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リングラン叙事詩 第四章 帝国誕生 台本

(ナレーション)
とある世界
とある時代
私たちが知ることのない場所にリングラン島という島がある。
この島には一つの神話があった。

太古の昔。
二つの神による天界の争いがあった。
光の神ヴィシュ。闇の神デーム。
両者の争いは大地を揺るがし、
互いの従える竜による戦いは、やがて大地を割き、
大きなうねりは山脈を作り、
吐かれる炎が大地を焦がし砂漠となった。
そして双方の神と双方の戦いが終わり、
大地に堕ちた竜の骸を苗床に、草原は大きな森となった。

そして伝承は続く。
竜の目から生じ散らばった水晶を、神の台座に捧げしとき、
その地はあるべき姿へ回帰せん。

リングランに伝わりし、神話である。

要塞都市バアル。その最上階にその要塞都市を統べるサルーデンと帝都から到着したガルハースの姿があった。

サルーデン これはこれは、騎士団長殿。ずいぶん遅いお着きで。さぞ素晴らしい皇帝陛下への謁見だったのでは。
ガルハース サルーデン。貴様、陛下に何を吹き込んだ。
サルーデン はて、なんのことやら。
ガルハース リーデランド侵攻に際して、兵の増強より貴様の警護を優先しろとおっしゃっている。どう考えてもおかしいではないか。
サルーデン それはそれは大変光栄な陛下の御心(みこころ)。大変幸せなことです。それで護衛としていかほどの部隊をいただけけるのかな。
ガルハース 100名ほどの兵を回すようにとのこと。これでは到底リーデランドへは攻め込むことは出来ん。
サルーデン ほう、出来ないとは。陛下のご意向に逆らうのですか。
ガルハース そうは言ってはない。これでは数多くの被害が生じることになる。貴様にもそれくらいわかるであろう。
サルーデン 全くわかりませんな。騎士団長ともあろうお方がずいぶんと弱気な発言だ。これでは下のものに示しがつかないでしょうに。情けない限り。
ガルハース ここは貴様が統べる要塞。リーデランドを落とそうとするのであれば、魔術師団を私の部隊に加えさせろ。貴様の権限であれば、それくらいはできるはずだ。
サルーデン それは陛下のご意向に反するのでは。
ガルハース 指示はされていないが否定もされていない。
サルーデン 騎士団長ともあろうお方がずいぶん勝手な判断を。指示をされていない話に乗るわけにはいきません。それに我々は古の竜の復活とモーリスタティア北部への侵攻を進める準備をしている最中。貴殿の申し出は受けられませんな。
ガルハース 話にならん。以前も言ったが人ならざるもので都市を蹂躙することは決して認めぬ。
サルーデン それもこれも私が決めること。貴殿に指示される覚えはありません。私はこれから魔法力の確認がありますので、失礼。そうそう、護衛の件速やかに願いますよ、騎士団長殿。

ガルハース くっ。これではまるで騎士団がただの駒としてしか見られていないということではないか。それになぜスレイアールが戦いを続けなければならないのだ。リーデランドへの侵攻ですら私にはなんの意味も見出すことができん・・・。陛下はすっかり変わってしまわれた・・・。しかし主君の命令は絶対。これは当然のことだ・・・。



サルーデン これからは魔術の時代。所詮剣での争いなど妖魔でもできる。さて一度デムニアに戻り皇帝と会っておきましょうか。ふふふ、私の思い通りとなるのもそう遠くはあるまい。全てはデーム神のために。

時を遡ること、サルーデンが初めてスレイアール帝国へ訪れた頃のことである。

ザジウルハス ガルハースよ。騎士団・戦士団と共によくやってくれている。おかげでこの国の安全はこれ以上のないほど保たれておる。誠に持って感謝する。
ガルハース 大変光栄の極み。騎士団・戦士団のものも大いに喜ぶことでしょう。
ザジウルハス ガルハースよ。我が国も魔術の力も取り入れ、民の教育へ大いに力を入れたい。これからは剣と魔術の融合こそが。国を富ませ、民の生活をより良いものにすると考えておる。貴殿の力、これからも借りていきたい。頼むぞ。
ガルハース 借りるなどと。私はこの国に忠誠を誓っております。この命、スレイアールのためであればいつでも捨てる覚悟であります。
ザジウルハス その意、誠に感謝する。下がって良い。
ガルハース はっ。

