身体尺という概念が面白いって話

※いつにも増してマニアックな話です。

大学の後輩の卒業制作公演を見に行きました。
タイトルは『身体尺~body scale~』。ダンス公演です。
論文のテーマは知らないですが、人体やその機能を用いて測られる長さの単位(身体尺)を手掛かりにその思考/試行を動きに変換した作品でした。

これはあとからwikiで調べたことですが、尺とか坪とかインチとか現在ではメートルで数値が明確に定められている単位も、元は人間の身体(手の幅とか指何本分とか)が基準になってるんですね。

この身体尺ってのは建築の世界でも多く用いられるそうです。伝聞なので不正確だったらすみませんなんですが、廊下の幅や戸棚の高さみたいなものは人間の身体を基準に設計されているそうな。確かに、舞台セット建てる時も未だに尺貫法を使いますものね。

んで、それを身体の動きに変換する(以下便宜上、ダンス化すると呼びます。)とはどういうことか、って部分なんですが。

その公演は、いくつかの小作品(段落)で構成されていました。いくつかの作品は、自分の身体の一部を定規のようにして任意の物質や自他の身体、あるいは空間を計測するところから始まります。その動きが段々と本来の「測る」という目的から離脱していき、動きだけが抽出されていきます。また、その抽出された動きがある程度のまとまりをもって繰り返されると、今度は背景に流れる音楽の拍数や小節、部屋の向こうの方で聞こえるチャイムの音から推察される休み時間の長さなどを「計る」ための機能を持ち始めます。意味から離脱したはずの動きが再び意味に帰着するのです。

そして、その中でも最も私が興奮したのは4人のダンサーが互いの身体を使って空間を測っていくムーブメント、その中で登場したある瞬間です。照明で区切られた平面の長さから、立体の長さへ測る対象をシフト、具体的な動きとしては床に座ったり寝そべったりしていたのが、中空に定規の一端を置くようにして動き始めた瞬間、私は「座標だ……!」とひらめきました。

次の瞬間、私はモーションキャプチャーのシステムを思い出していました。使う機器にもよるのでしょうが、あれは機材を用いて空間に座標を組み、そこの中を専用のマーカーがどう動くのかをセンサーが感知し、CG空間内にその動きを再現する、とまあ大雑把に言えばそんな仕組みです。もしかすると、モーションキャプチャーのデータはある種の舞踏譜と呼べるのではないでしょうか。

また、別の作品では、ダンサーの一人が、歴代のバレエシューズを並べてその長さを測るとともに、その年代を振り返っていく、というものがありました。「15歳のとき、(巻き尺で測る)24センチ。」みたいな。スクリーンには当時の写真が映し出され、これは親が見たら一発で泣くな、とか、結婚式で流したら親戚縁者皆泣くな、とか、余計なことも考えたのですが、それは置いておいて。「靴のサイズ」という個人差がある上にその個人においても変数である数値が時間の長さを計るある種の「基準」になっていることが、どこか不思議で、どこか人間的だと感じました。柱に刻んだ身長の記録、とかも同じ。国際メートル法のような絶対的基準ではなくとも、いや、ないがゆえに、そこには数値とともに思い出とか感情のような数値化できないものを記録することができるのではないか。

そういう意味で、身体尺って曖昧だけど情緒のある概念だなと、月並みではありますが、そんな感想を抱きました。

杖とかメガネとかスマホとか、外部化された身体・拡張化された身体がどこまでその情緒と仲良くできるのか、その辺も今後作品化されたら楽しいだろうなあ。

おわり。

【次の活動】
PoTaPa参加作品 ヨハクノート2018-2019
「変身」
■原作:フランツ・カフカ
■潤色・演出:臼杵遥志
■出演:臼杵遥志
■日時:2018年12月15日(土)14:00~/17:15~
■会場:両国門天ホール
■PoTaPa詳細
https://peraichi.com/landing_pages/view/potapa20181215
■予約
https://www.quartet-online.net/ticket/potapa20181215?m=0kcijji

■書いた人:臼杵遥志(うすきようじ)
1994年5月2日生まれ。福岡県出身。
ヨハクノート代表/演出家/劇作家/俳優。
高校で演劇に出会い、大学進学を機に活動を本格化。2016年、早稲田大学劇団木霊から独立する形でヨハクノートを旗揚げ。大学ではマレビトの会の松田正隆氏に師事し、2017年、同氏が教授を務める立教大学現代心理学部映像身体学科を卒業。<自分・他者・空間>を創作のキーワードに設定しているため、同一作品が会場によって全く異なる演出になることもしばしば。そのためツアー公演では出演者・スタッフとともにああでもない、こうでもないと笑いながら試行錯誤している。近年は子ども向けのワークショップや企業の研修など、<演劇の外で演劇をする>ことに挑戦中。演劇的思考やメソッドを用い、非認知能力向上のためのコンテンツ開発を行っている。

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