親知らずを抜いた日
“うがい薬とロキソニンと抗生物質を出しますね。うがいはしてもいいけど軽くにしてくださいね。血が止まらないといけないので。今夜の歯みがきは左側だけにしてくださいね。その時、口をゆすぐのも軽くにしてくださいね。明日は歯みがきをしてもいいですが、右側の抜いたところには当たらないようにしてくださいね。お風呂も長く入らないようにシャワー程度にしてくださいね。うがい薬は明日から使ってくださいね。3回の食後と寝る前に使ってくださいね。抗生剤は今夜の食後から飲んでくださいね。1時間後に麻酔が切れるので、痛かったらロキソニンを飲んでくださいね。
とにかく今日は安静にしてくださいね。”
これは、生まれて初めての親知らずを抜いたあとに先生から伝えられた言葉だ。
大事そうなことを一度にたくさん言われ、頭の中から溢れていきそうだから一番大事なところだけ覚えようと思ったけれど、ベスト of 大事がどれか決めかねているうちに話が終が終わり、全体的に浅い記憶になってしまった。
そこにアゴがあることすら忘れるほどの麻酔と、ついに抜いたという達成感、そしてこれからくるであろう痛みへの不安からか、ずいぶん動揺しているよう。
「とにかく今日は安静にしてください。」
とにかく私はこれを守り、とにかく明日からのうがい大事。
そんなところで動揺にけりをつけた頃、会計に呼ばれ受付に向かう。
「抜いた部分を消毒したいので、明日、またお越しくださいね。」
なんだ、明日来れるのか。明日以降の不安は今わざわざ背負う必要無かったじゃないのと安堵し、安静を手に入れるため早く帰ろうと家路に向かう。
時刻は夕方の18時、雨、金曜という週末。
帰り道はラッシュ真っ只中で、車がなかなか進まない。
ここからは麻酔が切れやしないかという不安を背負うことになる。
口には血の味。
吸血鬼は歯の抜いたこうゆう感じ好きなんやろか。
そんなどうでもいい分析をしながら、雨に滲む赤信号を睨み続けた。
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