アカペラと合唱のはなし

この記事は、「アカペラアドベントカレンダー2020」の4日目の記事です。

◆アカペラアドベントカレンダー2020 URL
https://media.acappeller.jp/feature/8105/

■まずは自己紹介

こんにちは。河野(こうの)と申します。アカペラ界隈ではパパとか、パパさんとか呼ばれることが多いです。今日は12月4日ですが、11月30日は私がアカペラを始めたアカペラ記念日。2013年のことですから、7年経ちました。その話はあとにするとして、まず、簡単なハーモニーの自己紹介から。

合唱:大学から始めて、42年かな。合唱団VOCKというところで40年近く歌っています。

アカペラ:薫風」というトライトーンカバーバンドで歌っています。去年はいろいろなところで歌ったけど、今年はなかなか練習ができず、ようやくリモートで練習が再開しました。バンド以外にはトライトーン、特にリーダーの多胡淳さんのレッスンが主な活動の場ですが、かくたあおい先生のソルフェージュ教室や、大阪の「よりアイプロジェクト」などいろいろなところに顔を出しています。昨年は高松で開催されたVocal Asia Festivalにも参加しました。名刺代わりに昨年9月に薫風が静岡で歌ったときの映像をどうぞ。


■ハモリの生い立ち

中学に入った頃、フォークソングがはやっていました。みんなギター片手に歌を歌っていたものです。そのころ好きだったバンドはフォークソングでもハモることがメインのところ。赤い鳥とかダ・カーポとか。(もう50年近く前の話ですみません)コードネームの構造はそのころギターを弾きながら覚えました。

高校の頃、クラシックの合唱団を聴いて、ピアノからフォルテのダイナミックレンジの大きさに驚いて、大学入ったら合唱をやろうと思い、大学に入った日に合唱団に入団。当時は練習場にピアノがなかったこともあり、無伴奏合唱を多く歌いました。(ちなみに合唱では無伴奏のものを「アカペラ」、って普通に言いますが、ここでは混乱するので、「無伴奏合唱」と呼びますね。)大学の合唱団ではコンクール全国大会に行ったりして、音楽的に素晴らしい経験をしました。紅白歌合戦にもコーラスで参加したことがあります。大学卒業した後もその頃一緒に歌っていたメンバーと今でも同じ合唱団で歌っています。40年以上一緒に歌っているメンバーも多く、それはそれですごいことです。人生の2/3ですから。

大学の頃から山下達郎の妙に理屈っぽい話(笑)が好きで、よくラジオを聞いていました。ある時、ワンマンコーラスの習作ということで、ラジオで一人多重録音が紹介されました。それから数ヶ月して、それがOn the Street Cornerというアルバム(LPレコードですよ)で発売され、大好きだったので毎日聴いていた時期があります。一人でハモることをしたくて、一番最初に遊んだのは大学の頃だったか。自分で買ったカセットデッキと、父親が持っていたオープンリールのデッキを使って、ピンポン録音をしながら音を重ねたことがあります。その後、カセットデッキを2台使ったり、社会人になってからは1つのカセットテープに4トラック録音できるMTR買ったりして遊んでいたけど、遊びを超えることはなかったです。

PCで多重録音ができるようになってから、山下達郎や合唱のように1パート何声も重ねるようにして作品っぽいのをつくりました。近所の仲間内のライブで、リード抜きのワンマンコーラスをCDに焼いて持っていって、歌ったこともありました。多分20年くらい前の話です。

シンガースアンリミテッドもマンハッタントランスファーも知っていたけど、なぜか自分でバンド組んで歌おうという発想はなかったです。自分のハモリは合唱団の活動と多重録音だけという時期が長く続きました。

■アカペラを始めたきっかけ

そして、運命の2013年11月30日。その日は合唱団が所属している川崎市合唱連盟主催のポピュラーアカペラ講習会。講師はトライトーン。不思議なことにそれまでトライトーンの音楽を聞いたことがなく、初めてトライトーンのアレンジを歌い、トライトーンのアカペラを生で聴き、この瞬間に「これだ」と思いました。

