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社会問題への関心の入口をつくる

ほんの半年前まではビジネス雑誌の編集の仕事をしていて、主に編集やメディア、マーケティングなどのいわゆる成功話の取材をして記事を書いていた。

それがいまや180度で変わって、社会問題について日々取材して記事を書いている。「取材して記事を書く」ことは同じでも、その内容が違えばまるで違う職種に就いたようにも思える。

いまの仕事では、社会問題の当事者や支援者、専門家などの話を聞くのだけど、それぞれのテーマが重く、どちらかといえば良い話よりも辛い話を聞くことが多い。

そういう意味では前職のほうが仕事としては楽しかった。だけど、もともとやりたいと思っていたのは社会問題についての発信であり、いまの仕事には前職のとき以上の意義を感じている。むしろ意義を感じていなければできないかもしれない。

たとえば、少し前にこんな特集を組んだ。

正直なところ、自分自身も当初は痴漢問題について関心はなかったのだけど、『男が痴漢になる理由』という本を読んで見方が変わり、企画を立てた。

日本には、痴漢被害が蔓延していて、それはいまや世界中でも広く知られている。「CHIKAN(痴漢)」は「SUSHI」や「KAIZEN」などと並び、世界でも通じる日本語になっているという。

イギリス政府の日本渡航者向けの情報の中には、「通勤列車における女性客への不適切な接触や“チカン”についての報告は、かなり一般的です」と記されていて、フランスでは在仏の日本人が『Tchikan』という本を出版して大きな反響を呼んだ。

それなのに、メディアの報道や警察の痴漢問題への対策を見る限り、日本という国で痴漢の問題はそれほど深刻に考えられていない(ように思える)。

この特集では、痴漢問題を「女性の問題」と認識されている現状から、「男性の問題」、そして延いては「社会全体の問題」へとアップデートすることを目指した。それができたかどうかはわからないけど、少なくとも多くの人に関心を持ってもらうことはできた。

痴漢被害者である日本人女性に話を聞いたときは、自殺を考えるほど悩んでいたという被害の実態を知り、純粋に加害者に対する憎悪が湧いた。

性暴力は「魂の殺人」とも言われる。被害者にとって加害者は悪魔のような存在でもあると思う。ただ、最近見た『セブン』という映画にはこんなセリフがあった。

もし犯人が本物の悪魔だったらお前も納得するだろう。だがそいつは悪魔ではなく人間だ。

この特集では痴漢の元加害者にも取材している。痴漢問題に関するシンポジウムなどに足繁く通うなかで、つながることができた。

そして取材した痴漢加害者の男性は決して悪魔ではなかった。なんというか、どこにでもいそうなフツーのおじさん。その男性が痴漢加害者、しかも30年も痴漢し続けていたことに問題の深度を感じた。

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多くの人がSNSのタイムラインに流れてきた記事を何気ない気持ちで読む。読んだ内容に関心を持てば、他の人にも知ってもらおうと自分もSNSで投稿しようとする。

どう投稿しようか考えたり、実際に投稿する時間はほんの数十秒かもしれない。ただそのたった数十秒でも、関心を持ってもらうことに意味があるのだと思う。

SNSで誰かから誰かに伝わり、その誰かも記事を読んでくれれば、関心の輪が広がっていく。それによって少しずつ社会問題への関心の総量が大きくなっていく。

リディラバジャーナルの記事は5〜10の記事で構成される特集のうちの一つだから、少しでも関心を持ってもらうことは一つの社会問題の入口に立ってもらうことを意味する。

一つの記事を入口にして「もっと知りたい」と思ってもらえれば、特集の記事をすべて読むことで、その社会問題が構造的に理解できるような特集づくりをしている。さらに関心を深めたいと思えば、別の特集を読んでみると、ある社会問題は別の社会問題に連関していることがわかると思う。

リディラバジャーナルは有料会員がSNSなどで記事をシェアすると、シェアされた側の人たちは無料で記事を読むことができるという、ユニークな設計にもなっている。

これはメディアのコンセプトになっている「社会の無関心の打破」を具現化した設計でもある。伝播する人が増えていければ、社会の無関心はもっともっと打破できる。

だから、社会問題に特化した発信をしているのに、あえて無料でオープンにせず、サブスクリプション型のモデルを採用している。詳しくは以下を見てもらえれば。

メディアは社会の歪みを訴えるような声だったり、声すらあげられない人たちの声を丁寧にすくいあげて、多くの人に伝えていくことが社会的な役割としてある。それができているどうかはわからないけど、少なくとも個人的にはそんなメディアであることを目指していきたい。

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リディラバジャーナルで特集した痴漢問題、より広く言えば性犯罪問題について知ることができる講演が来週にある。

9月15日(土)、16日(日)の2日間で開催される「R-SIC2018」というカンファレンスで、痴漢問題の特集にも登場いただいた方々が登壇する。

たとえば、痴漢問題の特集にも登場いただいた斉藤章佳さんという精神保健福祉士・社会福祉士が痴漢問題の加害者について、また上谷さくらさんという弁護士は性暴力と社会のあり方をテーマに講演していただくことになっている。いずれも「30分でわかる」というシリーズで、問題の概論を知ることができる。

このカンファンレンス自体、痴漢問題や性暴力問題に限らず、さまざまな社会問題について知ることができ、社会問題について少しでも知りたいという人には広く深い学びの場になると思う。

それから、リディラバジャーナルの読者ミーティングも開催予定なので、来週だけど時間ある方はぜひ会場に来てもらえたら。

読んでいただき、ありがとうございます。もしよろしければ、SNSなどでシェアいただけるとうれしいです。