グリ下にあつまる少年少女
(2021/8/12よんチャンTV放送分のこぼればなし)
グリコの下。若者たちからはグリ下(ぐりした)と呼ばれています。
大阪ミナミ。道頓堀にかかる戎橋の界隈は全国的にも知られる大阪の観光名所です。グリコの看板を背に、同じポーズで写真を撮る観光客がコロナ禍前は全世界から訪れていました。
橋から川沿いへ降りることができます。遊歩道にはベンチが設けられ、昼は散歩をする人々、日が暮れるとネオンを見ながら夕涼みするカップルの姿等がよく目に入ってきます。戎橋のちょうど下、まさにグリコの看板の下あたりがグリ下です。
東京の歌舞伎町にはトー横があります。東宝シネマズの横、略してトー横。
大阪のグリ下、新宿のトー横は一部の若者たちの夜のたまり場になっているようです。東京五輪開催中の都内を取材した時は、深夜のトー横で地べたに寝転がり飲酒をする若者たちの様子を取材しました。明け方には喧嘩の跡と見られる血だまりがあることも。さらにSNSで知り合った少女達がトー横で集団でリストカットをしているという話しも耳にしました。
今回は大阪。夜のグリ下です。
夏休みに入り、少年少女達はグリ下で何をしているのでしょうか。夜10時以降、未成年がこの界隈で過ごしていると補導対象になる場所です。
先ず出会ったのはタバコを吸いながら友達を待つ中学生と高校生の女子2人組でした。名前も顔も出さないから、カメラを回しながら話を聞かせて欲しいと尋ねると意外にも素直に応じてくれました。ここで危険なめにあったことはないかと聞くと、何度もあると言います。
「男性数人から突然テキーラを渡されてコールをはじめられた。場の雰囲気で何杯も飲んでしまいふらふらになったらホテルに連れていかれそうになった。
コンビニから出てきたところ、オジサンに声をかけられ近くの公衆トイレまで腕を引っ張られた。自慰行為を見て欲しいと頼まれた。見たら1万円くれた。」
それでもミナミが楽しいと言います。ここにいれば友達ができるのだそう。キャッチのお兄さんたち、戎橋に集まる若者たち、みなが声をかけてくれて友達が増えていくと話していました。
高校生の男子4人にも出会いました。夜遅くまで外出していると親からは何度もラインや電話が入り、心配されているけど強い言葉を返すのだそう。彼らにも危険なめにあったことは無いか聞きました。
「歩いていたら大人の男性にとつぜん胸ぐらをつかまれて道に投げられた。そのあとも何度も胸ぐらをつかまれては投げられた。酔っぱらっていたのか、自分が邪魔だったのか分からない。怖かった。
寿司をおごると大人に声をかけられ付いて行ったら暴行された。」
夜のミナミで男性同士の喧嘩を目にすることは日常茶飯事だと彼等は話していました。
大きなシャンパンボトル2本を手にした10代の少女2人にも出会いました。これからSNSで繋がった仲間たちと会うのだそうです。
先日、グリ下では酔った外国人グループの中で人が殺害される事件が起きました。被害者は川に突き落とされ死亡しました。彼女たちはその様子を見ていたのだそうです。最初は遊びかと思っていたけど途中で様子がおかしくなったと話していました。
いろんなリスクがあるのになぜここへ来るのか聞くと。
「ここしか居場所がない」
一人の少女は私にこう話しました。地元や学校、家庭には自分の居場所が無いと言います。ミナミに来れば同じような境遇の同じような仲間たちに出会えるのだと。
目の前にチューハイの缶を並べ、明らかに泥酔している高校生のカップルにも話を聞きました。呂律がまわらないほど酔っている少女は自分の家庭環境に口を開きました。
「4歳の妹がいる。私が面倒を見ている。お母さんからは暴力をふるわれている。お父さんは本当のお父さんじゃない。」
「死にたい。お酒ぐらい飲ませて。」
私が耳を傾けると彼女は自分がおかれている状況をどんどん話しました。きっと誰かにきちんと話しを聞いて欲しいのではないでしょうか。さみしさを紛らわすようにお酒を飲んでいるような印象でした。
今回出会った少年少女は共通して「ここが居場所」だという趣旨の話しをしていました。取材とは別で、私は一人の大人として全員に「未成年がお酒を飲んだらダメだよね。タバコもだめだよね。」ともちろん注意を呼びかけました。しかし初めて出会った大人の言葉を受け入れるだけの余裕が心にある子供たちは、ほとんどいなかったのも事実です。
夜のミナミ、グリ下。未成年を取り巻くリスクの多さに驚きました。
一斉補導や民間パトロールを投入し彼等をあの場所から一掃すれば、一時的に夜のミナミは健全な状態に戻ったように見えるのかもしれません。しかしここしか居場所が無いと口にする彼等がもしその居場所を奪われたら。次は一体どこに行くのでしょうか。更なる孤独を感じた時、私に「死にたい」と連呼した少女はどんな行動をとるのでしょうか。
表面的な対策ではなく、地域社会や家庭において子供の居場所を確保していくことが必要なのだけれども、それがいかに難しいことかも感じました。社会から脱線しかけた子供たちを救うセーフティネットはどうすれば作れるのでしょうか。
このnoteを書き始める前にツイッターで「グリ下」と検索してみました。
「どこ行こう。グリ下はもうオワコン感ある。」
若者たちは居場所を探しています。
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