サブスクリプションで考える企業 概要 3/X

では、Key Success Factor(成功要因)は何なんでしょうか?

Adobeのホームページに興味深いことが書いてありましたので、引用させていただきます 

「モノを買って所有する」ことでなく、「モノを使う体験」に価値を置き、その価値に対して課金する。それが、「サブスクリプション」と呼ばれるビジネスモデルだ。
https://www.adobe.com/jp/insights/180504-retention-drives-subscription-model.html

すなわち、日本でよく言われているサブスクリプションモデル=定額課金制と考えてしまうことは短絡であり、ユーザーエクスペリエンスを最大化することが必要になるということを意識する必要があります。

定額課金制と考えてしまうと、急にユーザ不在のビジネスモデルとなり、いかに解約しにくく定期的に顧客から金銭を徴収できるかということ考えるモデルとなりがちです。

したがって、成功要因はユーザーエクスペリエンスを最大化することにあるのですが、すなわち通常のビジネスとやらなければならないことは大きく変わりません。そこに定期的に変更、アップデートできるという条件が付くのでさらに面倒になるといってもよいかもしれません。

大枠の成功要因

1. モノ・サービスそのものの価値の向上

2. カスタマーエクスペリエンスを持続的に維持可能

3. カスタマーエクスペリエンスを常に向上


1. 

当たり前の話ですが、サブスクライブしてもらうモノの価値が低ければ新規客があり得ません。これは、新規に参入していただく際の景品や特典なども含めて考える必要があります。

例として、サブスクリプションの先駆けといってよい新聞を例に考えてみましょう。

新聞は、定期購読をする方には宅配サービスも含んでいるプランを、号外などがある際にたまに読むというだけの人にはキオスクやコンビニなどで購入していただくモデルです。今でこそWebでの配信という手法がありますが、昔は物理的な新聞紙を購入いただくしか方法がなかったこと、一度記事を作ってしまえばあとは、印刷枚数の問題なのでコストがWebモデルに近いといえるでしょう。

新聞を購入する方は物理的な紙を購入するわけではなく(緩衝材やその他の用途として購入する方も、最近は一部いらっしゃいますが。。。)、掲載されている記事の質をもとに購読する新聞を決めるのです。

ここで面白いのが、新規購読者を増やすために、新聞拡張団がとっている手法が現在のWebベースのサービスとほぼ同様の行動であることです。

キャプチャ

上の図は西日本新聞の新規購読の際に景品として購読者に上げるプレゼントでほかにも、有名どころで洗剤や、野球観戦のチケットなどがあります。これは、現在、新規にサブスクライブしていただく際に景品や特典(2か月間無料など)としている手法と全く変わりませんね。下はU-NEXTの例ですが31日間無料と銘打つことで新規の方のハードルを下げようとしています。

キャプチャ

2. 

新規参入していただいた後は、カスタマーエクスペリエンス(要は、顧客の体験)を持続的に維持することが重要となります。サブスクリプションモデルは、いつでも(月次のものが多いと思いますが)止められるのが売りの一つでもあります。よって、遅延や遅配といったことが発生し、お客様の体験が止まってしまうとその瞬間に解約に結び付いてしまう可能性が高まります。

これは、物理的にものがある場合とないWebベースのものとで分けて考える必要があります。

物理的にものがあるケース

新聞で考えれば、100部刷るときと1,000,000部刷るときでは全く違ったレベルのインフラが必要になることは明らかです。100部しか刷らないのであれば、最悪複合機で印刷することもできるでしょう。ところ、1,000,000部刷るのであれば輪転機が必要になったり、その輪転機も地域によって配置しなければ物理的な配送ができなくなってしまうという問題が発生します。配達員も同様で100部であれば、宅配サービスを利用するなど委託する必要がありますが、逆に1,000,000部を届けるのであれば自身で宅配網を形成したほうがコストが安く済みます。

よって、サブスクリプションモデルを考える際は、最初から今始めようとしているビジネスがどの程度まで大きくなる可能性があって、どのタイミングからインフラを変えていく必要があるのか?ということを明確にしておく必要があります。

ビジネスが大きくなったから、新しいインフラを検討するぞ~だと、パンクするまで気が付かず、実際のサービスが提供できなくなってしまうということが発生してしまうのです。

物理的にものがないケース

実は、物理的にものがないケースであっても同じようなことが言えます。普通に過ごしているとWebサービスってコピーするだけだから簡単に感じてしまいますが、実際にはインフラ整備に多額のコストがかかるのです。

例えば、Youtubeは、2006年当時ですら、すでにサーバーの維持コストに月間100万ドルに達すると推測されていました。結果として、このコストが原因かはわかりませんが2006年11月にYoutubeはGoogleに買収されています。

2017年当時ですでに1日10億時間を超過しているといわれており、2006年から同様の指標で比べることはできませんでしたが、10倍くらいにはなっているのではないかと思います。おそらく、現在ではさらに増えており、サーバーの維持コストだけでもすさまじいことになっていることは推して知るべしといわざるを得ません。

また、SaaS型(YoutubeはSaaSではありませんが)最初のうちは、ダウンロードも簡単だし、ストレスフリーになると思います。また、BCPといったことを考えなくとも創業者自身が対応していくことも可能です。ところがAdobeやMicrosoftのようなレベルまで来てしまうと、1つのセンターがダウンしたからOffice 365を止めるということはできません。拠点を2つ、3つと増やしていくことも必要になるため、かかるコストも2倍3倍と増えていってしまいます。

Youtubeが最初から買収されることを考えていたかはわかりませんが、SaaS型のサブスクリプションでも、物理的なモノが付属するサブスクリプションと同じで、最初から着地点と対応方法を考えておく必要があります。

いずれにしても、ある程度の大きさを目指す(べきである)サブスクリプションも今までのオールドスタイルのビジネスと同様に規模が拡大した場合の対応策を常に意識しておくことが、インフラとして必須であると考えてよいでしょう。


徐々に長くなってきましたので、最も重要な「3. カスタマーエクスペリエンスを常に向上」に関しては次に回します。


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