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#テキレボ新刊 木村凌和『竜の伝説』先行レビュー

木村凌和さんよりご依頼を頂戴いたしまして、テキレボEX2の新刊『竜の伝説』の先行レビューを書かせていただくことになりました。
ありがとうございます!

※ちなみにレビュー等のご依頼についてはこちらに記載しています。


『竜の伝説』作品紹介

◆書影

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『竜の伝説』テキレボEX2webカタログ

高校二年生の暮葉は行方不明の兄を探している。だが、暮葉は兄を狙う危険な連中に追われていた。
危機を救ってくれた二つ年上のクラスメイト・翼が言うには、暮葉の兄は翼たち一族の仇敵なのだという。いっぽう、二人の知らないところで暮葉の兄・皐月と翼の義姉・颯は一夜を共に過ごしていた。
暮葉は、皐月が研究していた異能力者《竜使い》に追われる中で翼と惹かれ合い、自らの出自を認めて未知の道へ踏み出していく。

第一話試し読み

 誰かを追いかけている。
 胸がすうすうする。会いたい。戻りたい。でもあなたは誰だっけ? しろくぼやけた視界にひとつが人影があるのに、どんどん先に行かれてしまう。待って。待って。手を思いっきり伸ばして、届いた。私の手よりもひとまわり小さい手のひら。しっとりしてあたたかい。人影が振り返る。
(『竜の伝説』p.6)

物語は、女子高校生の東野暮葉(ひがしの・くれは)が、家に帰って来ない兄・皐月(さつき)を案じるところから始まります。

穏やかではないけれど、でもまだどこかのんびりした登校の風景。親友の秋穂(あきほ)には「お兄さんも大人なんだから」とまともに取り合ってもらえない一方、耳を傾けてくれたのは意外にも「あおい頭」の問題児、瑠璃翼(るり・たすく)でした。

その後も翼は、やくざ達に連行された暮葉を助けてくれるのですが、翼の姉である夏子葉(かずは)とコスモスという少女の登場で、物語の雰囲気はがらりと変わります。

公園に逃げ込んだ暮葉の目の前で、突然燃え出す樹木。何でも燃やす能力を持っているコスモスの仕業でした。(彼女のような異能力者を《竜使い》と呼ぶことが後ほど明かされます)

夏子葉が言うには、彼女は皐月と「仕事の知り合い」で、皐月が突然姿を消したために彼を探しているらしいのです。一気に不穏さが加速しますね。

この場では夏子葉に見逃してもらい、翼の部屋に泊めてもらうことになった暮葉。ここで彼女は、翼の複雑な家庭事情の一端を知ることになります。

一方、当の皐月はというと、翼の義姉である(さつ)とともにいました。

「東野皐月」は本当の名前ではなく、彼の本名は「朱伊皐月」(あかい・さつき)であり、颯から、さらにはもっと多くの人間から憎まれている人物のようで……。

兄はいったい何者なのか? 翼とその一族「瑠璃」とは何者なのか?
暮葉は無事に兄と再会することができるのか?
『竜の伝説』は、「竜」を巡る人々の行く末を追う群像劇であり、ハードボイルドな現代ファンタジーです。

『竜の伝説』みどころ①クールな文体と壮大な物語

……と、前項ではだいぶ単純化して冒頭と作品全体のご紹介をしましたが、実際に読んだ印象は、おそらくもう少し複雑なものになるだろうと思います。

『竜の伝説』には、読者に状況をすっかり把握させてくれるような親切な――ある意味ご都合主義的な、説明パートはほぼありません。

作品によっては、状況が分かりやすく整理された状態で読み進められたほうがよいこともあるでしょう。
ただ本作については、この書き方がよくマッチしていると思います。
読者が抱えたままの「分からなさ」が、作品に緊張感と臨場感を与えていて、突然兄を巡る追跡劇に巻き込まれた暮葉の不安や戸惑いにも重なるからです。
この、読者からすると一見突き離されたような感じが、木村さんの文体から感じるクールさの所以かもしれません。

もちろん作中では少しずつ状況が開示されていくので、最後まで「分からない」ままの作品ではありません。
読み進めるにつれ、『竜の伝説』はハードボイルドであり、ファンタジーであり、SFであり、また家族の物語でもあることが分かります。このジャンルレスな多面性が、本作の大きな魅力です。

その全容が明らかになったとき、読者は「伝説」の壮大さに驚くことでしょう。そして、本作に書かれたものがそのほんの一端にすぎないことに気づくでしょう。

『竜の伝説』みどころ②因縁を巡る群像劇

◆『竜の伝説』人物相関図

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前述した通り、『竜の伝説』は群像劇でもあります。兄の失踪をきっかけに己の出自と向き合うことになる暮葉と、優しい心を持ちながらも瑠璃家の呪縛から逃れられないでいる翼を中心に、多くの登場人物が複雑に絡み合っています。

物語が進むにつれて、登場人物たちも違った顔を見せ始めます。驚くべき皐月の正体、残忍で哀しい《竜使い》の少女たち、親友の秋穂も。そして暮葉自身もまた……。

彼らに共通するのは、みな自分の生まれに強く縛られていることだと思います。「竜」を巡るある一族の狂奔が、不幸な運命をいくつも生み出してしまったのです。

従容と哀しい運命を受け入れる者もいる中で、手を取り合って強大な敵と対峙する暮葉と翼の姿が強く印象に残ります。
ふたりの闘いは、「竜」のためなら他の犠牲をものともしない巨悪との闘いであると同時に、自らの生まれと血の因縁との闘いでもあります。

果たして、ふたりは因縁に打ち克てるのでしょうか?
その結末を、ぜひお確かめください。

『竜の伝説』を購入するには?

全通販型同人誌即売会「テキレボEX2」(正式名称「Text-Revolutions Extra2」)にて購入できます。
木村さんのサークル「夢想甲殻類」の他のご本をはじめ、参加サークルさんの登録作品をまとめて通販することができます。

・通販専用サイト公開期間 2020/12/26(土)夜~2021/3/21(日) 
・発送開始 2021/4/17~4/19頃

イベントの詳細、購入方法については下記リンク先を参照ください。

また、BOOTH通販でも取扱があります。

※本記事の書影および人物相関図は、作者の木村凌和さんより提供いただいたものです。

頂戴したサポートは各種制作費に充当いたします。