MOMO4ロケット問答

7月13日・14日打ち上げ予定のロケットMOMO4号機に関して、SNS上で見かけた下世話系の疑問に対し、雑目に勝手に答える記事です。MOMO型ロケット全般に関する話に関しては過去の記事を参照してください。
※この記事を書くにあたり当事者への取材は一切行っていません。
※2019年7月24日更新

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・紙飛行機は燃えないの?

 「大気圏再突入で燃える」と知られている現象は断熱圧縮とプラズマです。断熱圧縮は運動エネルギーを持った剛体と空気が衝突することで熱が発生する現象であり、この熱により発光し「燃え」ているように見えます。またこの高温によって空気中の分子が電離しイオン化することで特徴的な火球となります。つまるところ燃焼(化合反応)ではありません。
 大気圏再突入時の断熱圧縮は剛体の速度が高ければ高いほど大きく、人工衛星の速度である秒速8km程では3,000度以上の加熱を受けます(空力加熱と呼びます)。小惑星探査機「はやぶさ」のサンプルカプセルは秒速12km程で大気圏へ突入し1万度程度の加熱を受けました。
 一方でMOMO型ロケットは高度110km程で秒速約150m程に過ぎず、そこから自由落下し加速しても、大気圏に衝突する頃には秒速1km程度がせいぜいですので、断熱圧縮で発生する熱は少なく、発光現象は起こりません。折り紙飛行機はMOMO本体よりも質量当たりの抗力が大きいため、早く減速するでしょうから、猶更でしょう。

 ちなみに放出機構は主にシリンダーとシャッターで出来ており、シャッターを開いてから折り紙飛行機を押し出すという形で動作します。シャッターの上にはカメラが付いており、送受信に成功すれば放出時の映像が見られる事になるでしょう。

 国際宇宙ステーションから放出する計画であった折り紙ヒコーキには紙繊維のガラス化処理が施されました。興味がある方はこちらへ。
「極超音速風洞での折り紙ヒコーキ公開実験」
http://www.oriplane.com/ja/photo/20080117jk-r.pdf

・宇宙にゴミを出すな

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 MOMO型ロケットはサウンディングロケットというジャンルのロケットで、秒速2.6kmほど加速する能力があり、その殆ど全てを重力に抗って高度を上げる事に使いますので、高度100km超の最高到達高度付近では秒速100m程の速度まで低下します。
 地球低軌道へ人工衛星を投入できるロケットは秒速10kmほど加速する能力を持ち、高度500kmの円軌道の場合は秒速7.6kmほどの速度を与えなければなりません。
 MOMO型ロケットの到達高度と到達速度は人工衛星になるのに必要な量を満たしていませんので、上昇後必ず落下してきます。故にスペースデブリにはなりません。なれません。

・衛星も打ち上げられないロケットなんて意味ない

 MOMO-F4フライトでは高知工科大学のインフラサウンドセンサーを搭載します。装置自体の改良は加えられるものの、実験内容はMOMO-F3フライトと同様と思われます。実験の概略について以前動画を製作しましたのでこちらをご覧ください。インフラサウンド自体は応用範囲の広い分野ですので思いもよらない形で恩恵を受けられるかもしれません。

 最近の海外のサウンディングロケットの実績として、2019年6月25日にスウェーデンからVSB-30 ロケット(ブラジル産)が打上げられました。弾道飛行で微小重力環境を作り、グラフェンの自己組織化を観察する事が主ミッションです。この研究によりグラフェンの基本的な特性の理解が進み、地球上でのグラフェンを用いた加工や、長期宇宙ミッション時に宇宙でグラフェンを用いた機器を作製する技術への応用が期待されています。
 https://www.cam.ac.uk/research/news/graphene-goes-to-space
 そのほかにも観測ロケットを欲している実験は生物科学分野などで多数あり、実験者側は順番待ちをしている一方、JAXAは年間たったの数機、数百kgのペイロードしか受け入れておらず、国内の研究ニーズさえ全く満たしていないのが現状です。

・日本酒で飛ぶのか?

