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「暮らしを豊かにするまちの使い方最前線」の様子をレポートします!

 岡崎市が進める官民連携による中心市街地のまちづくり”QURUWA戦略”
先月の9/17(月)に図書交流プラザりぶらホールにて行われたシンポジウムでは、道路や駐車場という公共空間を活用して、街の暮らしを楽しくしていく方法について紹介がされました。
 全体の流れとしては1部と2部に分かれており、1部は「康生通りの未来に向けた挑戦」ということで、11月に康生通りで行われる社会実験について株式会社まちづくり岡崎の方よりご紹介がありました。2部の「暮らしを豊かにする街の使い方最前線」では、4名のパネリストの方によるお話と、議論が行われました。

 今回は岡崎市を対象にして開催されたシンポジウムなのですが、ここで話し合われた内容は岡崎市だけではなく、他の地方都市でも同じように通用する内容ではないかと思いました。特に2部のパネルディスカッションでは、最新の制度や仕組み、そしてそれらを上手に使いこなして街の日常を楽しくしていくアイデアまで、パネリストの方々がわかりやすくまとめて下さっており、とても貴重なお話だと思いました。そこで、パネリストの方々が伝えたかったと思う事を、勝手ながら当日の発言をもとにまとめてみました。


パネリストとして登壇されたのは次の方たち

藤村龍至さん
(おとがわプロジェクト デザインコーディネーター/建築家/東京芸術大学美術学部建築学科准教授/RFA主宰)
三浦詩乃さん
(横浜国立大学大学院 都市イノベーション研究院 助教)
橋口真依さん
(国土交通省 都市局 まちづくり推進課 官民連携推進室課長補佐)
西村浩さん
(乙川リバーフロント地区 まちづくりデザインアドバイザー/建築家/株式会社ワークヴィジョンズ代表取締役/株式会社リノベリング取締役)

パネリストの方々のお話を、当日の流れに沿って、次の順にご紹介していきます。気になる箇所からお読みいただけると幸いです。

目次
テーマ① ~皆で考える通りのあるべき姿(ストリートデザイン)とは~
 ・ストリートデザイン(三浦詩乃さん)
 ・各地のストリートデザインの事例(三浦詩乃さん)
 ・QURUWAの3つの通り(二七市通り、連尺通り、康生通り)のビジョ 
  ン(西村浩さん)
 ・楽しい道路空間を整備するのに必要な考え(西村浩さん)
 ・運営組織の必要性と幅1mの広場という手法(西村浩さん)
ディスカッション①
テーマ② ~通りにとっての駐車場のあるべき姿とは~
 ・コンパクト+ネットワークと都市のスポンジ化(橋口真依さん)
 ・地方再生コンパクトシティのモデル都市(橋口真依さん)
 ・まちづくりを応援する国の制度(橋口真依さん)
 ・駐車場は武器になる(西村浩さん)
 ・これからの駐車場に必要なアイデア(西村浩さん)
 ・駐車場経営の在り方(西村浩さん)
ディスカッション②


テーマ① ~皆で考える通りのあるべき姿(ストリートデザイン)とは~

・ストリートデザイン(三浦詩乃さん)
 ストリートデザインを簡単に説明すると、人を流すだけに使われていた道路ネットワークの中に、いかに地域の人たちの活動を埋め込んでいけるのか。道路での活動の幅を広げてゆけるか。その活動により幸せを増やしていくデザインを言います。

 ストリートデザインを実現するには次の3つの段階があります。


1.通行以外の空間の使い方やニーズを実験しながら、テーマを発掘してい
   く。(自分事として、沿道やエリアにいる人がみんなで考えていく。)
2.ニーズを実現するようなハード整備を行なう。
3.自分たちのためにどう使えるのか、どうやって居場所にしていくのかと
   いう事を考え、継続的に交通運用や活用をしていく。


