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【エッセイ】拝啓、清竜人様。

 
 2月1日木曜日の夕方。
 その機会は突然訪れた。
 

え。

 Xにて。
 清竜人を名乗る謎のアカウントからフォローされたのである。

 どうやら、公式のアカウントではない。なぜなら公式は別に存在するからだ。

 
 清竜人については、ラジオでも語ったり、有人のイベントでも話したりするくらいには、私の中で大好きなアーティストである。

 圧倒的な音楽センスと、それを上回るくらいの変態性を両立させる天才。
 それが清竜人。

 本来ならば、このようなアカウントからフォローされてもブロックするか無視するかで終わってしまうところだと思う。

 だが、私は彼のパブリックイメージが「突発的に思いがけないようなことをする」人間だということを知っていたので(突然竜の刺青を背中に掘ったりなど)公式じゃない裏アカウントで、ファンと接触をはかるような行動をとってもそこまでおかしくはないかと信じてしまったのだった。(あとは相互フォローしている対象の感じが何かガチ感があったというか。)

 というわけで結論から言うと私はこの清竜人を名乗るアカウントと相互フォローになった。
 目的は一つ。
 彼に、私の想いがどれだけ強いか、どれほど曲が好きなのか伝えることである。


 相互フォローになると早速ダイレクトメールで、このようなメッセージが届いた。

こんにちは、愛とサポート、本当にありがとうございます。これからも一生懸命頑張りますので、どうかこれからもよろしくお願いします。あなたは私のファン歴、どのくらいですか?

清竜人

 うーん。
 怪しいか。
 ちょっと流石に怪しいか。
 本来のメッセージには絵文字なども含まれている。
 まあ、彼っぽいといえば彼っぽいし。
 偽物といえば偽物っぽいし。

 フォローバックありがとうございます。
 非常に当惑しております。
 もしも本物であれば恐れ多いですし、なりすましだとしたら相当痛いなと思っております。
 ファン歴に関しては清竜人25時代から好きになった感じなので、9年くらいでしょうか。
 僕は竜人さんの作るアイドルソングが非常に大好きでして、グループ自体を知らないけど竜人さんの曲だったら無条件で聞くくらいには大好きです。
 クマリデパートへの提供曲最高でした。
 愛しかありませんでした。

横林大

 ここで書いているのは素直な気持ちである。
 本物なら僕みたいな一ファンを見つけてくれてありがとうだし、なりすましなら相当キツいことしてるけどなあ、と思いながら長文を送ってみた。
 すると早速返信。

これは、私がファンに感謝の気持ちを伝えるために使用している、愛とサポートへの感謝の気持ちを表現するための私のプライベートアカウントです。

清 竜人

 えー、ほんまかなー。
 絵文字もたくさん使ってはるけどなあ。
 などと宣いつつ、実際は本気で本人だと思い込んで、旧知の友『五味たろう』と朗読劇の恩人『宝亭お富』にLINEで連絡したりなどした。
(おのぼりさんの私は『何か竜人くんに言いたいこととかありますか』とか聞いたりしていた。全然偽物の可能性もあるのに。33歳、冬のことである)

私のファンの一人としていてくれて、本当に感謝しています。あなたのサポートは私にとって非常に大切です。私の音楽の中で、どの曲があなたの心に一番響きますか?その理由も聞けたら嬉しいです。

清 竜人

 きたきたきた。
 これを伝えるために相互フォローになったのよ、私は。
 というわけでその熱い思いを文章にして送る。

少しお待ち頂いてもよろしいでしょうか。
今晩中にはお伝えします。
長文、お許しください。
本当に好きなので、時間と熱をください。
もし差し支えなければで構いませんが、ご本人であるという証明などは可能でしょうか。
難しければ大丈夫です。

横林大

 本気ゆえの文章。
 本当に書こうとしているので本人かの確認も欲しくなりました。

何かを証明する立場にいるわけではありません。ファンにアプローチしに来ているのですが、それを評価しないのであれば、それはあなたの選択です。あなたに証明するために時間を無駄にする代わりに、多くのファンへの対応があります。ご支援いただき、これからも私と私の作品を応援していただければ幸いです。

