今書いている短編小説のためのスケッチ

※ これは今書いている短編小説のために書いたスケッチです。 

 平日の電車は空いていた。乗っているのは、買い物帰りの主婦、移動中のサラリーマン、学生、それから年寄り。男は、買い物袋をかかえた主婦の向かいに座った。

 車内は蛍光灯に照らされている。外の景色は見えない。まるで夜のようだと男は思った。主婦も、サラリーマンも、学生も、年寄りも、皆がうつむいていた。電車の規則的で、麻酔的な揺れに身を任せて、ある者は眠り、ある者は放心している。いずれにしても意識はない。

 電車が駅に停まる。ある者は顔をあげ、駅の名前を見てまたうつむく。ある者は顔をあげ、荷物を抱えて降りていく。そして、主婦やサラリーマンや学生や年寄りがまた乗ってくる。男は、彼等が死ぬまで目を覚まさないことを知っている。とうの昔に二本足で歩くただの肉塊になっていることを。

 男が昼間の電車に乗るのは久しぶりだった。電車に乗るのは朝と夜の満員電車。男はいつも不思議に思っていた。満員電車で見かけるサラリーマン達がどんな人間と暮らしているのか。

 たかが座席をとることに形振り構わない人間、袖がふれた程度で舌打ちする人間、愛されない人間、他人を傷つけたくてうずうずしている人間、こんな人達を迎えるのはどんな人間なのか。その人達は、今この電車に乗っていた。

 ダメな大人になるための訓練にせっせと励んでいる学生。沢山のひとを傷つけたことなど忘れて口をぽかんと開けている年寄り。向かいに座っている主婦の買い物袋からは、長ネギが枯れた花のように垂れていた。主婦はその袋を遺灰のように大切に抱えていた。

 遺灰。この電車が死へむかって走っているならば、なんて快適な電車だろうと男は思った。それならば目をつぶって眠ろうと。事故でもいい。災害でもいい。安眠しながら、今までのことが、乗客のことが、飛び散る肉体とともに粉末のように消えていくのだ。なんて素敵なことだろうと男は思う。

 だが、電車はまた駅に停車した。言うまでもなく電車は死へなど向わない。電車が停車する場所は生活だ。そして、男が暮らすマンションにも、あと数駅で着く。
(終)

※ 小説を構想する時、プロットや設定が決まっていなくても様々な文章が浮かびます。物語の鍵となる語句だったり、一節だったり、場面全体が浮かぶこともあります。構想段階で、そういうのを忘れないようにスケッチしておき、本編で使用します。
今回公開したのは、今書いている短編小説のスケッチです。
題名は「平日の街の印象」にしようと思っています。
完成は、2019年2月の予定です。

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コメント6件

具体的な構想が浮かんでいなくとも、下書きにつらつらと、それっぽい文章を並べていく、スケッチという作業工程。すごく共感出来ます。私の場合、そういった作業で、悲しくも下書きに埋葬されていった駄文達が、無数に存在するのですが、やはり、プロットを組む上で、スケッチという工程は、必要不可欠ですよね。
>糸紡さん
コメントありがとうございます。
いい文章が浮かんでも記録してなかったんですよね。覚えているつもりだったんですが、いざ書こうとすると思い出せない…ということが続いて学習したんです(笑)。自分が考えること大事にしないとなぁと。

今回公開したものは、進み具合に合わせて、少し手直して使うつもりです。
完成したら、よかったら読んでください。
日本語が本当に素敵……情景が浮かびます。完成を楽しみにしております。
>ペパーミントシャワーさん
ありがとうございます!来年の1月末に完成予定なので、よかったらまた読んでください。
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