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とりあえずのL字?! 〜トイレ手すりの刷り込みとコストの話 (前編)


洋式トイレのL字手すりについて、である。

自分が講師をしている介護福祉士養成校で使っている教科書にも、トイレには決まってL字手すりがお勧め、とあるので、それを刷り込まれているリハ職、介護職の皆さんは多いと思う。
ケアマネジャーさんからの相見積の依頼でも、何気なくそう指定されてくることが多い。とりあえずビールならぬ、とりあえずのL字である。


また、TOT⚪︎さんなどユニバーサルデザイン関連の研究を怠らないメーカーさんでも、パブリックトイレの仕様として、壁側の手すりはL字が標準となっている。

縦の手すりは立ち座りの際の重心移動を助け、横の手すりは着座したときの安定を高め、さらに肘掛けのように反力を身体に与えて立ち座り動作の助けになる。


正しい。いろいろなADLの方に対応するには、こうならざるを得ない。自分もその理屈を以前このシリーズで書いた。


だがしかし、である。


介護保険における住宅改修は、利用上限のある、20万円の貯金のような(それも下ろすのには介護認定が必要で、かつその金額の1割から3割までの自己負担分という名の手数料がかかるような)仕組みである。

おまけにこの3年、物価はマシマシで上がり、材料費も見積もる方がドン引きなレベルで上がっているが、介護保険制度の給付枠に物価スライドの仕組みはない。保険料は自動的に上がっていく仕組みがあるのに。

なので、こちらとしても無駄は削ぎ落として、必要なところにちゃんと限られた予算を配分できるようにしたいのだ。改修総額20万円にも満たない世界における、行政指導による相見積の嵐を生き延びるためにも。


ところが、トイレの手すりはL字!と指定してしまうと、木造住宅では、たいがいL字のうちの、縦の手すりを固定するための下地が良い位置になく、そのために補強板を必要とすることになる。


たかが板とは言え、ビスを打っても割れず、粘り強い木の集成材である補強板はそれなりにお高いし、施工手間もそこそこ食う。
結果として、下地なしでポン付けする場合の2倍くらいの費用がかかってしまうことになる。


また、手すりが内開き扉の裏側になる位置に付いている場合も見かける。
出入りの時に手すりに手が届かないばかりか、ドアの開きも小さくなり、これでは勿体ないと思わずにいられない。
これは立ち座りだけ見て、それを含む動作の連続を見ていないということである。

そもそも住宅のトイレ、サイズも便器の向きも扉もアクセサリーの位置も、それぞれ個性があるのである。さらに利用者さんのADLも千差万別となれば、手すりが一律で良いわけがない。


そこで、本当にこの方に必要な手すりは何だろうか、と分析して見ていく必要が出てくる。

トイレの扉を開けて出入口から入り、身体の向きを変え、下半身の衣服を脱ぎ、立ち座りを行い、排泄をし、拭くもしくは洗い、立ち上がり、衣服を戻し、ドアを開けて出て行く。

トイレに行って、帰るだけの間に、ざっくりでもこれだけの様々な動作が発生しているということである。

その一連の動作で、どのように手すりがあると動作の不安定なところを改善できるかを追っかけていけば、必ずしもL字でなくても良い場合が多々あることに気づく。

比較的元気な方なら、立ち座りを安楽にするための縦手すりを1本、便器の先端からある程度前方に設置すればこと足りる。重心移動だけ助ければオッケー、という割り切りですね。もっと必要になったら手すりは足せば良いのだ。


ちょうど下地位置が合うときはこんな感じ
合わないときは補強板を少々


また、この手すりは片麻痺の方などが、片手で衣服を上げ下げする際に壁に寄りかかる際、身体を壁に沿って倒さないために、肩で寄りかかるストッパーの役割を持たせることもあるとのこと。
というわけでそのぐらいの高さまで伸びていると親切である。

ただし、縦手すりを本当に必要なところにつけようとすると、これも補強板が必要なことが多くなるので(L字よりは材料が少なくて済むとは言え)コストアップ要因は残る。
かと言って、ならばと下地の柱に合わせて付けると、縦の手すり位置が便器に寄り過ぎて、立ち座り動作の際に前傾したいのに、手すりを持った手がそれを引っ張って止める位置になりがちで、それでは本末転倒である。
縦手すりの位置はデリケート、なので必ず利用者さんに動作をしてもらって決める。


じゃ、その他にどんな良い方法があるのさ、ということになるので、せっかくなので明日は横手すりを中心に、もっと具体的に掘り下げてみる。


※4/28追記

ちなみに、便器に座って正面に扉があり、扉枠を掴んで立ち座りしているような場合はこんな方法もあります。枠に縦手すり直付け。
ドア下に小さい段差がある場合は、両側から持てるように出隅につけるタイプにすることもありますが、有効開口幅が狭くなって身体をぶつける場合もあるので、ケースバイケースといったところ。
なお金具は、まずホームセンターでは扱いがないタイプを使うので、プロの仕事限定となるかと。

便器に座って左手で手すりを持つとちょうどよい距離



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