 この3点がそろっている必要はありませんが、康生通りのように4車線あるところは、この3点を順にやっていくと効果があると思っています。
 3点目には、"継続的に交通運用や活用をしていく"とあります。今まで車が通っていたところをいきなりデザインしてみても、なかなかすぐには定着しないところがあります。なので、こんな使い方があるんだ!という風に馴染ませていくという事が、不可欠なのです。
 まずは歩きやすくすることや、地元の方が清掃見回りをしたり、開店時間を調整するという、少しの工夫で断然変わってきます。活用としては、滞在したい場所、できる場所を設けていく。ある時間を思いっきり楽しめるプログラムを作ることができると、街をパッと見た時に笑顔が広がっているような状況が生まれてきます。
 沿道の一つ一つの建物の中の開発も大事なんですが、それだと外の空間には反響してこなくて、街の風景にならないので、沿道も一体的にデザインしていくことが大切であると考えています。

・各地のストリートデザインの事例(三浦詩乃さん)
 世界的にみると、市民たちにとって住み続けられる都市にしていくためには、ストリートを使っていくという意識が一般化してきています。

◇ロンドン
 ロンドンでは、公園のような通りをマチの目抜き通りにしていて、そこで安心して歩けるというだけではなくて、緑がある気持ちの良い場所での活動量を増やし、健康になっていく事を目指しています。

◇ライプツィヒ
 ライプツィヒは元々は東ドイツの都市です。東西ドイツ統一の際に人が出ていってしまったという背景があります。ボロボロになってしまった建物が並び、歩くだけで怖いという道を再生していこうという取り組みがあります。大きな特徴としては2点、まずは公共交通をしっかり整備し移動に関するバリアを取り除いていくという、大きな公共投資。2点目がリノベーション。この2点を組み合わせる事で費用対効果が良くなると言われています。
 リノベーションを行なう場所は、街のイメージを変えるにはどこが良いのか?という観点から選ばれていて、通りの結節点となる交差点から行なっているのです。

◇ニューヨーク
 ニューヨークでは、駐車場化した通りを変えていこうという流れがあります。そういったスペースが子供の過ごす場所、子供が育つ場所になっています。移動図書館のプログラムや健康に配慮をしたキッチンカーが出てきて子供たちが屋外に出る仕組みだったり、そこでコミュニティが育っていくのです。10年間のうちにこういった場所が町中に70か所できているというのがニューヨークの今になります。
 そもそもはタイムズスクエアの社会実験がモデルの一つとなって変わっていきました。
 やはりニューヨークだから成功したんだろうという声もあるんですが、ニューヨークでさえしっかりと計画しないと成功はしなかったのです。

 参考)まちの主役を歩行者に変えたニューヨーク市「プラザ・プログラム」のこれまで、これから(前編):ニューヨークから学ぶ街路空間のあり方(ソトノバより)

◇日本
日本ではまだ実験段階で現在進行形でバンバン始まっています。地方都市の松山では実際に片側一車線をつぶして、マルシェができる空間にするといったことが実現しています。

・QURUWAの3つの通り(二七市通り、連尺通り、康生通り)のビジョン(西村浩さん)
 QURUWA戦略において、この3つの通り(二七市通り、連尺通り、康生通り)が連携をして籠田公園とシビコという二つの施設を強力に結びつけ、QURUWAの一端を担うというのが非常に大事になると思います。

 この3つの通りはそれぞれ同じような道ではなくて個性があるんです。
 二七市(ふないち)通りは2と7がつく日に市がたつという長い間続けられた文化があるので、ローカルな雰囲気で市を続けられる通りになったら良いと思います。
 昨年社会実験を行なった連尺通りは、旧東海道になっていて、商業と住宅が混在していく中で新しい動きが見えてくるという感じの場所。そういうものが道路に滲み出てくるような通りになれば良いかなと思います。
 康生通りは今も昔も一番の車通りで、バスも通って、たくさんの人が車やバスから降りて、この街にアプローチする入り口になると思いますので、アクセスの玄関口としてどういう商店街にしていくのかが大事だと思っています。

