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第三の手すり ~ハンドレールとグラブバーと、あとひとつ

「手すりは大きく分けてハンドレールとグラブバー、その複合型に分類されます。ハンドレールは手を滑らせて使うもの、グラブバーは掴んで使うものです。」

みたいなことが、介護福祉士の教科書には書いてあるが、いわゆるプッシュアップの動作に必須のもので頻繁に使われるのに、存在が当たり前すぎるのか、なぜかこういう場面ではスコンと忘れられている種類の手すりがあり、不憫でならない。

なので、ここで声を大にして(独り言だが)こいつの役割を書き留めておこうと思う。


それは肘掛け手すり、英語で表現するならアームレストである。

洋式トイレで頻繁にお世話になるこいつは、ハンドレールと似てはいるが、横移動時に手をすべらせて使うわけではない。役割は上から手で押さえつける動作に対して反力を与えること、つまり立ち座り動作の支援。


だから握れる形状でなくても、例えば紙巻器の上が平坦になっていたり、いわゆる細いカウンター型でもいい。

また大事なのは身体の大きさ、特に幅との関係になるので、壁に取り付けるよりも、むしろ介護保険レンタル品の肘掛け手すり、これを利用して、より座面に近い位置取りにしたほうが使いやすかったりもする。


おまけの効果としては、アームレストそのものがトイレ内での危険な空間をあらかじめ埋めておくことで、利用者の不用意な動作を未然に防ぐことだろうか。

実は洋式便器と壁の隙間に、転倒してハマると人間はほとんど動けなくなってしまうのである。嘘だと思うならやってみたらいい。自分はやらない。我儘ボディにはリスクが高すぎる。


でも、一人暮らしで、冬の夜のトイレで致し方なくここにハマって身体が深々と冷えていくような場面を想像してみてほしい。

特に退院直後の、身体の動きが思うようにいかない、フラフラしている利用者さんには、そんなことにならないように、貸与品のアームレスト、肘掛け手すりの利用をついお勧めしたくなるのであった。


だが、えてして利用者さんが元気になるにつれて、この手すりは邪魔者扱いされがちである。

トイレで使われるものだけに、ご家族からこれは掃除が大変だというクレームが発生し、利用者ご本人からは足元が出っ張って歩きにくいと言われ、壁付けのシンプルな手すりに置き換えられてしまうのである。

不憫な子である。

ちなみにレンタル品とほぼ同じ形状で、ちょっと足元がスッキリした床固定型の肘掛け手すり、つまり住宅改修で取り付けが可能な製品もある。
あるのだが、バリエーションがどんどん減ってしまったため、選択肢が微妙である。あまり売れない、図体の大きい子は真っ先に在庫整理の対象になるのだろう。

やっぱり、不憫な子なのである。

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