見出し画像

はじめから全速力で走るのは置いていかれないようにするためだよ

繋ぎ止めておきたいな、と思うことがよくある。私の好きな人たちの心に、いつでも好きな時に触れさせてもらえるように。

ただの友達では少し遠い。でも、私の人生の責任を取って欲しいなんてそんな厚かましいことは当然言えるはずもないし、言うつもりだってない。

型にはめようとしている。あの人を繋ぎ止めておくために、私は自分の輪郭を少し溶かして、無理やり「恋人」の形をした鋳型に流し込んでいるのかもしれない。それはたぶん、ひどく不毛なことなのかもしれないけれど、他にこれといった方法が思いつかないというのもまた事実だ。

私は自分のことを進んでカテゴライズしないようにしている。厳密に言うと、アセクシュアルだとか、そういうジャンル分けの言葉にこだわらないようにしている。

自分の本当の気持ちなんて、自分にだって分からない。分かっていることは、私が男性も女性も好きになったことがあって、しかしその人に対して唯一無二の感情を抱いた訳ではないということだけだ。

不器用な毎日。分からない気持ちを飲み下そうとする日々だ。置いていかれないように、はじめから全速力で走る。私がことあるごとに「結婚」を意識してしまうのも、多分このスタートダッシュ癖のせいだ。「結婚」してしまえば、置いていかれることもない。そんな希望的観測に縋っている。

本当のところ、多分別に結婚なんてしなくてもいいのだ。好きな人たちとたまに会って飲んで「最近何してんの?」なんて他愛ない会話を繰り返せればそれでいい。それって十分に幸せなことだ。

でも、いつかは、みんな私を置いていく。そんな風に考えてしまう夜が確かにある。自分だって誰かのことを好きだって気持ちを真の意味では理解できていないのに、自分の傍から人が離れていってしまうことを寂しく思ってしまう。

私は彼と「恋人」でなくなっても、いっとう気の合う特別な友人でいたい。でも、もし彼がこの先私以外の誰かを好きになったら、そのままの関係性ではいられないような気がしている。

だから、私はやっぱり全力で走る。置いていかれないように、先回りするために、根性のない足腰で走る。

それで息切れしたら何にもならないじゃんね、ともう一人の私が言う。そうだね、そうだけどね。それでも、身勝手な思いのまま、繋ぎ止めていたいのだ。

読んでいただいてありがとうございます。 私の言葉や文章が少しでもどなたかの目に留まって、「ああ自分とおんなじことを考えてもがいてる人がいるなあ」とか「悩みながら何とか生きてるんだなあ」とかそんな風に思ってもらえたらとても嬉しいです