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風船のように

期待がふくらんで、

どんどんふくらんで、

風がびゅーんと吹いたら、

どこかに消えてしまう。

風船みたいだなって、思う。

期待しないほうが楽だと、

気がついたのは小さい頃。

「約束」をしても、

忘れてしまう母親。

誕生日だって、

全然おぼえてくれなくて、

それももう、私ひとりでお祝いするほうが

ずっと気が楽だ。

他人に期待なんかしない。

約束も、なるべく交わさない。

仕事だったら、大丈夫。


たぶん。

でも、誰かを頼ったり

助けてと言えなくなったのは、きっと

小さい頃からの積み重ね何だと思う。


もうすぐハロウィンの時期になる。
10月になった瞬間から、街のあちこちにハロウィンの飾りが現れる。
まだ都心では半袖でも良さそうな、陽気だって残っているのに。
商売上手な人たちが、10月になったらハロウィンの飾りにしようと決めてしまった。

それだって、飾りだけであって、実際にハロウィンの行事をするわけでもない。
季節の飾りとして、ハロウィンが選ばれただけなのだ。

電車を降りて、改札へ向かう途中で、いつもいい匂いをさせているパン屋がある。始発の頃から営業していて、パンとコーヒーのセットを店内で食べることもあった。
今月のおすすめは、パンプキンパイとオータムコーヒーのセット。
甘いパンプキンパイと、豊かな香りとコクのあるコーヒーが合っている。毎日食べるなんてことはできないけど、一カ月に数回は、そこでご飯にする。

長く海外で修業をしたという店員の男性は、爽やかな若手俳優に似ていた。
今はマスクをしているため、目と太くて整った眉でしか表情が読めない。
ニカっと笑った白い歯はみえないけど、笑うと下がる目尻は健在だ。

「今日はどうします?」
「おすすめのセットを」
「ハロウィンのですね」

ああ、ここにもハロウィンがあったのか。
かぼちゃのオバケ、ジャックオランタンだったのか。

おまけに貰ったキャンディにも、ハロウィンの模様が描かれている。

「またお待ちしてますね」

店員に見送られて、店の外へ出る。
コーヒーカップも、ハロウィンの紫とオレンジのストライプ。
まあ、味が悪くなるわけじゃないから――と、ハロウィン尽くしの景色のなかで家路についた。

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