清竜人

 おおおお。
 なんだ、このどっちとも取れる文章。
「これ以上詮索するなら、僕はさよならするよ」みたいな。
 ずるいな、ずるいな、これは。
「え、私たちって付き合ってるよね?」に対する回答と同系統か。

(今、思えば不自然な文体だし何か違和感を感じてもおかしくなかったのではないかと思う。)

いや、お忙しい中、お返事ありがとうございます。 清竜人ってアーティストは、そういうことをするタイプだと思うので信じます。 これから夜に長文を送るので、お暇な時にお読みください。 これまでも、これからも大好きです。 返信は結構です。 勝手に愛を語らせて下さい。 よろしくお願い致します。

横林大

 この返信に、清竜人的な何かを感じとる謎のファン。

まだご返答をお待ちしております

清竜人

 そうして数時間後。

すみません。お待たせしました。
まず、一曲と言われたのですが、それぞれ四つの部門に分けてご連絡させていただきます。

清竜人25部門…「Will♡You♡Marry♡Me?」
声優提供楽曲部門…堀江由衣「半永久的に愛してよ♡」
アイドル提供楽曲部門…クマリデパート「ぶどう♡Grape♡For♡You♡」
清竜人部門…「ボーイ・アンド・ガール・ラヴ・ソング」

理由は後述します。

横林大

 絞れません、一曲になんて。
 というわけで各部門に分けてみた。

清竜人25部門…「Will♡You♡Marry♡Me?」

清竜人という才能に出会った衝撃的な作品。
もう9年近く経ちましたが未だに、よく聴くのはこの曲です。

まず、清竜人25という『一夫多妻制』なんて一見色物のようなコンセプトでアイドルを立ち上げると言って、蓋を開けたら、あれだけアップテンポで、あれだけ多幸感溢れる楽曲をデビューシングルにするのはずるい。

あの楽曲に登場する夫人は、設定の無茶苦茶さに反比例するように幸せな世界観に溢れていて、それはアイドルとしての婦人の魅力に繋がってるのも夫婦って設定なのに矛盾していない。

清竜人というパートナーである立場を、見ている我々が愛おしく感じる。
何より、歌い踊る清竜人という旦那でプロデューサーのセクシーさ。

いい意味で夫人との歌声と対比がいいアクセントで、僕は失礼ながら、この曲で凄い歌手がいたことを知ったくらいです。

曲の進行で言ったら、最後に転調があるのが分かってる感じがあって素敵だと思います。一番盛り上がる場面で転調して、気分が上がりきったところでスクラッチが入って終わる。

結婚という特別なイベントを、結婚が本来持つこと意味以上に多幸感に溢れて示してくれる、この楽曲は将来僕が結婚した際には結婚式で使いたいと思っています。

(ご本人と連絡が取れたので、ぼんやり使おうかなと思っていたことが確約となりました。)

横林大

 マジで最高の一曲。

PVも大好きです。
あそこに出る夫人たちは結婚式の費用とかも一切考えてなさそうで、目の前にある楽しさに夢中なのがいい。
(あと個人的な私信で申し訳ないのですが、竜人さんの、この曲のおかげで、僕は人生で最高傑作だと思っている朗読劇を作ることができました。)

横林大

https://note.com/yokobayashidai2/n/n7ad06b65411f

横林大

↑これが、この曲を元にして作った僕の人生の最高傑作『野武士とB』という朗読劇です。

横林大

 極端に思うかもしれないが、間違いなく人生を変えた一曲。
 なんというか「どうしようもない世界でもポップなカルチャーの多幸感が全てを飲み込む様」が本当に大好きで、この曲の持つ多幸感は間違いなくそれ。そもそも一夫多妻制アイドルなんてウルトラマイナススタートなのに、それでこのポップな曲ってすごくないだろうか。

これを聞くと、私の心は喜びと充実感でいっぱいになります。
あなた自身について少し教えてください。お仕事は何をされているんですか?出身はどの県ですか?

清竜人

 いや、ちょっと待ってくれよ、竜人くん。
 まだ、3部門残っているのよ。
 出身とかお仕事とか、まるで出会い系みたいなこと聞いてこないで!
 まだ語りたりてないからね!