 今回提案させていただくビジョンですが、連尺通りは建物の中の活動が外に滲みだしている感じ。康生通りは4車線のうち、1車線、2車線を試しに歩道や荷捌きに使いながら、歩道と道路の使い方を一緒に考えていこうという事をやる。なんとなく似たようなことをやるんですが、ちょっと意味合いが違うというのがポイントです。

・楽しい道路空間を整備するのに必要な考え(西村浩さん)
 大事なことは道路を皆さんの力で楽しい道にしていく事。沿道の不動産がもっと使われるようになって、テナントさんももっと入って、新しい使われ方が生まれてきたりという事で、不動産の価値を上げていく事が凄く大事なんだろうなあと思っています。

 ニューヨークのカフェでは、建物から机や椅子がはみ出てて、通りを歩くとその風景が見えるので、すごく楽しそうな通りに見えるんです。おそらくこの通りを使っていくにもルールが作ってあるんですね。日本でも、そのルールを作っていく過程が、社会実験に現れているのだと思います。
 そんな風に、道路を上手に使っていくポイントが次に示すように5つあります。


1.ハード対応 
2.規制緩和・規制回避 
3.公民連携室の設置(行政) 
4.都市経営を担う沿道経営体の組織化(民間:都市再生推進法人) 
5.民間プレーヤーの発掘


 人口が増え、町中にものすごく人がいた時代には、ハード整備をしたら人がいたという時代があったんですけど、あれは錯覚です。人がいるところのハード整備をしただけだったのです。今のように人がいないところにハード整備をしても、人は来ないと思います。まずは民間プレーヤーを発掘し、民間プレーヤーを束ねる、地域を運営する組織を民間の中に作り、公共空間をマネージメントする公民連携室のようなものを行政の中に作って、その組織同士がキチンと話し合い、必要な規制緩和をしながら、規制緩和に合わせたハード整備をするというのが、これからの流れだと思います。康生通りの社会実験は(5.民間プレーヤーの発掘)が始まっていく段階だと思います。

・運営組織の必要性と幅1mの広場という手法(西村浩さん)
 最近は車道を縮めて、歩道を広げていこうという流れがあるんですけども、歩道を広げても歩道空間には3つの法律(道路法、道路交通法、建築基準法)が重なりあっていて、管理者が良いといっても、警察(公安)が使ってはいけないという状態が起こっているわけです。

 そこで提案しているのが、歩道と車道を合わせた道路自体の幅員を縮めて、建物際に幅1mの長細い広場を作ったらいいんじゃないかというアイデア。そうすると、警察の管理は外れますので、地域できちんとルールを決めれば、使っていくという事が出来るんじゃないかなあという風に思っています。
 
 通りをきれいに整備したら、持続的に運営する必要がある。例えば、そこで使うファニチャ―を使う人にきちんとレンタルして売り上げる。あるいは車を止められる場合には、今は警察にお金が入りますが、パーキングメーターの売り上げを一部売り上げとしてもらう。あとはごみ収集であったり、トイレだったりというものをきちんとマネジメントする中で収益を上げて、通りを活用していく持続的な組織をつくる必要があると思っています。

 康生通りを歩くと様々な兆しがあります。例えば敷地から歩道に緑がはみ出ていたり、酒屋さんの前にはケースがはみ出ているんですが、そこの上がテーブルになって、お酒でも飲めたら最高じゃないでしょうか。実際にオランダのユトレヒトでは、敷地から歩道にテーブルがはみ出ていたりします。ただよく見てみると舗装パターンが変わっていて、その中に行儀よく収まっていたりするんです。

 ポイントとしては、無理せず日常的に皆さんが使うという事と、イベントではないという事。無理しない仕組みと使い方が凄く大事かなと思います。無理せず日常をみんなで作っていこうという感じが良いんじゃないかなあと思っています。


ディスカッション①

藤村さん

 西村さんのお話には、ポイントが二つあるように思いました。一つは道路の使い方のルール作り。象徴的にお話されていたのは幅1mの話。もう一つは、通りに関わるビジネスをやっていく運営組織の組織象。この二点が、道路と沿道を一体に活用していく時に考えなくてはいけない新しいポイントなのかなと思いました。
 三浦さんにお聞きしたいのですが、実際にニューヨークではイベントや広場の経営はどういう組織が行っているのでしょうか?

