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横使い上手になろう 〜トイレ手すりの刷り込みとコストの話 (後編)


前回の続き。前編、先ほどちょっと追記しました。


横手すりをトイレに導入するのもけっこうアリよ、の話。

トイレの縦手すりは、重心移動の役割があるという話も以前書いた。

でも実は、ほどほどの握力があれば縦手すりでなく、横手すりを用いても、同じような前傾動作ができる。
また利用者さんが複数で、体格差のあるときなどは、それぞれが動きやすい、好きなところを握って動作できるというメリットもある。

そして当然、横手すりだから、歩行や転回時の支持基底面を増やすという役割も受け持つ。

この場合は、前傾姿勢をつくるのに握りたい位置を挟んだ区間の、ドアに近い柱から便器に近い柱まで、手すりを通せば良い。木造なら、下地は縦に入っているはずなので補強板が不要なケースが多い。つまりお安い。

ドア横の柱から、3尺先の間柱まで


便器がドアと向かい合うレイアウトのとき、ちょっと歩行が不安定になってきている方になら、ドア横から便器横まで長めに横手すりを通す。これはトイレ室内での歩行や転回時の支持物になるだけでなく、出入口に小さい段差がある場合にも支持基底面の確保により安定姿勢ができる。出入りと歩行と立ち座りの安定の、一石三鳥狙いの手すりである。 

ただし横手すりは移動と立ち座りでも欲しい高さが変わるし、身長によっても変わるし、段差部ならどちらの床高さを優先にするかでまた変わる。
横手すりの高さはデリケート、なので必ず利用者さんに動作をしてもらって決める。

場合によっては、高さの異なる2本として、便器横の方を低めに付ける。

移動用と立ち座り(プッシュアップ)用

また、扉の開閉に干渉する場合はこんな形にも。

ドアに当たらず、手を挟まないギリギリの位置まで

外開き戸もしくは引き戸が便器横側の壁にあって、トイレの奥行きもあまり長くない場合(1.3mくらい)は、便器座って前方の壁に横手すりがあるだけでも充分だったりもする。

補強板入れて便器に近づけてます

これも立ち座りと移動兼用になる。ただし、頭を下げたときにごっつんこしないというチェックポイントが増える。
さらに、部屋と身体の大きさによっては、立ち座りの際に手すりまで届かなくなる。なので、壁にお試し品の手すりを当てて、利用者さんの動きを見てみるとベストフィットだったり、はたまた使うのが難しかったりする。場合によっては補強板を噛ませて便器との距離を調整したりもする。

ちなみにこのタイプ、介護系の著作を多く出されている、理学療法士の三好春樹氏が推していた。とても便利で合理的な形なんだけど、これが使える場面が限られる、というのが施工屋さん的な感想です。


この場合はさらに横手すりとの距離はデリケート、ということになる。


でも効果的な位置の手すりに役割を複数もたせると、利用者さんの評価は総じて高めになるように感じる。たった1本の棒でいきなり動きが楽になるので、ちょっと魔法っぽいのでしょうね。

以上、トイレの横手すりはこんなのがあり得る、という例を挙げてきた。



しかし、ここまで書いてきて、まだ確認しなきゃいけないポイントが3つあることに思い至る。


ひとつは福祉用具による対応を行う場合。つまりレンタル品の肘掛け型、突っ張り棒型手すり、さらに特定福祉用具(買い取り)の補高便座による嵩上げ。さらに、先に上げたシャワーキャリーの穴開き座面タイプで、直接便座の上に乗り込むという移乗要らずの話を先日書いた。

また、工事までに申請期間がかかる住宅改修では退院などに間に合わないことから、貸与品の手すりを先に入れ、後で住宅改修の手すりと置き換える場合もあるし、ポータブルトイレだけで解決してしまうことも稀にある。
それらすべて、住宅改修工事で手すりを付ける計画に影響を及ぼす

ふたつめは、いわゆるアクセサリとの絡み。
紙巻器や手洗器、リモコンやタオル掛けなどと、手すりの位置や保持動作時の干渉である。紙を交換しようとしたら手すりに当たる、とかありがち。

 
みっつめは、扉の開閉向きや種類の変更、床高さなど段差全般の変更を伴う場合である。これらも手すり位置がそれにより変わる。
段差がなくなれば手すりの必要性も減るし、扉の形状や向きが、手すりに影響を及ぼすのは、先に述べたとおりだ。

これらの話はまた詳しく書かねば。宿題にします。

でも、そういったことを考慮しながら、本当にその人に必要な手すりは何か、動作だけでなくコストまで含めて考える。

これは住環境整備、広い意味では介護技術を学ぶ人にとって、すごく良い思考のトレーニングになると思うので、学校での自分の授業ではできる限り、トイレにはL字手すりを、の刷り込みをぶっ壊そうと思ってやっている。


※参考図書

最新版は持っていないのだけど、一応リンク。


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