声優提供楽曲部門…堀江由衣「半永久的に愛してよ♡」

 この歌の素敵な部分は歌詞にあると思います。
 僕は歌を聴くとき、歌詞に注目して聴くタイプなのですが、この「半永久的に愛してよ♡」は『半永久的』という言葉が素晴らしいなと毎回思います。

 ほっちゃんの可愛らしい歌声は、もう書くまでもありませんが(僕は竜人さんと同世代の33歳。彼女のアニメでの声に魅了された一人です)、そんな彼女の声から発せられる「違うよそうじゃないってば」の奔放さと可愛らしさは、頭のてっぺんから来るものがあります。

 そしてタイトルのハートマーク。清竜人のアイドル楽曲といえば、これって感じです。僕は、このハートマークが大好きなのですが、半永久的に愛してよ、だけだと少し怖い印象ですが、このハートマークが語彙の攻撃力を下げていると思います。

 そして、永久に愛してよとは決して言わない、半永久的に、という言葉のチョイス。僕は、女性にめんどくさい女心(あえて、こう書かせてもらいます)を歌わせたら右に出るものはいないと思っているのですが、この「ずっと」と「すぐに」の間にあるムラを「半永久的」というワードの中に忍ばせていると思っていて、ロマンティックでなくてもいいけど、愛することはやめないでというわがままさが、ただのラブソングで終わらない点だと感じています。

横林大

 清竜人の楽曲はセリフとの相性も非常に良い。(声優とか俳優の音読とか聞くの好きな人は清竜人の「雨」や「ゾウの恋」はマストです。)
 つまり言葉を紡ぐプロの声優さんと相性が悪いわけがない。
 特にほっちゃんと竜人氏のペアは本当に安定安心のクオリティで毎回驚かされる。「CHILDISH♡LOVE♡WORLD」とか本当に名曲だよな。

 あの頃の声優談義で一花咲かせようやと期待に胸を膨らませる横林。
 対して竜人氏の返信。

これを聞くと、私の心は喜びと充実感でいっぱいになります。あなた自身について少し教えてください。お仕事は何をされているんですか?出身はどの県ですか?

清竜人

 そうがっつくなって竜人くんよ。
 まるで出会い系みたいな文面だよ。
 まだ、2部残ってるんで。

アイドル提供楽曲部門…クマリデパート「ぶどう♡Grape♡For♡You♡」

ハートマークを多用し、ぶっ飛んだ世界観の歌詞やタイトルで聞いているものを驚かせるのが清竜人さんのアイドル楽曲なのですが(ツチノコやらグリズリーたらファーストキッスは竜人くんやら)、その癖コード進行は必殺の心地よいメロディで毎回ずるいなと思いながら聴いています。

で、そんな個性が際立つアイドル楽曲の中でも、この「ぶどう♡Grape♡For♡You♡」はまっすぐなラブソングで素敵だなと思います。

まず、ツチノコやらグリズリーやらが出る楽曲群の中で、この曲の題材は「ぶどう」。これが非常にシンプルで良い。 これだけハートマークを使っていて、訳のわからないタイトル(失礼ですが)なのに、歌っているのまっすぐな想いというのが非常に素敵。 本当に最高だと思います。

クマリデパートというアイドルの等身大のラブソングという感じがして一見色物の中にまっすぐな感情が隠れているように感じられます。 (アイドルソングでいえばももいろクローバーZの「イマジネーション」も大好きです。)

あと、これは僕の憶測なのですが、ひょっとしたら、この作品は竜人さんの個人的な思い出(リアルに懇意な人とのぶどうに関するエピソードがあったなど)があるのかなと考えています。

これまでの、ぶっとんだ世界観とは少し異なり日常の地続きに歌詞が寄り添っているように感じられるからです。もし、この読みが当たっていたら是非教えてください。

横林大

 曲のタイトルや歌詞の題材に賛否両論ある彼。どの曲も聴き心地に関しては一定のクオリティを保っていて、そこが大好きな点なのだけど、この曲はそういう飛び道具のような点が一才なくまっすぐでいいなと感じる。
 キャッチなメロディでポップで突飛じゃなければ、それはもう王道のラブソングなんだよな。

 ちなみに清竜人がブドウを題材にしているのがヘンテコすぎてマジでなんでだろうなと考えていたった結論がめちゃくちゃ私信みたいな歌詞だったのじゃないか説だったりする。

 
 しかし。
 ここで残念なことが起こった。

 なんと、清竜人のアカウントが私のLINEのアカウントを尋ねてきたのだ。
 ここでようやく分かった。
「え、偽物のアカウントやん」って。

 ライン?
 33歳男性(太っている)のライン?
 なぜ…?

