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冷めてもおいしいコーヒー

冬が近づいてくると、「そういえば、コーヒーが冷めるのもはやくなってきたなあ」ということを、ふと思ったりします。こればっかりは、逆らうことのできない移ろいです。でも、そのせいで気ぜわしくなるもの嫌なので、「冷めてもおいしい」ということを、店の味としてすごく大切にしています。焙煎もブレンドも、まずはそういう「味」から考えます。

誤解を恐れずに言えば、当店は「香り」に重きを置いていません。どうでもいいというわけではなく、「味」をつくっていく中で自然と付いてくるもの、くらいに思っています。ご近所から夕飯の支度のにおいがして、たとえば玉ねぎを炒めるにおいや、揚げ物をチンするにおいがとても魅力的で、でもそれはその「香り」をつくろうとしたものではなく、おいしく食べようとした中で漂うもの。それと似たような感覚です。

コーヒーにとって、「香り」は第一印象になります。「味」は飲むまでわかりませんが、「香り」であれば、たとえ豆の状態であっても、「こういうコーヒーです」という名刺代わりに使うことができます。そこをしっかり仕上げることも、もちろんひとつの「おいしさ」です。

でも、豆を焼いていると、「香り」をとるならココだろうけど、「味」をとるならココだなという手ざわりが、たしかに存在します。そして、第一印象を妙に繕おうとした場合、「冷めてもおいしい」からは、少し離れてしまう傾向があります。これはなかなか面白いです。

「地味」という言葉は、響きとしてはおいしくなさそうですが、そういうことを大切にしているときの方が、結果的に長くおいしい味になるという実感があります。そしてもちろん、そういうコーヒーはそういうコーヒーで、いい香りだなあと思います。どちらかといえば日常的で、安心するような香りです。

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