R5予備試験憲法

こんにちは。おぐんすと申します。この度、R5予備試験に最終合格いたしましたので、各科目の再現答案及び分析を載せようと思います。

憲法はA評価(予想B)でした。所要時間は60分で、2.5枚程度でした。

第1 Xの主張
1 まず、「職業の秘密」とは、職務上重要な秘密で、それが知られると以後職業の遂行が著しく困難になるものをいう。乙に対するインタビューでは、名前を仮名にすること及び画像と音声を加工することを条件に行われている。そのため、インタビューに応じた者の名前を証言すると、その条件に違反することになる。このことが広まると、以後Xのインタビューを忌避する者が現れるおそれがあり、ジャーナリストとしての職業の遂行が著しく困難になる。したがって、「職業の秘密」に当たる。
2 また、そのような影響が出ると、Xの取材の自由が害される。ここで、報道は編集という知的作業を経る点で送り手の表現活動といえ、21条1項の表現の自由の一環として保障されるところ、取材は報道の不可欠の前提であるから、取材の自由も同項により保障される。そして、証言拒絶が認められれば、このような憲法上保障される重要な利益が保護されるから、証言拒絶により得られる利益は大きい。
 これに対し、仮に証言をしても、甲が得られるのは金銭的な利益のみであり、重要な利益とはいえない。
3 したがって、比較衡量上、証言拒絶によりXが得る利益が証言により甲が得る利益を上回っており、証言拒絶は認められる。
第2 甲の反論
1 そもそも、仮にインタビューに応じた者の名前を証言したとしても、Xが積極的に証言したわけでもなく、これにより将来インタビューを忌避する者が現れる可能性は低い。そのため、Xの職業の遂行が著しく困難になるとはいえず、「職業の秘密」に当たらない。
2 仮に当たるとしても、判例によると、取材の自由は十分に尊重に値するにとどまるから、憲法上保障されているとまではいえない。そのため、Xが証言拒絶により得られる利益は大きくない。
 これに対し、Xの動画により、濫開発による森林破壊に加担しているとして甲の製品の不買運動が起こるなど、甲は甚大な被害を受けているから、単に金銭上の利益であるとしても上記Xの利益に比して大きいといえる。
3 したがって、証言拒絶は認められない。
第3 私見
1 まず、「職業の秘密」に当たるか。
 X主張の通り、インタビューに応じた者の名前を証言すると、これを見た者が自身の名前が公表されるのをおそれ、以後Xの取材に応じなくなる可能性がある。そして、XはB県を拠点にしているが、B県政記者クラブへの入会を認められていないフリージャーナリストである。そのため、B県庁やB県警の記者発表に出席することができない。そうだとすれば、Xの記事や著作の元となるのは市井の取材であることがわかる。また、Xの発表の場は主にインターネットとなり、広告料によって収入を得ている。そしてXの動画は若い世代を中心に関心を集め、インフルエンサーとして認識されつつある。このことから、Xの職業の遂行は、一般人の評価が基礎になっているといえる。そうだとすれば、少しでもインタビューを拒否する者が現れれば、Xの職業は立ち行かなくなるから、インタビューに応じた者の名前は、職務上重要な秘密で、それが知られると以後職業の遂行が著しく困難になるものといえ、「職業の秘密」に当たる。
2 次に、判例は、「職業の秘密」に当たるとしても、比較衡量上、証言拒絶により得られる利益が証言により得られる利益を上回る場合に限り証言拒絶を認めているから、以下検討する。
 X主張の通り、証言拒絶をすれば取材を拒否する人は現れないから、取材の自由という権利が保護される。たしかに、判例では十分尊重に値すると述べるにとどまるが、取材は報道の不可欠の前提であるから、憲法上保護されると考える。そのため、かかる権利は極めて重要である。また、Xは乙が家族と住む自宅に執ように押しかけ、工房経営に悪影響が及ぶことを匂わせ、強く迫っている。しかし、これは脅迫罪に当たるというわけでもなく、乙が特定されない加工も施しているから、なお上記重要性は低下しない。
 これに対し、証言により甲は乙に対し損害賠償請求ができるが、これは単なる金銭的利益であるから重要性は低い。また、Xの取材は、昨今注目されているSDGsに資する意義のあるものであることを考慮すると、甲の利益は重要とはいえない。
 したがって、比較衡量上、証言拒絶により得られる利益が証言により得られる利益を上回る。
3 よって、証言拒絶は認められる。
以上

-解いていた時の状況-
・行政法から解き始めたのだが、憲法に取り掛かった時には残り60分で焦った。しかも単純な目的手段審査が使えなさそうな事案だったので、F覚悟で民訴の論証を展開した。流れを忘れて混乱するのを避けるため、簡単なメモを書いてから答案を書き始めた。