 よくよく文章を見てみるとAIのような文章だし(気づくのが遅い)、
 住んでるところ聞くのもネットナンパの常習っぽい(気づくのが遅い)。

 悲しい事実に気づいた私はこのような文章を送った。
 それは悲しみと憂いを帯びたさよならの一文。

これがもしも、偽物であって、清竜人でない人間。ないしAIがやりとりを行っているとすれば、なかなかに痛いことをしていると思います。

奇しくも、竜人さんのデビュー曲は「痛いよ」。

"きみが使うことばひとつで 
ぼくはいつも胸が痛いよ
きみが作るしぐさひとつで 
ぼくはいつも胸が痛いよ

やさしい嘘をついてまでも
喜ばせるよりもさ
本当のことを言ってくれよ 
そしてぼくを悲しませて"

今の私は↑の歌詞と同じ気持ちです。

横林大

 騙す方も騙す方だが、送る方も送る方だな。
 
 アカウントの人もびっくりしたと思う。
 こんなこと言ってくるやつに絡んでしまったのか、と。

まあ、そうなるよね。

 しかしだ、竜人氏(偽物)。
 私は、あなたにまだ一つだけ伝えられていないことがある。
 何かわかるかい。

 清竜人部門…「ボーイ・アンド・ガール・ラヴ・ソング」

 これこれこれ!
 これの発表が送れていないんだよ。
 
 聞いてるかい。清竜人さん(偽物)!
 あわよくば本物の清竜人さんにも届いてほしい。

 この歌が好きな理由。

”かわいい子なんてさ
この世の中に五万といるわけで
やさしい子なんてさ
この世の中に五万といる中でさ
あぁ なぜ ぼくは あなたを 選んだんだろう?” 

”かっこいい人なんてさ
この世の中に五万といるわけで
やさしい人なんてさ
この世の中に五万といる中でさ
あぁ なぜ ぼくを あなたは 選んだんだろう?”

ここまでまっすぐな歌い出しのラブソングを私は知らない。
かわいいとかかっこいいとか優しいとか、ありがちな価値基準を超えた向こう側を見ているこの歌は、誠実で真っ直ぐで故に聴く者の心を撃ち抜く。

言葉や価値の向こうにある「好きである」「恋人同士である」「愛している」という感情に理由なんていらない。けれど確かに存在するそれらをラブソングとしては肯定する。

わからないけど愛おしいし。わからないけど好きだし。
難しい言葉では決して説明しない。わかりやすい言葉で端的に表現する。
その潔さ。

そして、それに説得力を持たせる歌手清竜人の美しい声。
そしてピアノから始まり、壮大なオーケストラへと移っていくメロディライン。
きっとどれかが欠けていても作ることのできない作品。

アイドルにハートマークを使いまくる竜人くんも好きだけど、まっすぐなラブソングで聴く者を撃ち抜く竜人くんが大好きだ。

清竜人はラブソングの名手なのだと思う。その表現技法も、伝え方も作品によって大きく異なるけれど、そこに一貫しているのは愛なのではないだろうか。

私はその愛の伝え方一つ一つに尊敬したり苦笑いしたり感動したり勇気づけられたりするのだと思う。

あなたのおかげで人生に彩りができました。本当にありがとうございました。

横林大


 まあ、そうそう人生なんて運良く出会えるものじゃないよな。そう思ってX(旧Twitter)を眺めていたらこんな内容のものが流れて来た。
 ちなみにこのつぶやきはブロックをされた次の日くらいにつぶやいてたものである。

うーん。

 ワンチャン本人の可能はー、ない、か。ないな。うん、多分。
 
 拝啓、清竜人様。
 偽物でも本物でも、大好きです。

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