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命がけで海外に渡った人たち⑩ 中村直吉 明治時代に世界無銭旅行をした男

最近の円安もあって、すっかり外国旅行に行く気がなくなっています。

それなら想像の世界で旅行に出ようと、このシリーズを書き出しました。

関連の本を読んでいて、この人はスゴイとおもったのが、中村直吉という人です。

中村は明治時代の有名な冒険家です。

自分を「旅行狂」「風船玉」と自称していたそうです。世界一周を無銭旅行で果たしたことでも知られています。

三河国吉田呉服町(現在の愛知県豊橋市呉服町)で生まれました。

最初の外国旅行は1888年のことです。直吉は前年に結婚したばかりでしたが、妻を残したまま単身渡米しました。93年に帰国し、その間に生まれた子どもと初めて対面したそうです。「明治不可思議堂」(横田順彌著、筑摩書房)

たぶん、現代的な感覚で言ったら、一つの場所に落ち着けない人だったのかもしれません。ADHD(注意欠如多動症)とか言われるのでしょうが、こういう生き方だってあるはずです。

帰国後は、呉服町で帽子店を営む一方で政治活動にも関わりましたが、むずむずし始めたのか、再び海外渡航の計画を立てました。

明治34年(1901年)、36歳の直吉は帽子店を妻子に任せ、世界一周に出発しました。

ステッキを片手に、「World Explorer(世界探検家)」と書かれた白いリボンを洋服につけて、アジアから中近東、アフリカ、ヨーロッパ、南北アメリカ、ニュージーランド、オーストラリアをぐるりと回ったのです。

60カ国・5年10ヶ月に及ぶ旅で、その間の記録は、彼の「世界各国旅行証明簿」と名付けた冊子に記録されています。

中村直吉の世界旅行 約6年
世界一周航空券 有効期限は通常1年

行く先々では、各国の王族、貴族など著名人から一般市民まで出会った人々にサインを求めたため、冊子には400以上のサインが残されています。

基本的には各国内を徒歩で移動し、世界探検家という肩書を使って食事や宿泊を無償で援助してもらうという形で、世界を歩き回ったのです。

ずいぶんスケールの大きい「風船玉」です。

彼は帰国後、当時の人気作家である押川春浪と共編した『五大州探検記』と題する自己の探検記を出版しました。

五大州探検記は、アマゾンでコピー版が購入できます。読んでみるとけっこう引き込まれます。自分を「無銭旅行家」であると紹介し、高級ホテルにタダで泊めてもらう。

当時の移動手段だったフェリーにも、直談判して無料で乗せてもらっています。船長たちは「世界旅行とは素晴らしい、乗っていい」と大歓迎だったようです。

イギリスでは、世界無銭旅行していることが新聞記事になり、数千通のファンレターをもらった、とあります。

まさか、おもしろく書きすぎではとも思うのですが、地名、人名がたくさんでてくるので、旅行の途中で記録したメモを踏まえて、書かれているのでしょう。


同書のキャプチャ

日本人を見るのが初めての人が多いらしく「じろじろ見られた」と書いてあるのが興味深いです。

アマゾンを探検した経験を書いた「アマゾン体験記」は現在、「出にっぽん記」という本の中に収載されおり、手軽に図書館で読むことができます。

カギ括弧を多用したルポ風の内容で、今読んでもけっこうワクワクします。

産卵したばかりのウミガメの卵を山のように食べたり、大ヘビに食われそうになったりと、危険と背中合わせの旅行でした。

TBSテレビの世界ふしぎ発見で取り上げられたこともあります。
地元の図書館では、記念の展示会もあったそうです。見に行きたかった!

その他、以下の本にも短い記述があります。いま同じ事をやったら、途中で強制送還になるかもしれません。


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