 燃料として使用される酒は平和酒造-紀土、アルコール度数15です。これを蒸留しエタノール分のみを添加する計画です。

 添加したのは、平和酒造(和歌山県海南市、山本典正社長)の日本酒「紀土(きっど)純米大吟醸 宙(そら)へ!!」。一升瓶3本分(5・4リットル)を蒸留してアルコール度数を85度まで高めた70ミリリットルを、山本社長がエタノール充填(じゅうてん)用タンクへ慎重に注いだ。
(十勝毎日新聞)
https://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:MHpUEhMInGYJ:https://headlines.yahoo.co.jp/hl%3Fa%3D20190713-00010000-kachimai-hok+&cd=1&hl=en&ct=clnk&gl=jp


 MOMO型ロケットの燃料搭載量は約410L(液体酸素は430Lほど)ですので、燃料のうち0.017%程度が日本酒由来ということになりそうです。

・酒/コーヒー豆/ハンバーガーが勿体ない

 わかる。「打上げるなら食わせろ」という気持ち超わかる。ただ同じ事思ってる人はたぶん何百人も居るので、抜け駆けは許しませんよ。
 これに関しては記者会見で株式会社朝日新聞社記者が質問をしていて、各社回答しています。

 詳細はNECOVIDEO VISUAL SOLUTIONS. (NVS)の記者会見アーカイブを見ていただくとして、ざっとまとめると、嗜好品の本旨は楽しさや喜びの創造であって、宇宙の夢やロマンやロケット開発に興味を持つ人や応援する人が増える事に価値がある。また良い商品も知られなければ価値が付かないので知られる事に価値があるし、知っているだけで日常が豊かになる面もある、といった内容です。物やお金だけでなく気持ちや価値観も併せて動かすのがサービスというものですよね、という至極真っ当な論だと思います。

 MOMO-F4の本件とは別のプロジェクトになりますが、コーヒー焙煎ポッドをサブオービタル軌道へ打上げ、再突入させることで空力加熱により焙煎するというアイデアがあります。ただし、このプロジェクトの宣伝文句「豆を無重力で完璧なローストに」には少々問題があります。断熱圧縮が発生する状態では所謂「無重力」ではなく、地上の数分の1から数倍の加速度がかかりますので、事実とは異なる誇大な表現といえます。不適切な商品説明は折角のサービスに傷が付くというもの。
 とはいえ面白いアイデアですね。
https://news.yahoo.co.jp/byline/akiyamaayano/20190129-00112850/

・パパ活アプリ草生える

 「ペイターズドリームMOMO4号機」はネーミングライツを取得した株式会社ペイターズにより名づけられました。株式会社ペイターズの主な事業は出会い系アプリ「paters」であり、その実態からパパ活アプリと呼ばれています。ほらそこ。PAPA4号とか言わない。
 2018年4月に堀江貴文さんのYoutube公式チャンネルにてPR番組が投稿されました。この際の縁でネーミングライツ獲得ということになったと推測されます。

http://www.istellartech.com/archives/1929

・ミッションてんこ盛り

 「ペイターズドリームMOMO4号機」では2件の1件の科学観測と6件のスポンサーペイロード輸送という7つのミッションが混載されています。ネーミングライツとYoutubeのNVS放送履歴以外にちゃんと紹介している所が無いのでここに纏めます。

・ミッション1 折り紙飛行機の放出(株式会社キャステム)

 高度100km以上で3機の折り紙飛行機を放出します。扇子のような形であることと、江戸時代に生まれた遊戯「投扇興」になぞらえて「宇宙扇」と呼称されています。実現すれば、折り紙飛行機の最高飛行高度、最高飛行速度など幾つかの世界記録を同時に更新できるものと考えられます。
 MOMO型のシステムは、最終カウントダウン以降のロケットの制御を全自動としており、人間が介在できるのは緊急停止のみという形でした。しかし今回の折り紙飛行機放出は地上からの指令(放出ボタン押下)により行われるという技術的チャレンジの面もあります。