三浦さん
 実際にニューヨークでは、色々な民間組織が行なっています。もともと行政の管理が行き届かなかった場所が、80年代になって、これは自分たちでやらなきゃまずいぞ、という事になりました。都心ではBIDとして開発を進めている組織や、公園の管理をしていく人たち、環境を啓蒙する団体だとかが、プラザという広場空間を作った時に手を挙げたのです。例えば公園があれば公園を引っ張っていく組織が沿道の道もやっていくような、そういった流れです。市は整備をしっかりサポートし、運営費の回収は皆さんで頑張って下さいという姿勢なんです。

藤村さん
ニューヨークは民間が立ち上がったのでそこがベースになっているのですね。西村さんからは道路の広場化というチャレンジングなプランを紹介していただいたのですが、諸外国ではこれに近い取り組みはあるのでしょうか?

三浦さん
 西村さんからご紹介をいただいたオープンカフェのようなものは、ヨーロッパでは行政がルールを決められるようになっています。行政は道路を使っていいよ、という代わりに、お金をもらう仕組みになっています。ちなみにオープンカフェには福祉的な側面もあるんです。例えばイタリアだと、ご老人のために1杯カフェを奢ってあげて、街の中に居場所を作ってあげるという、社会福祉のためのカフェという位置づけなんです。アメリカでは民間にマネジメントしていただくというのがあるので、整備と運営は段階を分けて行ないます。ただマネジメントは放りっぱなしだとうまくいかなくなるので、行政が一緒に管理を考えながら育っていくという形です。

藤村さん
日本では道路で何かとやろうとすると警察協議が必要になります。それがなかなか上手くいかないという現実があります。道路の広場化は一つの理想像ではありますが、もう少し身近な工夫でできるアイデアはあったりしますか?

西村さん
どっちがハードルが高いかというのは良く考えるんですが、別にこういうことをしなくても、歩道を6mに広げて使ってよい、と言われたら、何もしなくていいんです。いずれ社会はそうなると思うのですが、今は過渡期なので色々と難しい問題が出てきます。それも待たずしてやる方法のオルタナティヴとして、建物際に1mの長細い広場を作るというアイデアを掲示しているので、柔軟に街の状況に合わせて考えていけば良いと考えています。

テーマ② ~通りにとっての駐車場のあるべき姿とは~

・コンパクト+ネットワークと都市のスポンジ化(橋口真依さん)
 国は、まちづくりの大きな方向性としてコンパクト+ネットワークという策に取り組んでいます。コンパクト+ネットワークを進めるための立地適正化計画を市町村で作ってもらうことになっており、計画期間は2050年くらいまでという先の長い計画。こちらが鳥の目のようなビジョンとなっています。
 実際には蟻の目で街を見ることも必要です。それが都市のスポンジ化という問題です。空き地や空き家などの空地を解決していかないと、将来的なコンパクト+ネットワークは解決できない。今目下取り組んでいくことはスポンジ化対策であると思っています。
 そのため街づくりの方向性には、大きく2つのキーワードがあります。一つは民の力を最大限に活用すること。もう一つはエリアの価値を高めるという事。街の民の力を使って、街づくり施策を進めていくことは、所属している官民連携推進室も組織として取り組んでいることです。

