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AI契約における交渉ポイントと留意点

こんにちは、よじまるです。

経産省から出された「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」がとても有用だということで、解説記事を書いています。

解説記事は以下のマガジンにまとめています。

概要はこちら。

今回の記事では第4章より、

AI契約における交渉のポイントとなる事項

について解説します。

どのような部分に交渉ポイントがあり、どの点に留意するべきなのかをおさえることはとても重要なので、この記事は解説記事まとめの中でもとても重要です。

目次

1. 交渉のポイントとなる項目

2. 各項目における交渉ポイントと留意点
 2.1 生データ
 2.2 学習用データセット
 2.3 学習用プログラム
 2.4 学習済みモデル
 2.5 学習済みパラメータ
 2.6 推論プログラム
 2.7 ノウハウ

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1. 交渉のポイントとなる項目

AI利用の契約に置いて交渉のポイントとなる項目は以下の7つです。

1. 生データ
2. 学習用データセット
3. 学習用プログラム
4. 学習済みモデル
5. 学習済みパラメータ
6. 推論プログラム
7. ノウハウ

上記の7つについての権利の帰属のさせ方、利用条件の設定などによってAI利用の契約の金額などが大きく変わります。

交渉となるポイントについて両者が、「作成したものをどのように利用をしたいのか」をきちんと考慮し交渉をした上で契約を結ぶことが重要です。

それぞれについて、留意点と共に見ていきます。

また、権利帰属や利用目的に関する基本的な考え方は以下の記事で紹介しておりますので、そちらも合わせて参照してください。

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2. 各項目における交渉ポイントと留意点

2.1 生データ

交渉ポイント
- 利用の目的、時期、範囲、対価その他の利用条件
留意点
- データは無体物であるので所有権の保護対象外であるため、基本的にはアクセス可能な者は自由にデータを利用して良い

- データ利用に関する制限を設けたい場合は、明示的に利用条件を決める必要がある

- データが著作物やパーソナルデータに関連する権利処理が必要かどうか、必要だとして権利処理が可能かどうかを検討する必要がある

生データに関しては、特に留意点の部分が重要です。解説記事にて何度か言及していますが、データは無体物といい所有権の保護対象外です。

そのため、アクセスできる者は基本的にはデータを自由に利用して良いことになります。データ提供者がデータの利用に関して制限を設けたい場合は、契約における利用条件においてその旨を記述する必要があります。


「誰がアクセスできて、どのような利用をして良いのか」ということを交渉条件に、金額感を調整することが望ましいです。

例えば予算が厳しい場合は、提供するデータの利用を制限しないことによって契約金額を下げるような交渉などもあり得るでしょう。

代わりに、金額で困っていない場合は、妥当な金額を提示することによりデータの利用に制限をかけることも考えられます。


その他、データの利用に関しては権利処理について気をつける必要があります。データが著作物である場合や個人情報などのパーソナルデータを含む場合に、それらをどう処理するかという問題です。


著作権法において、情報解析のための複製は一定の限度で認められていますので、該当のデータの利用が限度を超えるのかどうかなどについて検討する必要があります。

2.2 学習用データセット

交渉ポイント
- 権利の帰属
- 利用の目的、時期、範囲、対価その他の利用条件
留意点
- 学習用データセットが何を指すかについての定義が重要である

- 学習用データセットの作成主体は、当事者の合意によって定めるべきである

- 権利帰属や利用条件は、各当事者の寄与度に照らし合わせて利益のバランスによって取り決める

- 生データに関連する情報を付与する「アノテーション」は第三者に委託されることが多いため、契約にて承諾を取る必要がある


学習用データセットについても基本的には権利の帰属や利用条件が交渉のポイントとなるが、この時にまず大事なのが学習用データセットが何を指すかを正しく定義することです。

学習用データセットは生データに情報を付与したり不適切な情報を排除したりすることによって作成します。このような前処理、正解データの作成に置いては希少性の高いノウハウが用いられることが多く、その寄与度が大きいほど学習用データセットの権利に関して優位性が認められやすいです。

データに関してどのような寄与のあり方があるかについてはガイドライン内にて以下のように整理されています。

引用元: AI・データに利用に関する契約ガイドライン

学習用データセットについて、AI企業の側のノウハウが大きく寄与する可能性が高く、そのノウハウが解析される恐れがある場合にはデータセットを契約上の提供対象としないことも検討されます。

また、データが提供された時に、契約上要求されるもの以外の学習済みモデルを生成した場合に、これが秘密保持契約などにより禁じられた目的外利用に該当するか、ということは当事者間の合意内容によります。

