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大内帝国のこと2

子供の頃親に無断で買った学習漫画(いや、あるいは親に買ってもらったのか、記憶はあやふやだ)、それは集英社の人物ごとの学習漫画だった。一冊だけ持っていて、足利尊氏と義満と義政が載ってたやつだった。

 恐らく表紙で選んだと思う。尊氏と義満は普通なのだが義政が完全に世の中を舐めてる不良みたいな表情で頬杖をついて読者を見ていた。  
 中の内容もいい意味でひどかった。義政は最初いたいけな子供なのだが細川勝元などの周囲の人間が義政を舐め腐った態度を取るため、順調にグレて25歳のころにはすっかり遊び人になってしまう。遊んではいるが義政の表情は常に潜在的な不満と怒りをたたえ、不品行で自分を蔑ろにする世の中に復讐しているかのようだ。 
 彼は応仁の乱で近所の寺が燃えても「みんな燃えてしまえ」とか言って薄暗い余裕感を気取っている。その子供向けにあるまじき退廃ムードに子供ながらヤバいと思った。そんな義政も大事な時には慌てるだけで結局何にも決められない。ボンボンの薄っぺらいデカダン仕草なんて詰め寄ってくる嫁とのっぴきならない現実の前には全く無力なのである。言うことも二転三転し、最終的に人生に疲れた的なノリで内に篭ってしまう。一見哀れなようだがかなり自分の蒔いた種である。ダサいことこの上ない(そしてものすごくリアルだ)。
 庶民とかも全然可哀想じゃなく、常に火事場泥棒みたいなチンピラクズ感丸出しである。細川勝元もすごいクズで、義政のことなんか1ミリも敬ってない。まるっきりバカにしている。対する山名宗全のパーソナリティーはあまり見えないが顔からして破壊するしか能がない(byフレーミングリップス)感じである。富子は押しの強い腹黒ヒスだし義視はいかにもこういう感じの人いるいる的な意志薄弱なくせにすぐキレるみたいな奴で、誰一人としてろくなのがいない(なお、自分が描いてる漫画の主人公のおじいさんである大内政弘も顔だけ登場するが、もうなんか単なる破壊神ゴリラみたいな存在感である。このゴリラが貴族から和歌を習い、初めて自分が人間なのだと自覚し、友情が芽生えるが悪い大企業がゴリラの力を金儲けに使うために二人を引き裂き云々というところまで想像できる。タイトルは「応仁元年のフットボール」。)。こんな絶望的なメンツで子供向け学習漫画である。歴史じゃなくてなんか違うものを学んでしまいそうだ。
 でもこの漫画が大好きだった。絵がすごく好きだった。ようするに、世の中を恨み、自分を恨み、デカダンス気取りだが結局カスなのである。その怒りが自分にこう訴えかけていた。「お前、よくそんなくだんないことやってんな、疲れない?」多分子供の頃の自分はそんなこの絵に何らかの救いを感じていたのだ。でもこの絵を誰が描いたのか、当時の自分は知らなかった。

 いずれにせよ自分は2020年、コロナ禍の初め頃にこの漫画を買い戻した。そして描いた人の名前がわかった。宮腰義勝という人だった。

つづく

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