見出し画像

5169.【ヴェネチア旅行記】小松美羽さんの作品を鑑賞しにサン・マルコ広場に行ってみたところ・・・:驚きの光景が広がっていたヴェネチア

「な、なんじゃこれは~!」

午前10時半に宿泊先のホテルの一階に降りた時に私は思わずそう叫んだ。

そこに何が広がっていたかというと、昨晩足を着けていたはずの地面が水に覆われて見えなくなっていたのである。つまり、運河が氾濫し、ホテルの一階まで水が上がって来ていたのである。

当初の計画では、今日と明後日に行われるクラシックコンサートの会場を下見した後に、サン·マルコ広場にあるギャラリーで小松美羽さんの作品を見ることをとても楽しみにしていた。それが今回ヴェネチアまで足を運んだ最大の目的であった。

小松さんの作品を見た後は、音楽博物館に移動し、その足で、明日のコンサート会場の下見をしてホテルに戻って来る計画を立てていた。ところがである。

ホテルの出発から出鼻を挫かれる形になった。運河の水が溢れるというのはオランダでも見たことがなく、私は本当に驚いてしまい、思わず笑ってしまった。

なんとか水の少ない場所を爪先立ちしていけば扉まで辿り着けるかと思ったが、水深は思っていたよりも深く、靴が濡れ、靴の中まで水が浸水して来る恐れがあった。観光からの戻りがけであればまだしも、出だしから靴の中が濡れるのは避けたかったが、もう前に進むより仕方なかったので、意を決して扉まで辿り着いた。

そして扉を開けるとそこに広がっていたのは、当然ながら運河の水で浸水しきった道だった。建物の脇がまだなんとか水深が浅かったので、引き続き爪先立ちのような形でさっと浸水がない道まで出た。

確かに靴は随分と濡れてしまったが、なんと幸運にも、靴の中には浸水しておらず、とても助かった気分になった。今回旅に履いて来たのはスエードの靴であり、スエードの靴は雨に弱いだろうと思っていた。

ところが先ほど調べてみると、ヨーロッパでは、スエードの靴は「レインシューズ」と呼ばれるほどに雨に強いことがわかったのである。道理で水が中に染み込んでこなかったわけである。なんとか無事に浸水していない道まで出ることができた私は、とはいえその先が思いやられた。

少し歩いたところに出店があり、偶然外にビニールで出来た長靴が売られているのを見つけた。もうこれは購入するしかないと思った私は、それを購入することに決めた。

ちょうど店員の女性の方が外に出て、長靴を眺めている私がいることに気づき、声をかけてくれた。その店員曰く、「冬の時期になると、運河の水が溢れ出し、このように浸水してしまうことがあるんですよ」と教えてくれた。私はそんなことがあるなどと全く知っておらず、改めてとても驚いた。これもまた地球の環境異変か温暖化の影響なのだろうか。

いずれにせよ、今日も含めて残りの5日間でもまだまだ長靴を使う機会がありそうであるから、Mサイズのものを迷わず購入した。店を出発してみると、確かに浸水していない道もあり、そうした道の方が多かったのだが、一方で完全に水に浸りきっている道もちらほらあった。そして何より、私と同じような長靴を履いている人が数多く道を歩いていたのである。

そこから私はまずコンサート会場を目指した。すると、携帯のGPSがうまく機能せず、すぐさま道に迷った。

だが幸いにも、ヴェネチアの入り組んだ道をつぶさに眺めてみると、主要な観光名所の名前と方向が記された看板が随所にあり、それを辿っていけば目的地に辿り着けると思った。そこからは、その看板を目印にして歩みを進めていった。

ヴェネチアを代表する橋、通称「白い巨象」とも呼ばれるリアルト橋を目標地点にしていたのだが、その橋の前の通りが完全に浸水しており、そこで再び長靴を履き、早速長靴が活躍した。橋を無事に渡ると、また乾いた道になったので、そこでまた長靴を脱いだ。

そしていよいよサン·マルコ広場に到着し、広場を一目見た瞬間に、またしても驚くべき光景を目の当たりにした。サン·マルコ広場はもう完全に水で浸水しきっており、30cm近く水で浸りきっていた。

「長靴を持たらざる者サン·マルコ広場に立ち入るべからず」とでも言わんばかりの光景がそこに広がっていたのである。私はもう可笑しくなってしまって、笑ってしまった。

そこでまた長靴を履き、水の中をズンズンと進んでいくと、そこには長靴を履いた人たちが楽しげに広場をゆっくりと進んでおり、いろいろな形で記念撮影をしていた。それはもう愉快な光景であった。

また面白い光景としては、アジア人の二人の新郎新婦が、結婚式のドレスを着たまま長靴を履いて広場を歩いていたことだ。それを見ていたイタリア人の中年の女性が、「結婚おめでとう!忘れられない結婚式になったわね」と笑顔で述べていた。それもまたとても微笑ましい光景であった。

そこから私は、水浸しになったサン·マルコ広場を歩きながら、目的のギャラリーに向かった。サン·マルコ広場は宗教的にも非常に重要な場所であり、格式高い場所なのだが、ハトがプカァ~っと優雅に浮かぶ姿を見て、また笑みが溢れて来てしまった。私は思わずハトに向かって、「今日は君の方が早いね」と独り言を呟いた。

水をかき分けながら、子供の頃に戻ったかのような気持ちで水中を歩いていると、ようやくギャラリーを見つけた。このギャラリーは毎日午前11時から開いており、時刻は11時半ごろだったので、水浸しの中、扉を開けてみようとしたところびくともしなかった。

「あれっ、おかしいなぁ?浸水のせいかなぁ」と私は思い、再度扉を開けてみようとした。中を見ると、薄暗くなっており、人の気配が全く感じられなかった。

それでも私は何度も扉を開けようとしたのだが、結局扉は開かず、今日はおそらく臨時休館となったのだろうと思われた。それを知った時、小松さんの作品を見ることを楽しみにここまで来たのでとても残念な気持ちになった。しかし、ここまでの道中でとても珍しい光景を眺めることができ、そして私自身がその光景の体験者でもあったこともあり、妙に気分が明るくなった。

今時刻を確認すると、コンサートに出かけていく時間となっていた。まだまだ書きたいことがあるのだが、その続きはコンサートが終わってホテルに戻って来てからか、また翌朝書き留めておきたい。

いずれにせよ、ヴェネチア初日の観光は本当に忘れられない体験ができたため、ある意味で大満足であり、今後の人生においても記憶に残り続けるだろう。ヴェネチア:2019/11/10(日)19:30


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?