・地方再生コンパクトシティのモデル都市(橋口真依さん)
国では、地方再生コンパクトシティのモデル都市の選定も行っています。今年の3月には稼ぐ力を引き出すという目的で32都市を選定しました。選定されるポイントとして、一つはハードとソフトの両面から取り組んでいる事。そして官民連携で取り組んでいる事です。この32都市は今年度から3年間集中的に国も支援を行います。このように、国も、地方再生に取り組む都市を応援しようと取り組んでおります。

 岡崎市のQURUWA戦略の計画の中で、国が特に評価させていただいたのは、その目標の部分です。一つはいわゆるエリアの価値を高めるという、QURUWA上の路線価の向上を目標に設定したという事。路線価を上げることは民間の投資力を上げる事になり、戦略的であります。もう一つがQURUWA上の公共施設を利活用した民間利用活動日数を設定されていること。市が補助金を出して開催するイベントではなく、民間が自主的に主催する取り組み、このような街の日常的な指標を戦略的に設定されたというところを評価させていただきました。
参考)地方再生モデル都市/国土交通省ホームページ

・まちづくりを応援する国の制度(橋口真依さん)
 このような官民連携のまちづくりを応援するため、国では空間に関するものと人に関するもの、二つの支援策を設けています。

 空間に関するものとして、今年の法律改正では「立地誘導促進施設協定」(通称:コモンズ協定)という制度ができました。それぞれの権利者が駐車場を運営すると、隣り合った駐車場でもそれぞれに通路や出入り口を設ける必要があり、都市のスポンジ化につながってしまいます。コモンズ協定を上手に活用し、隣り合った駐車場をみんなで一緒に管理できれば、通路や出入り口は駐車場一つ分だけ設ければ良くなり、有効な土地の利用ができるのではないでしょうか。このようにして、エリアの価値を上げていき、うまく公共空間を使いこなすことができるのではないかと思います。

 もう一つは人の話。まちづくりの担い手を応援する制度として、都市再生推進法人があります。まちづくりのコーディネーターとしての役割が期待される都市再生推進法人に指定されることで、団体の信用度、認知度が上がり活動がしやすくなり、行政からの応援を受けやすくなるといったメリットがあげられます。今は全国に41できていて、最近は地方都市でも数が増えているという状況です。どのような組織が都市再生推進法人になっているのかというと、例えば複数の商店街を母体として設立しているところもあれば、リノベーションまちづくりの家守会社が母体になる場合もある。都心部であれば、大規模な開発を行っている地権者さんで構成される例もあり、様々な形態の都市再生推進法人があります。このように選定において制度上の制約はないので、市町村の方がうまく連携したい民間の方を指定すれば、うまく自分たちの街を使いこなせる仕組みであるのです。


・駐車場は武器になる(西村浩さん)

 街に訪れた来街者の方は、よく駐車場がないと口にするのですが、駐車場がないのは、それだけ分かりにくくなっているのがポイントかなあと思っています。

 先ほど、街づくりをする運営組織が話題にあがりました。昔は街づくりは儲からないって言われていて、どうやって稼ぐのか分からない組織だったのですが、最近は街づくりが儲かる方法を考えていて、それにはおそらく駐車場が武器になると思います。現実に全国の街づくり会社で、駐車場で利益を上げているところは結構あります。ただし駐車場を使ってどう街に貢献するかという戦略がなく、駐車場をたくさん運営しているというのがちょっと問題なんです。その結果、高度利用されないから地価が下がり、税収が下がるという悪循環に陥る。これがたぶん地方都市の現状なんです。銀座6丁目の駐車場は10分500円で、一日止めると7万2千円ですが、僕のふるさとの佐賀の駐車場は12時間最大500円で一日1000円。つまり72倍もの格差があるんです。このように地方都市では土地の価値が落ちていて、人口減少や自動運転が実現すると、さらに値段が落ちてしまうので駐車場経営はどんどん厳しくなってしまいます。なので今のうちから、将来の土地利用を考えていくことが街のためでもあり、自分のためでもあると思います。
 
