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カフェ・カルヴァの真実


カフェ・カルヴァの存在は知っていた。
東京のフレンチ・レストランでサーヴィスとして働いた事があったからだ。
元来はイタリアでカフェ・コレットと呼ばれるものであるがエスプレッソにグラッパ或いはサンブーカを一滴、或いは数滴垂らして飲むという粋な飲み物だ。

ところがフランスにもそんな事をして楽しむ習慣があったことを教わった。特にノルマンディー地方には<カフェ・カルヴァ>なる熱いエスプレッソにカルヴァドスという林檎のウィスキーを同じ様に数滴垂らして飲むものがあった。別にブランデーなどでも、何でもよいのだがこのカフェ・カルヴァを特に好む人は多い。
上の写真はサンブーカ、下はカルヴァドス、色が違う、味も違う(下のカフェ・カルヴァは近所のカフェで撮影したものであるが、我が家のカルヴァドスを持参したので少ししか残っていない)。

カルヴァドスは蒸留酒でアルコール度数が高いので、お酒駄目な人にはあまり喜ばれないかもしれない。

しかし逆にコーヒー好きで、アルコール少しでも飲める人には食後にお勧め。

私はアメリカンコーヒー好きだけれどフランスでは存在しない(スタバとかは別として)。それでもエスプレッソでは眠れなくなってしまうという人には<カフェ・アロンジェ>という救済がある。しかしながらこれは基本的にエスプレッソに熱湯を注いだものであまり美味しいとは思えないのと、薄めたところでカフェインが少なくなるわけではないので意味ないかと。

カルヴァドスにはエスプレッソが合う。

もう少し若いときにはよく仕事でモン・サン・ミッシェルに日帰りしたがその帰りにこれもまたノルマンディー地方のポン・レヴェックという小さな村のレストランに必ず立ち寄って食事をした。ノルマンディーといえば林檎がスペシャリティなので林檎の酒の話をした。
代表的なのはシードル、カルヴァドス、そしてボモーであるが、その内シードルは日本でもよく知られているあのシードルと同じである。その次に知られているのがカルヴァドス、ただし食後酒として、或いはお菓子に使われたりで、カフェ・カルヴァの存在は日本ではさほど知られていないと思う。一番無名なのはポモーであるが、カルヴァドス1/3と林檎ジュース2/3を合わせた食前酒として地元で飲まれる酒である。などと言うことを話した。

ある日、一人の男性が「そのカフェ・カルヴァを試してみたい。」と仰ったので注文してみたらなんとエスプレッソとブランデーグラス半分位に継がれたカルヴァドスが別々に出てきた。

皆目がまん丸であった。

そこのマダムに聞いてみると「地元ではこんなものよ。なんか変?」と、なぜ私がそんな質問をしたのかもよくわかっていない様子であった。

ここのレストランはまさに地元料理が売りで、私にも色々と味見させてくれた。
マダムは気前が良く、一見そうはみえないが豪快で、物事はハッキリ言う人であった。

後日、他のレストランで再びカフェ・カルヴァを試したら、私の知っているものがでてきて、エスプレッソのカップ(フランスではタッスと呼ばれるものでサイズは小さい。)にコーヒーを注ぎ、数滴カルヴァドスを垂らしたものだった。

ところがそのまた後日、少しカフェ・カルヴァについて調べているうちに衝撃な事実に出会った。

19世紀、20世紀のノルマンディー地方では主に外で労働をする、あまりリッチとは言えない人々、あるいは山奥などに住む人々が主にカフェ・カルヴァを飲んでいたという。しかも朝に。寒さを凌ぐためだという。近年はフランスの冬も変わってきて、他の地方でも大雪の時もあったが、ノルマンディー地方は昔から寒くて、30cm雪が積もるのが当然と言われていた。ノルマンディー地方に住む人はノルマンと呼ばれるが、これは北の国の人と訳される。それだけ寒かったのであろう。中にはまずエスプレッソを飲んでからお酒を飲んで流すような感じで飲むのを好む人もいた位だそうだ。

また、<ノルマンディーの穴>という食事中の習慣など(詳しくは私のnoteでの記事、<フランスの美しい村に魅せられて>の中で説明してあるので興味ある方はそちらを参照して欲しい)、カルヴァドスはノルマンディーの日常生活にかなり役立っていた事がわかる。

上の写真は林檎の最近の姿である。
カルヴァドスは少しだけ飲んでみるととても林檎感があると思う。ノルマンディーの林檎は変に甘くなく、サッパリとした酸味がさわやかである。それ故に、その林檎を使ってできたカルヴァドスは古くから地元の人に愛されてきたのだろうか。

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