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真似て折ってみたところ、見た目以上によく飛びました。

 「宇宙品質にシフトMOMO3号機」の飛行では燃焼終了後に姿勢制御を完全に失い、空力と酸素タンクからのベントによって機体が激しく回転してしまいました。今回は「宇宙扇」の放出をカメラ撮影しますので、前回のように回転されてはちゃんとした映像になりません。また地上で受信できた映像は途切れ途切れであり、この辺りが解決されているかどうかも見ものです。


・ミッション2 日本酒の燃料使用(平和酒造株式会社)
 前述したとおり燃料の一部に「紀土 純米大吟醸」 1升から蒸留して得たエタノールを使用します。
 燃料に使用されるものと同ロットの「紀土 KID 宙へ!MOMO4号機応援 純米大吟醸」は売り切れ店が多いものの、探せばまだ買えます(2019年7月3日現在)。
 別ロットとなりますが「紀土 純米大吟醸」を呑める飲食店は以下のサイトから検索することができます。
BIGLOBE旅行
https://travel.biglobe.ne.jp/restaurant/2141/keyword/0031/
※日本酒の在庫は水物ですので店舗へ行く前に確認を。

・ミッション3 インフラサウンド観測(高知工科大学,総合研究所,インフラサウンド研究室)
 高高度での超低周波音の伝わり方を研究することで、離れたところで起こった現象の観測精度が向上し、防災や科学調査の精度向上に繋がる事が期待されています。高知工科大学インフラサウンド研究室は主に津波の早期警戒網構築と観測精度の向上に寄与する研究を行っています。未来の話になりますが、火星探査においてもインフラサウンド観測によって遠方で起こるイベント(ガス噴出など)をとらえるという案も示されました(火星地表の気圧は地球の高度30km程度に相当します)。
 科学実験は様々な条件での観察を積み重ねることでデータの精度が担保されますので、今回の反復実験となります。
https://www.kochi-tech.ac.jp/research/research_center/infrasound.html
 インフラサウンドを利用した観測は既に実用化されており、対象は火山・氷河・隕石など様々です。軍用では核実験監視や潜伏ヘリコプターの探知、発砲方位探知といった応用がなされています。

・ミッション4 コーヒーお届け(株式会社サザコーヒー)
 焙煎コーヒー豆「パナマ・ゲイシャ」が200g搭載されます。「パナマ・ゲイシャ」は世界で最も高い点数が付いた経歴と、世界で最も高い値段が付いた経歴を持つ品種であり、今回は2018年の品評会Best of Panamaナチュラル部門優勝ロットが搭載されます。買い付け価格は1ポンド803ドル(19,066円/100g)。焙煎豆の小売価格は一杯19gで12,000円とのこと。
 うーん。お高い。最高価格ロットや最高得点ロットに拘らなければ、東京近郊の店舗で飲めます。
http://www2.enekoshop.jp/shop/coffee/

・ミッション5 ハンバーガーお届け(株式会社GROSEBAL)
 前回「宇宙品質にシフトMOMO3号機」には「とろけるハンバーグ」が搭載されました。引き続き今回はロケット打ち上げ地である大樹町の株式会社坂根牧場とコラボした「とろけるチーズハンバーガー」が搭載されます。
 レストラン「バーガーズカフェグリル フクヨシ」にてハンバーガーのデリバリーを行っていることから、今回は宇宙へお届けという運びになったようです。
https://grosebal.jp/
https://www.torokeru.jp/

・ミッション6 メガネお届け(OWNDAYS株式会社)
 前回「宇宙品質にシフトMOMO2号機」では打ち上げスタッフのメガネを提供する形で関わったOWNDAYSの再登場です。今回は「AIR Ultem」メガネを搭載し、民間プロジェクト初の宇宙空間へ到達したメガネとなる事が企図されています。
 「AIR Ultem」のフレームにはULTEM™樹脂が使われています。ULTEM™は宇宙分野でも使用される高性能であり、成型加工の自由度も高い素材となっています。
https://www.owndays.com/jp/en
https://www.owndays.com/jp/ja/information/20190626

・ミッション7 ひふみろ君お届け (レオス・キャピタルワークス株式会社)
 MOMO-F2からF3まで機体に顔が描かれていたひふみろ君は今回ぬいぐるみになって搭乗します。「ひふみろ」はレオス・キャピタルワークス株式会社の投資商品「ひふみ投信」のマスコットキャラクターです。
https://www.rheos.jp/

