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説諭の仕方の違い

イケメン刑事
 ルン・ルン・ルン。

 抜けるような青空の下、210フリーウェイを走っている。
 今朝方、知人から購入した真っ赤なSAABが運ばれて来た。3年経った中古車だがターボ付き。早速、210フリーウェイに試し乗りに行く。この道路はロサンゼルスのダウンタウンと反対方向の東に真っ直ぐ向かっていて、眺望が良く、私の好きな道。試し乗りにはうってつけの道だ。

 これぞカリフォルニアの空と言える晴天の日の午後で、あまりの気分の良さにいつの間にか時速110マイル(176キロ)になっていたようだ。
 片側3車線で道路は新しく、道路の整備状況は非常に良く、他の車は殆ど見当たらない。SAABはブオーとターボ全開で機嫌良さそうに飛ばしてくれている。車外の景色は右は緑の丘が続き、左には見渡す限りの平野で所々には乾燥したブッシュの塊が転がっている。身体全体がカリフォルニアを満喫していた。
 20キロメートルほど爽快に走った。と、突然、背中の方からサイレンが聞こえて来た。目を上げるとバックミラーにくるくる回る明るいブルーのフラッシュライトがミラーいっぱいに写っている。車が少し後ろに離れると車内の男性が指で横に止めろと示しているのが見えた。
 やられた!とアメリカの高額な交通違反金額が頭をよぎる。ゆっくりとフリーウェイの傍らに車を停めて静かに待つ。白とブルーに彩色されたパトカーから白人の男の人が降りて来た。髪の毛は陽光に輝く金髪、背丈は180センチは超えていて、濃いサングラスを掛けている。近づいて来て、ダッシュボードが見えるドアの後ろ側に立ち、低い声で
「外に出なさい」
と言う。
 私は両手を挙げて何も持っていない事を示しながら(アメリカではこの仕草は重要)ドアから身体を滑らし、静かに車の横に降り立つ。すると、その白人はサングラスを外し、落ち着いた口調で話し始めた。
「何故、そんなにスピードを出していたのですか?」
と聞く。
 心臓の鼓動が早まってはいたが、怖さは全く感じられない、と言うより、実際は動揺して何を話しているのか?頭に少しも入って来ない。その理由は……
目の色は美しいスカイブルー、鼻筋がとおり細面、口は少し大きめで微笑んだ歯は真っ白。長い脚と引き締まったボディー。まるまるアメリカ映画の白人の超イケメンスターだ! 
 それでも私はつたない英語で何故、スピードを出していたか?を一生懸命説明し始めた。
経営していたCDストア「Opus」の経営状態が悪化したため、渡米後にすぐに購入した緑色のキャデラックを売り、シルバー色のオンボロフォードに乗り換えた。その後、臨時収入があったのを機に中古のSAABに買え変えたのだった。オンボロフォードはアクセルを思いっきり踏み込んでもせいぜい60マイル(96キロ)出るのみ。飛ばし好きだった私にとっては不完全燃焼の日々。ターボ付きのSAABは嬉しくて足は自然とアクセルを踏み込む。3000回転を超えた辺りからドドド~とターボが効きスピードが増す。モモ(MOMO)のハンドルにレカロ(RECARO)の椅子。背中が椅子にピッタリと付いて来る。警官には
「以前の車は古くてスピードが出なくて、これは買ったばかりの車で、とても運転が楽しく、スピードオーバーになって……」、
と言い訳をする。
 少しの間、黙って聞いていた警官だったが、
「OK。もう、分かった」
と彼は私の話を遮り、言った。
 「私は刑事だ。だから今日はスピード違反は取らない。でも、あなたはこのまま運転していたら、近い将来、きっと誰かを傷付ける、また、自分も病院に行く事になるだろう。だからそのスピードで運転するのをやめなさい」
と諭すように言う。
 私の前に立った警察官は刑事(detective)だった。つまり、交通警察官(Traffic police)ではなく、犯罪を取り締まる警察官だ。
 ただ、日本とアメリカの説得の仕方の違いに驚愕し、
「なるほど~!」
とスピードオーバーの悪害がすんなりと頭に入り、そして納得する。

説諭の仕方が超ニクかった!

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