見出し画像

VOL.13寄稿者&作品紹介04 加藤一陽さん

今回が「ウィッチンケア」への初寄稿となる加藤一陽さん。山形県山形市出身で、大学生のときにリットーミュージックの『サウンド&レコーディング・マガジン』編集部でキャリアをスタート。2012年には株式会社ナターシャに転職し、『音楽ナタリー』編集長、メディア事業担当役員などを歴任した後に退社。2021年には、カルチャー系コンテンツ・カンパニーを標榜する株式会社ソウ・スウィート・パブリッシング設立。という経歴をお持ちのかたなのですが、私が加藤さんを知ったのは、書店で見かけて面白そうだなと思った「音楽メディア・アップデート考 〜批評からビジネスまでを巡る8つの談話」という本の著者として、でした。同書の表紙には小誌寄稿者・柴那典さんの名前があり、他の7名も、音楽好きにとっては気にならないわけがない人選。それで、読んでみてもちろん各人の語る内容も興味深かったのですが、個人的に一番おもしろかったのは、インタビュアーである加藤さんの状況認識や問題の立て方、そして各人への質問の切り口も。最初は8名への関心、でも読後は「これって加藤さんの本だな。加藤さんって面白い。じゃ、加藤さんと連絡をとって、寄稿依頼してみよう」と。

昨年の秋、実際にお目にかかることになって、タリーズコーヒー東急プラザ渋谷店で待ち合わせをしました。私(発行人)にとってはひさびさの渋谷駅西口周辺...え〜っ、いまはこんなになってるんだ! 東急プラザ、私が知ってたタケノコ色のより全然背が高くなっていて動揺。でっ、じつは私、タリーズの席の確保や注文の仕方もよくわかってないので、結局加藤さんが先にキープしてくれていた席に少し遅れて到着、という失態を。初対面の加藤さんは長身で、穏やかな笑顔。正直、お原稿が届くまで、作品内で描写されている〝飲み散歩〟が趣味だとは思いませんでした。なお、加藤さんが設立した株式会社ソウ・スウィート・パブリッシングは、東急プラザ渋谷店を含む複合施設「渋谷フクラス」内にあります。

加藤さんの寄稿作「リトルトリップ」...最初は〝飲み散歩〟の楽しさから始まりますが、私もかつて暮らしていた世田谷〜渋谷界隈の日常風景が細やかに描かれていて、そこに鮎川誠、高橋幸宏といった、今年惜しくも亡くなってしまったミュージシャンの目撃談も挿入されていて、光景が目に浮かぶよう。この地区と故郷・山形の対比をしている箇所も、なるほどなぁ、と納得してしまいます。でっ、後半になると現在の加藤さんの仕事にまつわる雑感なども語られていまして、そうか、令和の時代になってスタートアップする企業ってこういう感じなのか、と読者にとっても示唆に富んだ一篇...なにより、加藤さんの語り口が絶妙で、文才が感じ取れるのです。ああ、かつて私が「「音楽メディア・アップデート考〜」を読んで、「これって加藤さんの本だな」と思ったのは、この滑らかでユーモアも含んだ魅力的な文章のせいでもあるな、と再認識した次第。みなさま、ぜひ小誌を手に取ってお確かめください!


「もう5年もすれば、〝60代のおじいちゃんおばあちゃんがビートルズを聴く時代〟になるんだよ」
 どこかの大人にそんな話を聞かされて、無邪気に感心していたのは小学生の頃だ。3世代同居率が異常に高い山形では、60代は純然たるじいちゃんばあちゃんだった。そこに育った自分にとって、60代は、友達ん家に遊びに行ったとき、軒先から素手でちぎり取ってきた干し柿をくれたりする人たちだった。そういう身近なじいちゃんやばあちゃんたちが聴くのは演歌や民謡に決まっていたから(偏見)、洋楽ロックの象徴たるビートルズが結び付くはずもなかった。それが今では、ポール・マッカートニーなんて80歳の時代だ。紅白歌合戦では桑田佳祐さんや佐野元春さんが〝同級生バンド〞として出演されていて、みんな60歳も過ぎているらしいけれど、干し柿感なんてまるでない。そういう意味でも時代は変わっていて、つまり気が付いたら、すでに〝60代がエレキギターを弾くことなんて当たり前の時代〞を自分は生きているのだった。と同時に、自分の人生を照らしてきたミュージシャンたちが、突然いなくなることが不思議ではない時代になっていた。

〜ウィッチンケア第13号掲載「リトルトリップ」より引用〜

※ウィッチンケア第13号は下記のリアル&ネット書店でお求めください!

【最新の媒体概要が下記で確認できます】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?