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床柱作法と手すり 〜木目と縁起のはなし


我が社が室内につける手すり棒は、触った時の温かみと見た目から、木の集成材の手すり、それもT⚪︎TO製を使うことが多い。

カラーバリエーションが多いわけではないのだが(何年か前に1色減った、1本残った在庫どうしてくれよう)、色味がさまざまな他社の建材と合わせやすい微妙な中間色で、かつ木目がうるさくなく、それでいてちゃんと見える感じが個人的にツボである。

たまにパナさんのも使う。
こちらはカラバリ豊富、ただし細身のφ32mmがなく、φ35のみ。このメーカーの、白に近いホワイトアッシュ色は他の建材合わせの希望として需要があるのだ(後々汚れは目立つけどね)。こちらも木目がそれとなく見えてバランスは良い。


そして、それらは集成材であるから、本当は材料の向きがあるわけでもないのだが、取り付ける時にはその木目をよく睨んでつけている。
その時の基本は和室の床柱と同じく、生えてる方向につける、ということである。床側が筍面になっている、あの向きである。

本来これには力学的な理屈があって、木は先端に行くほどしなやかになり、根元側は強いが割れやすいという特性があるため、建物の揺れが大きくなる上の方をしなやかにしておく、ということらしい。

レンガはアーチになることを望んでいる、と言ったのはルイス・カーンという建築家だが、木は生えていた向きで使われたがっているのだ、本来は。



そして、さまざまな向きの材料を寄せ集めて固めた集成材の手すりに、その本来の意味はないのはわかってはいても、つい木目が上向きになるように、もしくは人が動きたいと思われる向きを誘導する柄になるように、取り付けるようにしている。

せっかく手すりを取り付けるなら、その機能だけでなく「なんとなくカッコいい」とか、「こいつは春から縁起がいいね」とか、そういう雰囲気までお届けしたい。

ただし、ディンプル付きの棒を選ぶとそうもいかない。デコボコを常に裏側に回すため、棒をクルクル回して、良い木目を選べないからだ。これは許して欲しい。


ちなみに、木目を逆向きにつけるのは逆柱と言って大工さん業界では忌み嫌われる。
忌野清志郎にかつて心臓を撃ち抜かれた自分としてはそれも構わないのだが、逆張りのパンクなメンタルで常に生きているわけではなく、縁起を優先したくなることもあるので、お客様におかれましては、どうか縁起物としてもご安心いただきたく。


なんたってカッコいいは正義なのだ。それがただの自己満足だとしても、伝わるものがあるに違いないと今日も木目を睨むのである。

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