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求人広告と労働条件の乖離

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中途採用者の求人広告を掲載し、それを見て応募してきた求職者と面接を行いましたが当社が期待していた能力よりもやや劣るため求人広告よりも少し引き下げた労働条件にて本人と労働契約を取り交わしました。
しばらく勤務した後、本人が求人広告と相違する労働条件は違法である為、広告記載の額まで給与を引き上げるよう求めてきました。応じなければならないのでしょうか?

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求人広告はそれをみて応募してきた求職者に対し求人者が選考を加えて採用を決定するという一連の過程の第1段階に位置づけられています。

雇用契約の申込みに該当するのは求職者から求人者に対する応募行為であり、求人広告それ自体は、申込みの勧誘にすぎないと解すべきことになりす。
つまり、求人広告は個別的な雇用契約の申込みの意思表示とみることはできませんのでので、ご相談のような求人広告を出したことのみを理由として広告通りの給与を支払う義務は生じません。(日新火災海上保険事件 東京高裁 H12.4.19)

また、職業安定法42条及び5条の3によれば、「求人広告等により労働者の募集を行う者は、的確な表示により労働条件等の明示をおこなわなければならない」とされていますが、求人広告の段階で入社後の賃金を労働者の技能等に合わせて確定的に記載することは難しく、諸般事情から実際に支給された額が求人広告の内容を下回っていたとしても直ちに同法違反とはならないものと考えられます。

但し、実際の給与が求人表記載条件を下回ることが予め想定されていたにもかかわらず求職者の反応率を高めるために過剰な労働条件を記載したのであれば、故意に虚偽の条件を明示したとして同法違反となり罰則が科せられることもあります。

一方、信義則の問題で考えれば、求人広告に記載された賃金見込額が受けられると期待して応募した求職者を裏切ることにもなりますから、求人広告を下回る労働条件を提示して労働契約を締結しようとする際にはそのギャップの根拠を誠実に説明し十分な納得を得た上で契約することが望ましいのは言うまでもありません。


〔三浦 裕樹〕

Ⓒ Yodogawa Labor Management Society


社会保険労務士法人 淀川労務協会




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