トライトーンがアカペラ歌う会というワークショップを開催していることを知り、いつどこでやっているのか、どんな世代が来ているのか(若者ばかりなら場違いかも)、どんなレベルなのか(マイク使っての一人一声なんてやったことないからついていけるか)も分からないながら、とりあえず会員になり、翌月から参加しました。それからはひたすらアカペラと合唱に生きています。トライトーンから本当にいろんなことを学びました。

そしてそこで出会った仲間にも本当にいろんなことを教えてもらったり、いろんな経験をさせてもらいました。社会人サークルではないですが、歌う会で学んだ人たちの横のつながりは意外と強いです。そして私のアカペラ活動は今でもトライトーンやそこで出会った人が中心です。

■そろそろ本題

さて、長々と自分のバックグラウンドをお話ししたのは、本日の本題、「アカペラと合唱」に関係するからです。

私のように合唱からアカペラに入った人は私の周りには多くいます。そしてその人たちは、アカペラか合唱かの二択ではなく、いろいろなやり方でハモるのを楽しんでいる気がします。そう、「純粋に人の声でハモることが好き」を実践しているのです。リード+コーラス+ベーパのいわゆるハモネプタイプ、The Real Groupのようなジャズテイストのアカペラ、ヤロバン、ギャルバン、バーバーショップ、ドゥアップなどのアカペラのいろいろな形態だけでなく、合唱まで(まぁ、合唱もアカペラ以上に色々な形態があるわけですが、それはさておき)守備範囲を広げてハモリを楽しむ、とてもお得な人たちです。

マイクがあってもなくても、一人一声でもパートに何人いても、レパートリーの曲も古今東西。いろいろな仲間とともかくハモる。とても楽しいです。「合唱のベースは、楽譜と違う音を出すと怒られるが、アカペラのベースは楽譜と同じ音だけ歌っていると怒られる」というジョークがあるように、合唱とアカペラでは文化が違ったりもします。でもあまり既成概念にとらわれないほうが良いですね。別にアカペラだから譜面通り歌っちゃいけないこともないし、必ずしもマイクで歌わなければいけないわけでもない。ハモれるのなら、何でもアリ。

アカペラの曲を大人数で歌うなんて・・・
合唱曲をマイク使って歌うなんて・・・
指揮者がいなければ音楽の方向が定まらない・・・
クラシックの曲をリズム崩してジャズっぽく歌うなんて・・・
譜面通りに歌わなければいけないの・・・

このようなことを考えずに、好きなようにハモればそれでいいと思います。

アカペラからハモることを始めた人にも合唱の面白さを感じて欲しいと思うし、合唱をやっている人にもアカペラを聞いて欲しいと思います。でもそれって、ロックバンドやっている人に、「いやぁ、オーケストラって本当にいいものだよ」というのと同じで、気をつけないと異業種格闘技になってしまう。なら、まずはクロスオーバー。なんとなく近いところから知ってもらうのが良いかな。

■アカペラと合唱のクロスオーバー

ということで、実際に曲を聞いていきましょう。

・信長貴富さん編曲の鉄腕アトム
たむらまろのレパートリーとしてアカペラでも有名ですね。これはもともと合唱用に編曲されたものです。編曲者の信長貴富さんは今や日本の合唱界ではNo1の人気を誇る作編曲家です。音楽大学を出ているわけではなく、音楽の勉強は独学で学んだそうですが、素晴らしい作品がたくさんあります。まずは合唱版をお聞きください。実は以前自分の合唱団でも練習で歌ったことがありますが、意外に難しい曲で、それでいて歌うのが楽しかった記憶があります。


加藤ぬ。さんのトランスクリプトによるたむらまろの演奏は合唱版より編曲者の意図を表現できているのではないかと思います。それはたむらまろの音楽性が非常に高いからですが、アカペラとか合唱とかの枠を超えて、素晴らしい演奏です。


・Shuttokenによる多重録音
最近でこそ多重録音やワンマンコーラスがはやっていますが、Shuttoken(出雲謙一さん)は以前から多重録音(多重録画?)の作品を多く作っています。彼は合唱の世界で活躍しており、合唱の作曲、編曲の出版もされています。作品は一人一声なので、ほとんどアカペラと同じです。映像ではリモートアカペラで普通行われているような枠の中の顔でなく、シーンの中に「みんな自分」、という感じの作品を作っていますが、どうやっているんだろう。