そのため、生データ等の利用の目的や範囲を事前に定めておくことが重要です。

2.3 学習用プログラム

交渉ポイント
- 学習用プログラムの権利の帰属
- 学習用プログラムに関する利用条件
留意点
- 学習用プログラムの作成には高度なノウハウが要求される

- 権利の帰属に関する交渉は、利用条件が当事者間の利益のバランスを損なう者ではないかを熟慮するべきである

- 権利帰属や利用条件の設定に関しては、学習済みモデル開発後に、ユーザ自身が追加学習などにより新たな学習済みモデルを生成する必要性があるかどうかが影響を与える

学習用プログラムについては、プログラムの権利をどちらに帰属させるかということやプログラムの開示の必要性などが交渉のポイントになります。

まず、学習用のプログラムの作成には高度なノウハウが要求されることから、そのプログラムの権利をユーザ(大企業など)に帰属させる場合には、利用条件がバランスを損なうものでない必要があります。作ったプログラム自体をAI企業も自由に使っていいことにする、契約の金額を高く設定する、などが必要ということですね。

そして、契約における権利や利用条件の設定においては、開発後のことも考える必要があります。


例えば、学習モデルの作成後に、ユーザ(大企業)が自分たちで追加学習などを行って改良のモデルを作りたいのであれば少なくとも利用許諾を受ける必要があります。

逆に保守・運用に追加学習なども含まれているような契約をする場合においてはプログラムの利用を許諾しないということになるでしょう。

2.3 学習済みモデル

交渉ポイント
- 提供方法

- 利用条件
留意点
- 定義が重要である

- 提供方法

- 再利用モデルの取り扱い

 AIの利用に関する契約においては、学習済みモデルに関する権利の交渉が最も重要です。まずは、齟齬を避けるために

学習済みモデルが


・学習用デーセットを含むか
・学習用プログラムを含むか
・学習済みパラメータに加えて推論プログラムを含むか


についてきちんと共有・合意する必要があります。


また、提供方法は基本的には判読や二次利用が困難な方法によって提供が行われることについても把握する必要があります。


権利の帰属や利用条件については、以下を詳細に決めることが求められます。ここで、再利用モデルについてどのように扱うかも議論する必要があります。

引用元:AI・データに利用に関する契約ガイドライン

2.5 学習済みパラメータ

交渉ポイント
- 利用条件
留意点
- 学習済みパラメタは数値情報であり著作権法上の保護が及ぶ可能性は低い

- 前提としては、学習済みパラメータにアクセス可能なものは自由に利用して良い

- PoC段階の成果として学習済みモデルが性能評価目的で提供される場合、その利用の目的や範囲を制限したい場合は契約に明示するべきである

学習済みパラメタについては、著作権の保護が及ばないものであり、そのためアクセスできるものは前提として自由に利用していいことになるため、それらを制限したい場合は契約に明示するべきであると留意する必要があります。

2.6 推論プログラム

交渉ポイント
- 推論プログラムの提供の可否をはじめとした利用条件
留意点
- 推論プログラムは学習済みパラメータが組み込まれたプログラム

- 著作権法あるいは 特許法の保護が及びうる

- 学習済みモデルの提供が契約上定められている場合、推論プログラムが明示的に除外されていない場合はユーザ(大企業)もプログラムを利用可能と理解されることが多い

- ベンダ(AI企業)とユーザ(大企業)の双方に権利を帰属させる場合は注意が必要


推論プログラムについては、学習済みモデルに組み込まれたものであることから、学習済みモデルの利用が記述されている場合、明示的にプログラムが排除されていないのであれば推論プログラムの利用も許諾されていると解釈される可能性が高いです。

また、このプログラムの権利をベンダとユーザの双方に帰属させる場合には著作権法や特許法について意識した交渉を行う必要があります。


2.7 ノウハウ

交渉ポイント
- 生成されたノウハウの取り扱い
留意点
- ベンダ(AI企業)は競争力を毀損する恐れのあるノウハウの開示には慎重になるべきである

- ノウハウの開示も当事者間の利益のバランスによる

- 生データにユーザ(大企業)のノウハウが含まれることもあり、学習済みモデルの権利についてはその点も考慮する必要がある


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まとめ

今回の記事では、AI利用の契約における交渉ポイントとなる項目と留意点について解説しました。

AI・データの利用に関する契約ガイドライン」のAI編のまとめは以上になります。

他の解説記事などは、こちらのマガジンにまとめておりますので契約を検討される度に参照してください。

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株式会社ACESでは、上記のガイドラインの内容を踏まえ、AIの技術導入及び技術導入のためのコンサルティングを行っております。

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