 景観的な問題、駐車場があるのにないと言われてしまう情報発信の問題、ひとつひとつが狭いため非常に使い勝手悪いという事、車のアクセスが増えることで安全が脅かされるなど、虫食い状に増えている駐車場はエリアの価値を棄損しているのです。いかに安全な場所と車のアクセスを同時に整理するのか、街づくりの戦略をもって、駐車場経営を考えないといけないのです。

・これからの駐車場に必要なアイデア(西村浩さん)
◇佐賀のアイデア
 佐賀では街の真ん中に商店街があり、それぞれの店舗が駐車場を設けています。仮にこの駐車場をすべて緑に変えたらどうなるだろう?街の価値は全然変わるでしょう?というお話から始まりました。
 
 そうはいっても、真ん中にあるのはすべて民間の駐車場。このような時、よく言われるのは行政の力で街のエッジに臨時駐車場を増やすという方法です。しかしそれでは行政の力で駐車場を増やしているだけなのです。ここからもうひと段階考えなくてはいけません。そこで行政の駐車場と民間の駐車場の利用権を交換して、行政の駐車場で儲かったお金を、民間駐車場のオーナーの方に分配し、駐車場のシェアをする形に持って行く。街の真ん中に分散する土地は、公共的に使える民地として存在させて、佐賀の場合は原っぱにしていこうと考えています。
 
 実現するにはハードルの高いアイデアなんですけど、やはりこういう形で駐車場を共同化させていくのが、一つのポイントになるでしょう。コモンズ協定も、この考えを実現し易くするするためにできたのだろうと思います。

◇岡山の事例
 岡山では、通り沿いの風景を変えながら、駐車場をキープするという社会実験を行ないました。

 僕のところに依頼が来た時には、一方通行2車線だった通りを、一方通行1車線にしましょうという絵があり、実施設計に着手しますという状態でした。しかし使われ方は全く考えられていなくて、使われ方を考えられていない道路整備をしても、一番人が来ないパターンなんです。対象とするエリアの中には川が流れる緑道があり、最近若い人がお店を出している場所がありました。その辺りをよく見てみると、個々の運営者が管理する駐車場が連なり、大きな駐車場が出来上がっていたのです。この駐車場を共同経営出来たらもっと車が入るし、通りと反対側に一つ入り口を設けて、車は裏からアクセスすれば良い。通り沿いくらいは違う使い方ができるのではないか?という事が容易に考えられるのです。そこで社会実験を通して通り沿いのフェンスを取っ払って、お店を作ってみたりして可能性を探っていきました。
 
 入り口や通路などで、虫食い状になっている駐車場を、通りの裏側の駐車場にして、表側はお店にしていこうというのが狙いだったわけです。そして、駐車場として使用されなくなったら公園や緑地にすれば、周囲の敷地は最高の立地になっていくわけです。このような形で未来のことも想定し、街中の駐車場の使い方、次の世代の稼ぎ方をシミュレーションするのが大事であると思います。

・駐車場経営の在り方(西村浩さん)
 駐車場のマネジメントのポイントは共同経営すること、あるいはタイムシェアすることです。公民関係なく、あなたと私も関係なく、共同経営することが出来たら、うまくいきます。かつオーナーさんの収益を落とさずに適正な土地利用に転換していくのが大切で、それをやることでエリアの価値が上がり、路線価が上がり、利用者にも使いやすい駐車場になるという事が言えます。

 方向性としては二つあると思います。一つは道路に面した部分の土地利用。商業地や歴史的町並みが残っているところでは、通りの景観は保全し、裏側に駐車場を設ける。車は街の裏側からアプローチして、表はちゃんと残していこうというやり方です。二つ目は、子育て世代が安心して街中に住めるようにすること。徹底的に車を排除して、ちっちゃいけれども安全な場所を作るためには、街中の駐車場を広場にしていく必要があります。そのためにも、佐賀で提案しているように臨時駐車場を共同経営する方法を公民連携で考えていかなくてはいけないと思います。

 最後に申し上げたいのは、それを運営する組織が駐車場だけを経営するのではなくて、駐車場と公共空間をセットにしてエリアの価値を高める家守事業をすることが大切であると思います。

ディスカッション②

藤村さん

 橋口さんのお話を問いとすると、西村さんのお話ではその答えを具体的にお示ししていただいたのではないかと思います。橋口さんのお話で出てきた、都市再生推進法人にはいろんな主体やケースがあると思います。岡崎のような地方都市の中心市街地における都市再生推進法人は具体的にどのようなイメージをお持ちなのでしょうか?

