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原因を掘らない、良い結果の欠片を探す 〜解決志向アプローチ(SFA)の話


自分が介護の学校で話すときには、医療出身の人と、介護畑の人の価値観の違いについて話すようにしている。

これは、自分が利用者さんの家屋調査の際に、理学療法士さんなどの医療職と異なる意見となることがあるが、その理由がわかっていると、その意見に対する理解度も上がるし、その後の判断にも奥行きが出るよな、と思っているからだ。

そして、彼らが介護職としてプロになったときに同じような経験をしても、この見解の違いは医療と介護の価値観の違いから生まれているのだということが理解できるようになると、1歩引いて眺められるようになって良いのでは、とも思っているいるからでもある。


ざっくり言えば、医療の目的は治療であり、介護のそれは生活の維持である。

そのため、医療はかならず、その困った身体状況の原因を探る。なので、様々な検査機器などが発達し、我々もその恩恵を受けている。
自分も腎臓でトンガリ石を量産するタイプなので、時折身体の輪切りを撮られては、そのCD-ROMを渡される。いつもながら、その自分の輪切りデータに感心してしまう。

医療的アプローチのポイントは原因に焦点を当てることで、そこから積み重ねて、その後の治療の方向性が決まる。
かったるい言葉を使えば演繹的、ディダクティブなのだ。積み上げる基礎をつくらないとその上に建つ治療の方向性も決まらない。なので検査検査、となる。

また、厳しい言い方だが、医療はそちら側から相手との関係を切断できる。急性期治療にも、回復期治療にも、健康保険の対象となる期間がその病気ごとに決まっており、それ以上の期間は保険が下りないことから、事実上の入院日数の上限となっている。また医療保険によるリハビリについても同様である。
要は、新しい患者を見るために、治療効率の低下した患者の切り離しを義務付けられているのが医療の原則、ということになる。医療との付き合いは、基本的に時限的な関係なのだ。


他方、介護はそうはいかない。
いつまで継続するかわからないその人の生を、よりよく全うしてもらうための仕事であるからだ。あちらから断ることはできても、こちらから関わりを切断するのは、その職業倫理的にも契約的にも難しい。なのでそこに、様々な困難が押し寄せる。押し付けられる、と言ってもいい。

以前、年に何回か勉強会をやっていたころに来ていただいた、東京都北区にある特養清水坂あじさい荘の保健師、鳥海房江さんが、介護の問題はだいたい家族の問題だ、とズバッと言い切っていて、やっぱりそうだよなあと同意した記憶がある(違う方だったかもしれない)。

家族の問題はえてして子育てから発生しており、仮にその家族問題が介護の問題に発展していたとして、その子育ての問題を取り出して、解決することなどまず不可能である。そもそもその張本人はあの世に居たりするし。

なので、医療とは違うアプローチの思考が必要になることはわかる。


でもどうすりゃいいのさ!!
と言いたくなる気持ち、わかります。


そこに取り出しましたる概念が、
解決志向アプローチ(Solution Focused Approach:SFA)と呼ばれるものである。

特徴は下記のとおり。

1、原因は探らない
だって掘り出したところでどうにもならんでしょ?というケースを扱うのだから、そうなる。

2、問題が解決している状態(ゴール)を具体的にイメージしてもらう
問題が解決したときの状況をイメージ、言語化してもらう。そのためのツールが【ミラクル・クエスチョン】

3、上手くいっている状況を探し、膨らませる
いまでも問題が起きていない瞬間の例を探し、その時の条件を見つけ、出来るだけそれが続くように工夫する。ゴールへの道筋はすでに利用者の中にある、という考え方。

 


これはブリーフセラピーというカウンセリングの技法でもあるので、順番に書くとこうなってしまうのだが、我々が現地調査で直面する困難状況はえてして即物的なものが多いので、ミラクルクエスチョンを使うまでもなく、1から3にジャンプしても、迷宮から前向きな方向性で話が動き出したりする。

こちらが意識するのは、利用者さんから「ゴールのイメージ」がどのように出てくるかを、助け舟を出しながら見守る態度だろうか。利用者さんやご家族とは、我々とは制度の情報、身体理論、福祉用具等の環境整備の情報の格差があるので、各専門職によるそれらについての情報の補完は必要になるが、あくまでそれは材料。それらをふまえて、当事者のみなさんがどのように目標を設定するかを見守る、ということだ。ここでも、待つことが大事


そして、この技法の特徴として目立つのは2の【ミラクル・クエスチョン】であろう。

カウンセリングではえてして、見る角度を変えたり、問題を外部化すること(本人や家族に原因を求めず、その症状などを切り分けて擬人化するなど)により、状況が大きく変わることがあるという。

また、困難の只中にあると、人はポジティブな目標を考えるのもしんどい。考えられないから困難なのだとも言える。それらを越える発想法として、奇跡のプレゼントが降ってきた状況を想像してもらうのである。

「ある朝、奇跡が起きて、寝てる間にあなたが困っているその問題が綺麗サッパリ解決していました。あなたはそれを、何により知りましたか?いったいなにが変化していたのでしょう?」

そういう仮定を置くことで、自分たちが解決不可能と思っている状況を一度リセットするのだ。だって問題が解決しているという仮定なのだから、問題への意識はリセットせざるを得ない。コペルニクス的転回である。
これをとば口にして、具体的な解決がどのようなものか、当事者が自ら設定する手助けをするのだ。

そして重要なのは、そのゴールが、具体的かつ小さめであることである。
朝起きたら世界が平和になっていましたハッピー、とかではない。
彼らがそのゴール設定をする際、それを自分たちで実現可能なところまで落とし込む、その手伝いを我々は受け持つよ、援助に関わる我々はそういう立ち位置ですかね。


カール・ロジャースの来談者中心療法にもでてくる話だが、答えはすでに利用者さんの中にある、という信頼がこの技法のベースになっている。
これ、傾聴の技法の基本にもなっているので、それらが身にについている介護職の多くにとっても、「原因を探らない、ゴールのイメージを引き出す」発想の転換は結構すっと入るのではないだろうか。そういう意味でも、これが介護系の皆さんの切り札的な知識になるのではと思っております。

あと、この手法の良いところは、利用者さんが持っているポジティブな要素を棚卸しして、広げていくところでもある。ネガティブの源たる原因は、見ない。見てもしょうがない、という立場である。
話題が明るい方向になるのは、現場では本当に助かります。

援助にかかわる、また自分が困難のただ中にある皆様の、ご参考になれば幸いです。



以下余談。

フォローさせていただいている、訪問介護士さんのご紹介されていた「対人援助の現場で使える聴く・伝える・共感する技術便利帖」という本(買ってみました)、SFAの話はないけれど、来談者中心療法など、上記の内容に沿ったものでとても便利そう。対人援助職の皆様にもお勧めです。

出版社(翔泳社さん)のご紹介サイトはこちら。


ちなみに、自分はこの解決志向アプローチの話、以前からお世話になっていたO先生のお誘いで、原宿カウンセリングセンターの田中ひな子さんのワークショップに参加して知りました。
これがその後の人生でこんなに役立つことになるとは。自分の人生問題の処理にも大いに役立っているフシもあります。感謝。


また、SFAの教科書代わりにしている本はこれ。薄くて安くて文章はおちゃらけていますが、侮れません。


そして、個人的にこれを知ったことで最も助かったのは、自分の思い詰めがちな傾向がかなり緩和されたことかもしれない。
植木等のように適当になったとも言えるが。でも発想の転換って、だいじ。


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