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手すりの時間、建物の時間 〜劣化しにくい材料を選ぶ

手すりの材料を選ぶとき、もっとも大事なポイントはとにかく丈夫なことで、次点が施工性が良いことになる。それらをクリアしたものから、価格やデザイン性を眺めて決めている。

逆に選ばなくなる理由もある。それは、時間が経つと劣化する材料を使っていることで、つまりはプラスチックと紫外線の問題である。



たとえば、他社さんの補強板の工事を見ると、最近はネジを隠すために、プラスチックのキャップが使われる。これ、施工性は良いのだが、何年か経った後に見るとそのキャップが脆くなっていることが多い。

ちょっと触ると割れて落ちたりするので、もともと付いている手すりに、あと施工で新しい手すりをくっつける場合などはこちらも慎重にやらざるを得ない。
でも、結局いつかはボロボロ落ちてくるわけで、お客さんに引き渡すものとしてそれが良いとも思えない。


なので、我が社の補強板固定の際は、できる限りそのようなキャップは使わず、補強の固定部分の下穴を皿ビスのかたちに座堀りして、ビスの頭が板の表面とほぼ平らになるようにつくる。

ジブリアニメにおいて庵野カントク氏が演じて炎上した、設計技師の堀越二郎が零戦でやった沈頭鋲納まりである。

ちょうど見てきたとこです


だが当然、こちらの補強板は空気抵抗を減らすことには全く作用せず、あくまで見た目の麗しさと耐久性の両立のためにやっているにすぎない。
が、自己満足であるが、綺麗にできるとやはり嬉しい、そういうのが手仕事の喜びであり、モチベであると思う。



同じ問題で対応したもうひとつ例は、手すりの金具の中でもメジャーなタイプ、エンドホルダーと呼ばれるような、壁から滑らかにシュッと生えてくるような形(タイトル画像のやつ)の金具の、フタ劣化である。


この金具は、身体が当たっても怪我をしたりしないように、丸みを帯びた形で作られているのだが、手すりや壁とネジ留めする部分を隠すためのフタがついている。
残念ながらひと昔前の製品には、ここがプラスチックのものが多いのである。

以前、お付き合いのある福祉用具屋さんからそれについてのヘルプのご依頼があった。トイレに使うレンタル品の手すりを廊下で運んでいるときに、手すりの金具にコツンと当てたら割れてしまったとのこと。

他社さんが選んだ金具でも、太さが同じなら大きく寸法は変わらないはずなので、手持ちの部品を持ってさっと交換したのだが、割れたパーツを見ると、見事に色褪せ硬化して脆くなっていた。

この件、割れたのは運が悪かったね、で済ませても良いのだが、たまたま用具屋さんがコツンとやらかしたから発覚しただけで、いつかはそこに住んでいる人が何かをぶつけて、その時にそこが割れることになりうる。
施工側としてはそれは避けたい、ということで、そのように身体が当たるような部位は、プラスチックでないことを確認して手すりの材料を選んでいる。


せっかく付けた手すりがくたびれて、人を傷つける老害扱いにされたりしたら、やっぱり不憫だしね。

せめて、付けた手すりには建物の残り時間と同じくらいの寿命は持たせたいな、と思っている。

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