橋口さん
 例えば和歌山市の事例は地方都市で参考になるのではないかと思っています。和歌山市さんでは戦略的に、8団体くらいの都市再生推進法人の指定を昨年の年末にされました。他の事例では活動が目に見えたり、実績を上げた時に指定法人になるというケースが多かったのに対し、和歌山市さんは市としてスタートアップの支援を行わないとなかなかうまくいかないだろうという事で、応援のメッセージも含めて指定をしました。このように、大きな会社で組織される団体もあれば、小さな町の会社で組織されるような都市再生推進法人も出てきているので、地方都市でも馴染む仕組みではないかと思っています。

藤村さん
 西村さんは先ほど「次の世代の稼ぎ方」という言い方をされていました。人口減少時代、高齢化で中心市街地の人が減っている。岡崎のリバーフロントのプロジェクト自体がそういうところから始まっているのですが、西村さんからご覧になって、岡崎のポテンシャルについて、駐車場といったところから見たアイデアがあったら教えて欲しいと思います。

西村さん
 プレーヤーのすそ野の広さはすごく可能性を感じる中、康生通りでお店を出したいと言ってくれる方を増やしていくには、やはり道路やたくさんある公共施設をどれだけ魅力的に見せていくのかという事が大事なんです。今回は民間の駐車場も多いし公共の駐車場もあるという事を考えると、駐車場を地域の中で共同運営して、お金をもらい、それで町の価値を上げていく。それがちゃんとしたビジネスになるとすごく良いなと思います。
 一方で、駐車場が有料だから人が来ないという話もあります。しかしイオンの駐車場はすべて無料なのでしょうか?実はあの駐車場を運営して維持するのにもお金はかかっていて、それはあそこで買い物をするお金にちゃんと乗っかっているわけです。ああいう駐車場の見せ方を街中でもすれば良いんです。住んでいる人も商売をやる人も、駐車場は共同でこの街で持つという事を考えれば、たぶん無料駐車場はできるし、実はお金もちゃんと稼いでいて、稼いだお金で通りや公園の運営をすることが実現可能だと思うんです。その辺りの見せ方を地域で考えていけば、QURUWAを行なっていることは良いチャンスであると思います。

藤村さん
 駐車場について諸外国の事例があれば、三浦さんからコメントをお願いします。

三浦さん
 ストリートに面したところだけでも、まずはアクションを起こすという流れは海外でも取り組まれていることです。例えばポートランドではキッチンカーを配置し、そこに賑わいを作っていく。日本でもそのように車を使う方法はあり得ると思います。

藤村さん
 道路の上での収益事業は食品衛生にも関わるのでなかなかハードルは高いと思いますが、キッチンカーはその辺りがうまく解ける装置ですよね。キッチンカーが止まって、道路の賑わいを作るというのは、手始めとしてはすごく良いかなと思います。
 ここで会場に議論を広げ、後半のまとめに入っていきます。

会場より
 エリアの価値を高めるというのはものすごく大事で、大賛成です。西村さんのお話には「稼ぐ」というキーワードがありましたが、街で生活をする人に対しては、住みやすさや静けさなど、賑わいだけではない多様な価値があります。例えば20世紀は経済がすべての評価軸だったのですが、21世紀のエリアの価値は何なのでしょうか?その価値の中身について詳しく教えて欲しいと思います。

