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あなたへ

「行ってらっしゃい。」

私は玄関で息子に声をかける。

あなたは
時に行きたくないと泣き、時に笑顔で、時に無言で目も合わせず
しかし少しずつ大きくなる手を小さく振って消えていく。

そんな当たり前の毎日が、高校を卒業し就職するため私の元を離れる18年と8ヶ月と22日目、最後を迎えた。


今日、この玄関から言える「行ってらっしゃい」が最後だと知っていたはずなのに、いざその日になった時、改めて沸き立つ寂しさの中で

社会へ途立つ息子の背中は、1か月前フライング気味に天国へ途立った夫の背中を思い起させた。


僅かな家具を残し広くなったあなたの部屋と同じように
私の「母心」という部屋には、ぽっかりと広い空間が出来てしまったが

あなたという命の出会いからの数限りない思い出が私を支えてくれる。

もっともっと
大きくなっておいで。

でもたまには
無愛想に「ただいま」を言いに来てもいいんだよ?


「じゃあ、行ってくるよ。」

「行ってらっしゃい。」

読んでいただきありがとうございました。これをご縁に、あなたのところへも逢いに行きたいです。導かれるように。