憲法の問題文の下に書き殴ったメモ

・取材の自由につき、「尊重に値する」という判例の立場と「保障される」という自説の対立を瞬時に思いついたのは我ながら冴えていたと思う。これを軸に主張反論構造を描くことができた。最後の方は時間がなくてSDGsのくだりを甲の利益のところで無理やりねじ込んだ。本来はXの取材の重要性の中で論じるべきだったと思う。


-評価されたポイント-
・形式面で劣らなかった点。多くの人の再現答案を見たが、目的手段審査で書いていたり、三者間の形式を無視したり、問いに答えていないものが相当数あった。判例の判断枠組みに沿って、三者間形式に乗せて書くだけで他の人と差を付けられたと思う。ちなみに判例は民訴の論証として押さえていたが、これを知っていたとしても憲法でその論証に乗せて書く勇気が出なかった人もいたと思う。特に1日目の初めの科目で無難な答案で済ませようとする気持ちは非常に理解できる。ここで勇気を出せた過去の自分を褒めたい。

・事実引用を徹底的にした点。拾っていない主な事実は「乙の工房が間伐材を活用したエコロジー家具を取り扱っている事実」と「マスコミ各社が後追い報道を行って事実」くらいだろう。憲法だけでなく予備試験は事実ごとに点数が振られているため、引用すればするだけ点数が伸びる。憲法は全体の6割でも引用できれば合格ラインには乗るだろう。


-足りなかったポイント-
・証言により得られる利益の検討が不十分な点。甲の利益は金銭的利益であることを終始繰り返しているが、これはそれ以外の主張が思いつかなかったからであり、意図的に強調しているわけではない。ここを深く論じられれば特Aだったかもしれない。


-科目分析-
・憲法は、①具体的事実に即して論じること、②評価の方向性を誤らないことの二つが重要であると感じている。
①具体的事実に即して論じる
 例えば、あなたは表現の自由の権利の性質を「自己実現の価値と自己統治の価値を有しており重要である」と書いていないだろうか。これでは抽象論に終わっており具体的事案に則した論述とは言えない。これを一歩踏み込んで「表現行為を通じて自己の人格を発展させるという自己実現の価値と、民主政の過程に資するという自己統治の価値を有する重要な権利である」と書いたとしよう。これは具体的事実に即していると言えるだろうか。答えは否。これは自己実現の価値と自己統治の価値の中身を説明しただけである。
 では、本問で書くとしたらどのようになるか。現場ではここまでは書けないとしても、理想では以下のようになろう。「Xの取材は環境問題に鋭く切り込む動画作成の基となる点で、Xの環境問題への関心という内面を発展させるものとして自己実現の価値を有する。また、Xの取材はSDGsに資するため、昨今問題となっている環境問題へ一石を投じるという側面を有し、民主政の過程にも資するため自己統治の価値も有する。」
 ここまで書いた方がいい理由はつまるところ、本件の特殊性を理解していることをアピールする点にある。例えば、Xの取材が芸能人の不倫問題だったら自己統治の価値はあるのだろうか。このような他の事案と区別するために、具体的事実に即して書く必要があるのだ。
 
②評価の方向性を誤らない
 評価の方向性を誤らないとは、致命的な評価をしないことと、評価に一貫性を持たせることを意味する。
 本件では、XはB県政記者クラブへの入会を認められていない。この事情を、自分は「Xの記事や著作の元となるのは市井の取材である」と評価した。一般人が取材を拒否すればXの仕事が立ち行かなくなることを導くためである。しかし、当該事情に対しては、Xはジャーナリストとしての地位を社会的に認められておらず、Xの取材は取るに足らないものだとの評価も考えられる。実際にこのような評価もあり得るかもしれない。ここにその人の憲法的感覚が表れるのだろう。一般に「センス」と言われるものの正体である。センスがある人は致命的な評価や論理矛盾を無意識に避けることができるが、センスがない人は自分でも気付かないうちにこれを犯してしまう。

・①は得点を積み重ねるために、②はFを取らないために意識していくと良いと思う。


-これからの憲法対策-
・2年連続で判例を踏まえた論述が求められているが、実際には判例の判断枠組みを無視した答案でもAは付いている。そのため、判例学習に特化した勉強方法は得策ではなく、事実引用やその評価の仕方に主眼を置いたアウトプット中心の勉強法が最もコスパが良いと思われる。
・問題を解くときは自分が事実引用できたのが何割だったかを確認し、6割を超えていれば及第点、8割近く引用できていれば理想くらいのイメージを持つと良いと思う。

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