『初舞台』

※ 2~3分で読めるショートショートです。

 僕の年齢は二十歳。劇作家になり、自らも舞台に立とうと決めた。才能があるのは分かっていた。作品は一年後に完成した。作品は友人だけでなく、文壇のお偉方からも絶賛された。上演はすぐに決まった。そこそこの作品ばかりを上演しているそこら辺の劇場ではない。真の文学作品だけを上演する世界で唯一の劇場だ。


 稽古はすぐに始まった。心ある多くの資産家が援助を申し出てくれたし、世界中の俳優が端役でもかまわないから出演させて欲しいと言ってくれたからだ。おかげで稽古は、快適に、順調に進んだ。出演する俳優は有名無名を問わず優れていた。僕が書いた作品の感情も思想も、僕の期待以上に体現してくれた。上演前から新聞は、歴史上最高の傑作になると書いていた。また、新しい才能現るとか、ある文豪の再来とも書いていた。僕は若かった。文学的にも、社会的にも、経済的にも、成功は約束されていた。


 しかし、そうはならないだろう。上演初日、最後の打ち合わせが終わったあと、僕は肝心なことを忘れていた。世界はとっくの昔に終わっていたのだ。たった今、台詞の確認をしたはずなのに頭のなかには何の言葉もない。自分で書いた作品だというのうに。それもそのはず。観客席は立ち見がでるほどの満員だったが、彼等は皆、生まれつきの死者なのだ。しかも、こうしている間にも、一秒ごとにますます死んでいく。そんな人達に、どんな芝居を演じろというのだ。それでも僕は、楽屋を訪れるひとたちと挨拶を交わしたり握手したりしながら、自分が書いたものを思い出そうとした。せめて自分の台詞だけでも。だが、カラカラの雑巾のようにいくら絞っても何もでてこない。


 時間がきた。僕は舞台にあがり、自分の位置に立った。俳優達もそれぞれの位置に立った。劇は僕の台詞から始まる。彼等の期待の目が僕に集まる。
開演のブザーが鳴る。幕がゆっくりと上がり始める。僕は少しずつ沢山のライトに包まれる。やはり台詞は思い出せない。
 劇が始まる。世界には何もない。僕は最初の台詞を話し始めた。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

いつか、石碑で自作を出版したいのでご支援お願いします。

よかったらTwitterのほうも見て下さい。@d_yokogami
49

横紙やぶり

短編・ショートショートまとめ

短編・ショートショートをまとめたものです。 数分で読めるものばかりです。

コメント5件

>吉田さん
コメントありがとうございます。
最後の着地のところ、そう思って頂けたならよかったです。
と言うのも、中盤で世界が終わっていると中オチしているので、最後の本当の着地が効果を発揮できるかなと思っていました。
そこまで読んでもらえて嬉しいです。
自分と”いわゆる死者”との隔たりって、想像よりもずっと離れているのを感じます。で、いつも彼らは数で圧倒してくる。腐敗臭みたいなのを撒き散らしながら。

ところが、まだ私は笑っていられます。稀にだけれど ”ひと” という方々と出遭うことがあるし、その時はとても嬉しいし。

でもやっぱり現実生活に目線を戻すと、周りはゾンビだらけでウンザリ。そんな世界でも”とりあえず”生きてかねばならないのなら、奴らにあわせて屍肉を食らってでも… 。

この言い分だって、各々が背負ってる傷の具合にもよるのかな。わかりませんが。

それで灯台の話をまた読み返すんですよね。これが沁みるのです。

重い。妄想が暴走しました〜(笑
ごめんなさい。
>mahsonoblogさん

いつもコメントありがとうございます。
そこまで読んで下さるとは…
あーっ!ストーカーじゃないですよ!安心して下さい。

ローンチした瞬間から、作者の手を離れてるわけですから、どう料理しようが読み手のセンスに任せる…でしたよね(笑笑

読み手だって、首洗って?楽しんでます。適切な表現が見つかりませんが。。絵だって音だってそうですが、クリエイターさん達って熱量ありますから、こちらに勝手に刺さってきますしね(笑

私は作品を横断して楽しんでます。もちろん、Twitter も140文字の”高度”な作品だと捉えてます。

おもしろいのは、優れた作品って、クリエイターさんがその作品を産むに至るまでの熱量とか失望とか、産み落とした後の思いとか、でも受け手との温度差があったりとか、、ただの「活字の羅列」ではあるのだけれど、有機的で時間を伴ってその作品が変化していくサマを”嗜”みたいな、、

産みおとしたあとの時間って大切かな。醸成の感じ。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。