謁見が終わり、ガルハースが王の間を出た時、一人の男が入れ替わりで入っていった。

ガルハース はて、見かけたことのない顔。あのいでたちからすると魔術使いか。

ザジウルハス お主がサルーデンか。
サルーデン はい、私めがサルーデンでございます。ザジウルハス国王陛下。
ザジウルハス 我が国は騎士団による剣術が盛んな国であるが、魔術というものに対しての造詣に乏しい。国を富ませるにあたって、これからは剣と魔術を両輪として民への教育を進めていきたい。ぜひお主の力を貸してほしい。
サルーデン はい。私めの力でよければ、この国の魔術の力を大いに育てて見せましょう。
ザジウルハス 大変心強い。頼んだぞ。

その数ヶ月後のことである。

ザジウルハス サルーデン、お主のおかげで我が国にも魔術協会を立ち上げることができ、素質あるものが魔術を体得することができている。まことに大儀である。
サルーデン 陛下、この国で魔術をさらに広めるにあたって足りないものがございます。
ザジウルハス ほう、それはなんだ。
サルーデン スレイアール王国そもそもの国力でございます。
ザジウルハス 国力とな。
サルーデン はい。この地は山脈と森に囲まれ、十分な農地もございません。交易もわずかばかりであり、当然物資も不足がちとなっております。
ザジウルハス 確かにな。ただ交易を増やすための資金も多くはない。ただ民は限られた農地であっても最大限の努力を行なってくれている。まさにスレイアールの民は国の宝であると余は思っておる。
サルーデン 陛下。この国において、魔術を広めるためには多くの資金が必要です。しかしながらその資金に乏しい。国を富ませるには陛下の意識を変える必要がございます。
ザジウルハス 意識を変えるとな。どのように。
サルーデン 民のために戦うのです。
サジウルハス 戦う。そのような相手などおらぬ。お主が何を言っているのかが全くわからん。
サルーデン 何度も申し上げましょう。デムニアの民を大切にしたいとおっしゃるのなら、陛下の意識を強く変える必要があるのです。お分かりいただけましたかな。
ザジウルハス サルーデン、お主が何を言っているのか、余にはったくわ・か・ら・ぬ・・・

サルーデン ふん、ようやく幻惑の魔香(まこう)が効いたか。ここで操りの詠唱を唱えることは叶わんからな。なかなかに丈夫な男だ。有望なやつではあるな。ザジウルハスよ、スレイアールの発展を願うか。
ザジウルハス それは・・・当然・・・じゃ。
サルーデン ならば、隣国ザスアルを滅ぼせ。
ザジウルハス 隣国を・・・滅ぼ・・・すだと・・・
サルーデン そうだ。まずは貴様自身を皇帝と名乗るのだ。今日よりここはスレイアール帝国となる。貴様は私の傀儡(かいらい)となって居れば良い。全てはデーム神のお導き。ふはははは。

そしてサルーデンが策謀(さくぼう)を起こした後のことである。

ザジウルハス 我がスレイアールの民よ。本日をもって余は皇帝を名乗る。そしてこの国もスレイアール帝国と定める。デムニアの民よ。これまでの苦しい生活から脱却し、この帝国を広げ、我らこそがこのリングランの覇者となるのだ。騎士団・戦士団に告ぐ。これより貴様達は、帝国の騎士団と戦士団である。自らの武勇を大いに広げよ。そして、魔術協会の皆のもの、貴様達こそがこの国をより強固なものにするというを忘れるな。そしてこの国を大いなる魔術の国として世に知らしめるのだ。この国を栄えさせるために、まず初めに隣国ザスアルに攻め入り、彼の地を我が領土とする。肥沃な大地は全て我々のものである。皆のもの、スレイアール帝国のために献身(けんしん)せよ。