ここで紹介する動画、最初はカーペンターズのClose To You。トライトーンのレパートリーそのままのアレンジ(編曲:松永ちづる)です。トライトーンカバーだから当然ですが、完全にアカペラですね。

もう1曲はさくらももこさんの詩に作曲家の相澤直人さんが曲をつけた「ぜんぶ」。詩も曲もとても美しく、合唱では有名な曲です。作曲者本人による女声合唱版、男声合唱版、混声合唱版、ピアノ伴奏版など、種々のアレンジがあります。譜面も市販されています。私も以前アカペラで歌ったことがありますが、アカペラでももっと歌われてもいいかなと思います。


・アルカフェ・クワイア
ポップス合唱で定評のあるアルカフェ・クワイアの音源を紹介します。この合唱団は、指揮者なし、クラシックの発声をせずに軽く歌うポップス合唱団で、東京都のアンサンブルコンテストで上位入賞している実力派です。メンバーはアカペラと合唱両方をやっている方が多く、洗練されたポップスコーラスを聞かせます。ここで紹介するのは昨年の東京都の「春こん」で演奏されたNight and Day です。大人のポップス合唱ですね。


・キングスシンガーズ

合唱ではないですが、一人一声の6人編成のコーラスグループ。メンバーチェンジを繰り返しながら50年以上活動しています。メンバーが変わってもサウンドは変わらないのが素晴らしいと思います。基本的にクラシックのボーカルアンサンブルに分類され、ノンマイクで歌っていますが、ルネサンスからポップスまでレパートリーは大変幅広いものがあります。

最初に紹介するのはビートルズコレクションより、Yesterday。編曲のボブチルコットはキングスシンガーズの元メンバー。作編曲者として数多くの作品を作っています。このままの編曲でアカペラで歌うこともできますね。

もう1曲はNow is the Month of Maying。トマスモーリーという人の作品ですが、この曲が作られたのは16世紀。日本でいえば江戸時代になる前の時代です。イギリスのマドリガルという種類の音楽です。古い合唱曲はミサなどの宗教曲と世俗曲という分類がありますが、これは世俗曲。いうなれば当時のポピュラーソング。アカペラの歴史というか源流というか、この時代でも声を合わせてハモっていたんですね。こんなのもマイク使ったアカペラで歌ったらどんなになるのか興味があります。どなたかチャレンジしてみませんか?

キングスシンガーズは日本公演もよく行っているので機会があればぜひ聞いてみることをお勧めします。アカペラ好きの人も楽しめると思います。

いかがでしたでしょうか。ここでは正統的な合唱というより、合唱とアカペラのクロスオーバー的な音楽を紹介しました。アカペラに近い合唱の領域でこんなことが行われていると知っていただければ幸いです。

■今年はチャンス

コロナ禍にあって、リモートアカペラもリモート合唱も世の中にあふれています。基本的に合唱はマイクを使わないし、アカペラはマイクを使うので、両方が同じ会場のイベントで交流するということは今まであまりなかったのですが、リモートアカペラもリモート合唱も一人ずつマイクに音を入れていくという点では大きな違いはなく、合唱のリモートイベントにアカペラっぽいグループが参加したりしています。もともとマイクを使うのはアカペラのほうが得意だし、音声編集もアカペラの人のほうが得意(だと思う)ので、「リモート合唱」で何でもありな企画だったら、アカペラで乗り込んでいくのも面白いかもしれませんね。合唱の人にアカペラのすごい世界を見せることができれば面白いと思います。

アカペラと合唱の人がお互いを知り合うことで新しい化学反応が出てくることを期待して私の記事を終わりにします。最後まで読んでいただきありがとうございました。

■アカペラアドベントカレンダーまだまだ続きます

アカペラアドペントカレンダー2020は12月25日まで毎日続きます。これからもアカペラに関するいろいろな記事が投稿されますので、お楽しみに。


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