・全体として
 今回メインのインフラサウンド観測ミッションは高度50km前後での観測が最も研究的に美味しいところであり、宇宙空間(高度100km)への到達は少々オーバースペックとなっています。他のミッションは宇宙空間への到達を前提または目標としており、良く言えば相乗り、悪く言えばミスマッチです。
 インフラサウンド観測に特化するのであれば到達高度を下げた方が良いのですが、MOMO型ロケットの高度100kmへの到達実績を積み増したいという意図との兼ね合いで今回のフライトとなったのでしょう。
 前回のフライトでは予定着水地の中心点から13kmほど手前へ着水しましたので、今回は少し軌道を寝かせて到達高度を下げるとともに飛距離を伸ばす方向のようです。

・打上げが見たい

 最短で羽田から3時間程度の道のりですので、工夫をすれば1泊程度で観覧できる可能性があります(ロケットの打ち上げは水物。運次第です)。
 レンタカーで公式観覧所へ行くか、公式バスツアーで参加する方法に分けられます。
 現地ではこれまで毎回観覧イベントが開催されており、多目的航空公園(射点から約1.5km)は無料では観覧できます。ここから直接射点を観る事はできませんが、これまでは大型モニターが設置され補完されていました。MOMO-F4では手配の都合からモニターが無く、ウェブ生中継に頼る事になりそうです。
 有料の観覧場は約4km離れており、予約制です。

・生放送はないの?

※以下は7月20日以前の情報です。7月27日ウインドウの生放送に関しては7月24日時点で不明です。

 NECOVIDEO VISUAL SOLUTIONS.による中継番組です。NVSは有志によるメディアであり、脚色が非常に薄い点が特徴です。日本の既存メディアではありえない無編集映像を観ることが出来ます。
 前回MOMO-F3では遠景で生中継を行い、後に近景の映像も公開されました。Youtubeのチャットにて参加する事が出来ます。
 
http://blog.nvs-live.com/?eid=591


 十勝毎日新聞社による中継番組です。脚色の薄い放送ながらも、商業メディアらしい見やすい画作りが特徴です。
 前回MOMO-F3では近景及び遠景のカメラを切り替える形となっており、離床前の機体を大きく見られました。
 こちらもYoutubeのチャットにて参加する事が出来ます。
https://kachimai.jp/feature/ist-momo4/

https://www.youtube.com/watch?v=GIfFAKL70dY

・ロケット繋がり

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画像は「第34回モデルロケット全国大会」のNVS中継映像より。

 関東地方のイベントとなりますが、モデルロケットの打ち上げ会「ロケットランチ2019(特定非営利活動法人 日本モデルロケット協会)」が7月20日に開催されます。基本的にはモデルロケット競技者向けのイベントですが、無料または有料の体験打上げもできます。見学無料です。
https://www.ja-r.net/rocketlaunch.html

 近年秋には「ロケット交流会(特定非営利活動法人有人ロケット研究会)」が開催されています。今年も開催されるか等は2019年7月1日現在未発表です。去年は日本科学未来館にて開催され、一般にも公開されました。
http://manned-rocket.jp/

 クラフト系が好きな方、ロケットや探査プロジェクトを作って遊べるゲームはいかがですか?宇宙開発のプロジェクトレベルから運用レベル・技術レベル、数学や物理学までの繋がりを実際に触って体感できます。遊んで楽しいだけでなく、お子様の教育目的にも活用できる素晴らしいソフトです。

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https://sorae.info/02/2019_06_01_kerbal-space-program.html

・権利表記

イラスト素材:かわいいフリー素材集 いらすとや
 https://www.irasutoya.com/

画像引用:NECOVIDEO VISUAL SOLUTIONS.
 Take-Two Interactive Software, Inc.

その他Youtubeより動画引用

・参考ページ


https://www.coffeeclub.co.jp/umai/
http://iss.jaxa.jp/iss_faq/go_space/step_5.html
https://www.yumoto.jp/material-onepoint/plastic-pei

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