ガルハース な・ん・だ・と・・・。ザスアルに攻め入る?一体陛下はどうしたというのだ。それにあの表情、明らかにこれまでの柔和な陛下のお顔ではない。それに魔術の国・・・あれほどに騎士団や戦士団にその御心を傾けていただいていた陛下のお言葉とは到底思えぬ。はっ、ある魔術師サルーデン。全て奴の仕業(しわざ)か。なんということだ。魔術に力を入れていた陛下の心の隙をついての謀略(ぼうりゃく)、決してゆるさん。しかし、全て陛下のお言葉。従ってこその忠誠心だ。

そう呟いたガルハースは握りしめた拳からいく筋かの血を流し、立ち尽くすことしかできなかった。
そして時が過ぎ、隣国のリーデランド王国ではスレイアール帝国からの侵攻に備えて、着々と準備を進めていた。

アリエンゼス ローレイスよ、して、メルキアはなんと申しておった。
ローレイス 相応の傭兵派遣には10億ギレアを支払うようにとのことです。
陛下。失礼ながら我が国の資金をもってしてならば何も問題のない額ではあります。正式に傭兵隊の派遣を要請することをご承諾いただきたく存じます。
アリエンゼス もちろん承知した。メルキアへの20億ギレアと共に、もう一度メルキアへ伝令を走らせよ。
ローレイス 陛下・・・。なぜ申し出より高い報酬を支払うのですか。
アリエンゼス ローレイス。汝(なんじ)は分かってくれると思うが、メルキアの傭兵とは言ってもそ奴らにも家族がある。ここまでの遠征にも関わらず、このリーデランドのために力を貸してくれるというのだ。しかし我々は報酬で報いるしかできん。であれば、これは当然のこと。
ローレイス 陛下の御心に改めて臣下としてお支えできることを嬉しく思います。
アリエンゼス 時は待ってはくれぬ。しかし我が軍はもとより、他国の者とはいえど、戦いにさらすのは正直心が痛い。
ローレイス 陛下・・・。心中お察しいたします。
アリエンゼス しかし、むざむざ国を差し出すつもりは毛頭ない。ローレイス、頼むぞ。
ローレイス は!伝令を送ったのちに騎士団・戦士団への指示を行います。

ローレイス これよりスレイアールからの迎撃体制を伝える。騎士団を3つに分け。1つの部隊は西の砦に向かい、もう2つの部隊は王都の守護をせよ。戦士団は2つにわけ、1つの部隊を西の砦。もう一つは南の砦へ。出発は明朝。私はメルキアからの援軍を待って、全軍とともに西の砦へ向かう。ここで一つだけ皆に命じる。いいか、決して死に急ぐな。生きて帰ってこい。それでは皆のもの、今日は残りの時間を各自に任せる。好きな時間を過ごせ。以上だ。

そして数日後、ローレイスの発した伝令がメルキア公国に届いた。

ザンスロン うむ、確かにリーデランドの要請承知した。女王よ、あじな真似をしやがる。まぁそこがあの女王らしさでもあるがな。感謝するぞ。よし軍参謀よ、モーリスタティアからの要請についても承知した。本時刻を持って、モーリスタティアのと不可侵協定を結ぶ。リーデランドには1,500人ほど派遣する旨を傭兵登録所へ伝えよ。報酬ははずむとな。出発は明後日の朝。俺もリーデランドへ向かう。何、心配はいらん。最も、もとより俺の身を心配するやつなどおらんか、わははは。

モーリスタティア王国、王の間にて。

モーリスタティア15世 そうか。メルキアは要請を聞き入れたか。では騎士団長と戦士団長、メルキアより応援が到着次第、団の体制を整え、北の砦の守護を命ずる。頼むぞ。正教会へは司祭の派遣を、魔術協会へも魔術師団を各地への派遣を命じる手配を整えよ。如何(いかが)した。なに、魔術協会の魔導師長が面会をと。よし、すぐに通すが良い。

モーリスタティア国王の王の間にモーリスタティア魔術協会の魔導師長が面会に訪れ、一つの報告がなされた。その際に国王は思わず大きな声を上げた。
モーリスタティア魔術協会。それはモーリスタティア王国のみならず、このリングリン島のありとあらゆる魔法書を所有し、日々後進の指導も行う島で最大の魔術協会である。その魔導師長自ら文書を持って参じたからには相当な案件があることは想像に容易い。そしてそれはあまりにも大きなものであった。

