の卒業になるので、39期や40期の若手たちが、若干しわ寄せを食らった感じはありますね。。

にしても必然の流れかなと。
それだけ41期が期待の世代になっているということもあります。
タイムキーパー、ハイツ友の会、cacao、三遊間、どんちっち、など。
まだ言っても世間的には知名度が高いわけではないですが、ポテンシャルは充分なので、翔メンバー第三期(2023~)として今後の若手を引っ張って行ってほしいですね。


翔GP、翔チャレンジバトルが持つ意味


翔メンバー、そして今回のシステム変更を語る上で、どうしても外せない重要なキーワードがあります。

それは、翔GP(グランプリ)翔チャレンジバトルです。



まず、前提から話します。

極メンバーと翔メンバーには、それぞれに所属メンバー全員総出演の2ヶ月に一回のネタバトルがあります。
極のそれが「グランドバトル」、翔は「翔GP」といいます。

2022年10月のグランドバトル
※よしもと漫才劇場Twitterより
第二期初回の翔GP。懐かしい
※よしもと漫才劇場Twitterより


このネタバトルの大きな意味合いとしては、成績上位者は舞台が増えたりすることや、仕事を優先的に振ってもらえたりするなどの特典があることです。
完全実力結果主義。結果を残せば仕事がもらえるという非常にシンプルな仕組みです。

そして、これらバトルの持つ意味がもう一つあります。
それが、劇場への昇格、または劇場からの降格が関係してくるということです。

翔GPの成績(客票と審査員票の合計)ワーストに入ってしまうと、オーディション「UP TO YOU!」の勝者組との入れ替え戦である、「翔チャレンジバトル」に回ってしまうことになるのです。
劇場メンバーの残留、オーディション組の昇格・劇場所属がかかった2ヶ月に一回のバトルは毎回白熱します。
約30組中上位10位以内(回によって違う)を目指して、激戦が繰り広げられるのです。

しかし、です。
極メンバーのグランドバトルには昇格はあるのですが、成績ワーストの組の降格はありません。
極メンバーは、グランドバトルで勝って劇場所属を勝ち取れば、半永久的に劇場から落ちることはないのです。
ただし、チャレンジバトルに比べて狭き門ではありますが(グランドバトルは全60組ぐらいの中の10位以内に入らないと昇格できないので、該当者なしの場合のほうが多い。めちゃくちゃ厳しい)。



ということを踏まえた上で、今回のシステム変更を考えてみてください。

現在の翔メンバーの体制では最後の翔GPが、6月10日(土)に開催されました。
36~40期のメンバーからすると、ここで下位に入らなければ翔メンバー卒業。そして8月以降、極メンバーへの移行が約束されます。
この時点で半永久的に劇場所属が決まります。

しかし、ここで下位に入ってしまうと、入れ替え戦である翔チャレンジバトルへの出演が決まります。
さらにその翔チャレンジバトルで負けてしまい、オーディション組に降格してしまうと、今後は極組として、狭き門であるグランドバトルを目指すことを余儀なくされるのです。

チャレンジバトルは7月13日(木)です。
36~40期の芸人からすれば、昇格を目指す者にとっても、残留を願う者にとっても、劇場所属が当分は約束される最後のチャンスなのです。
まさに、天国か地獄か。


「いや劇場に所属せんでも売れることは出来るやないか」
——その通りです。
「M-1で結果さえ出せば別にいいやないか」
——間違いないです。

ただ、日々レベルの高いライバルと切磋琢磨したり、大きな仕事をもらえたり出来るのは劇場しかないです。
モチベーションを保つことにもつながるし、売れるチャンスは劇場がある程度は与えてくれます。
劇場に所属していなければ、まずはそのスタートラインに立つことも難しいのです。

マンゲキ自体の知名度が上がっているので、業界人は面白い芸人がいないか常に注目しています。
世間の人が思うより、芸人のキャスティングボードとしてマンゲキの重要度は高いです。
まずここにいて初めて、自分たちのことを見てもらえるのです。

たかが劇場、されど劇場。

この戦いによって、自分自身の芸人としての歩みがどうなっていくのか。
決して大げさではなく、これは、人生が懸かっている戦いなのです。


その辺も考えながら、7月のチャレンジバトルを見てみるのも面白いのではないでしょうか。
芸人本人たちはもちろん必死でしょうが、一お客さん目線で言うと、そう思います。ドキュメンタリーです。


【翔GP全組感想】


ここからは、6月10日(土)に開催された、翔GPの全組のネタを観た感想を書いていきたいと思います。

今までお世話になった翔GPが僕らの世代最後の回ということで、配信チケットを買って観ました。
有料になるので、ほんまにマジで興味ある人だけ読んでください。


<出場メンバー>
第一部
【Aブロック】
キャツミ/遠足ダイスキタイム/風天ダスト/戦士
空前メテオ/爛々/例えば炎/ダブルヒガシ
【Bブロック】
タレンチ/ファンタズマ/とくいち/ソマオ・ミートボール
エナマキシマ/チェリー大作戦/ごぞうろっぷ/フースーヤ
【Cブロック】
盆と正月/どんちっち/イチオク/オーサカクレオパトラ
丸亀じゃんご/シスター/キングブルブリン/三遊間

第二部
【Aブロック】
ゆうらん飛行/ぺ/生ファラオ/釈迦虎/タイムキーパー
うただ/豪快キャプテン/たくろう/ジョックロック
【Bブロック】
ラムキンズ/ライムギ/ファンファーレと熱狂/オニイチャン
清川雄司/カベポスター/天才ピアニスト/バッテリィズ
【Cブロック】
真輝志/ウイスキーカノン/ぎょうぶ/フミ
ドーナツ・ピーナツ/翠星チークダンス/cacao/ぐろう



第一部

【Aブロック】

ここから先は

8,333字

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?