モーリスタティア15世 なに、それは本当か?サルーデンが・・・まさかこのモーリスタティアを出自(しゅつじ)とする可能性があったとは・・・。
そうか、孤児院を出て幼少期より優秀な成績を納めていた魔術師がおった。そやつが闇の神デームへ傾倒し、古代魔術の復活を画策していたが故に魔術協会から追放されたと・・・。

この国に魔術協会が作られたのは新王国建国の時のこと。協会には通常の魔法書の他、最上級の魔導士でなければ入室が禁忌とされる古代書を納めた
書庫がある。問題はその中にある朽ちかけた一冊であった。
その書には、神話の時代のあと、リングラン島には、現代のモーリスタティア王国の地に古代リングランの王国があり、そこに闇の神デームを信仰する一人の魔導士がいたという。
その者は、現代では、すでにほとんどが消失した数多くの
古代魔術の書を書き残し、この国のいずこかに消えていった。
その際数多くの魔法書が持ち去られた。との記述があったという。

モーリスタティア15世 もし、古代の魔道士が持ち去った書がサルーデンのもとにあるのだとしたら・・・その古代の魔導士については他に何か情報があるやもしれん。禁忌の書庫の調査を慎重に進めよ。

そして各地においてスレイアール帝国への対抗の体制が整っていった。
時をほぼ同じくしてバアルにてサルーデンとの確執が決定的となったガルハースより、騎士たちへ リーデランド王国侵攻 とサルーデンの護衛について下命した。

ガルハース ここまでの行軍大儀である。まずは一旦体制の整備を行う。リーデランドへの侵攻を進めるにあたっては私が最前線につく。私の背中の守りを頼んだぞ。サルーデンの護衛につくもの、色々と思うところはあるだろうが我慢してくれ。必ず私の元へ戻す。そしてすまんな、お前たちの命、私が預かる。

スレイアール帝国の侵攻準備が進んでいた頃、メルキア公国のザンスロン公がリーデランド王国へ到着した。

アリエンゼス ザンスロン公、此度(こたび)の援軍、心から感謝する。
ザンスロン アリエンゼス、して、勝算は。
ローレイス ザンスロン公、陛下に対して失礼ではないか。
アリエンゼス ローレイス、良いのだ。ザンスロン公は辿れば我々の最も近しき国の長(おさ)。ここは腹を割っての話合いであってもよかろう。
ザンスロン さすが話がはやい。
ローレイス くっ・・・
ザンスロン ローレイス殿。そうカッカするな。アリエンゼスよ。いかがか。
アリエンゼス 我が国の兵力に貴殿からの援軍を持ってすれば、スレイアールを迎え打つことは十分可能と考える。
ザンスロン モーリスタティアより伝令があり、モーリスタティアの北の砦へ騎士団と戦士団に加え、司祭と魔術師団を派遣しているそうだ。それから要請があればリーデランド南の砦まで寄越(よこ)しても良いと言っている。受けるか?
アリエンゼス モーリスタティアには感謝せねばならないな。ローレイス、モーリスタティアへ要請の伝令を頼む。
ローレイス は、かしこまりました。すぐに手筈を整えます。
ザンスロン ローレイス殿。進軍はいつ行う。
ローレイス メルキアの傭兵部隊の準備が整い次第出立(しゅったつ)したいと考えている。戦場では我らの助けとなっていただきたい。
ザンスロン わかった。ではすぐに出立の準備をいたす。それに助けというが、メルキアの傭兵部隊の力を舐めてもらっては困る。もちろん俺も一緒に向かう。
アリエンゼス ザンスロン公、貴殿・・・。
ローレイス ザンスロン公自ら戦地へと赴(おもむ)くのですか。
ザンスロン 当然だ。俺もいわば傭兵。戦いこそが全てだからな。それにもらうものはもらっている。その分の働きはしてやる。
アリエンゼス ザンスロン公・・・深く感謝する。だが、必ずメルキアへ生きて戻ってくれ。
ザンスロン 言われんでもそうするつもりだ。ローレイス殿、では行くとしようか。ふん、ガルハースよ、待っていろ。

第四章 完

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