西村さん
 一般的に行政では回遊量など、量的な数値目標が多く使われています。しかし僕は賑わいが量的なものとして、昔に戻るというのは絶対にないと思います。どちらかというと量ではなく質が求められているのではないでしょうか?賑わいの質や、暮らしの質など、その中には景観の良さや歴史の受け継ぎ方、空気の良さなどが入っており、全部をひっくるめてエリアの価値を上げていくのだと思います。先ほどは短絡的に「稼ぐ」と言いましたが、このような質を高めていく事で、みんなが憧れる暮らしや商品が生まれていくのだと思います。そこに価値が生まれて、お金に繋がっていくと思うんです。これらを含めて、賑わいという言葉の21世紀的な解釈の仕方を皆さんと一緒に議論していく事が必要であると思います。

会場より
 以前の国のやり方である「中心市街地活性化基本計画」(以下、中活)から、先ほどお話をしていただいた現在の国の方策に至るにあたり、何を反省して何を変えようとしているのか、ご説明していただければと思います。

橋口さん
 中活でやろうとしていたことと、現在の地方創生だとか、街づくりでやろうとしていることは、本質的には変わらないと思います。民間の力を借りて、中心部を再生していくというアプローチ自体は同じようなことであると思いますが、あまりお金を使わない方法で民間の力を最大限生かすというのは、現在の社会状況に合った方法であると思います。

会場より
 官民連携や、民活という言葉について、詳しく教えて欲しいと思います。

藤村さん
 従来までは、建設行政に対してコミュニティという構図でしたが、現在の政府による「まち・ひと・しごと創生」では、街と人と仕事をセットで考えていきましょうという事で、もう少し産業労働行政と関わっていきましょうという風にやっています。これが官民連携の考え方だと思います。

 先ほど出ていた「稼ぐ」という言葉ですが、意味が少し変わってきていると思うんですね。以前の高度成長期においては賑わいは凄く大きかったので、静けさが価値だったというのもありますし、今のような空洞化してしまった社会の中では少しでも経済活動を作っていかなくてはいけない。持続するための有益という事になるんですが、そのあたりのニュアンスについて、西村さんか三浦さんで少し補足をしていただけると嬉しいのですが、いかがでしょうか。

西村さん
 やはり社会の変化に伴い、国が相当変わってきたと思います。昔のように雇用が人手不足で、就職なんかすぐにできちゃうという時代には雇用を作る必要はなく、行政としてはひたすら投資をして、整備をして、それでどんどん良くなったという時代だったんです。しかしその後、行政のお金で何かやり始めるとなると、そのお金が次の年にもらえないとプロジェクトが終わってしまう時代がありました。すなわち、お金を投じても何も起こらないことがしばらく続いたのです。そこで今はどう考えるかというと、最初はお金を付けるから、そのあとは自分たちの仕事にして持続運営しなさいね、という事なんです。一時期、街づくりは儲からないって言われた時代はその過渡期だったわけです。都市再生推進法人ができると街づくりは仕事になって、中央都市の雇用に繋がり、中央都市で暮らせるという状況が出来て、人が住むようになり、例えば固定資産税が上っていくというような循環をどうやって作るのかという事なんです。それが公共のお金だけではできなくて、民間の方々に自律的に動いてもらうために知恵を働かすことが必要で、そのことが問われていると思います。

三浦さん
 街の中の密度が下がっていく中で、逆にうまくゾーニングできる時代なのかと思っています。静かに暮らせる場所と、賑わいのある場所、エリアを考えるということだからこそ、上手くゾーニングしていく事は大事であると思います。

藤村さん
 日本のインフラは、アメリカを40年遅れで追いかけているとよく言われます。アメリカがまさに40年前くらいにだんだん人口が減少し始め、中心市街地が空洞化し始めて、空地だらけになりました。対処できたところは良かったのですが、できなかったところは安全が脅かされ、犯罪の温床になってしまいました。ですからやはりエリアの価値が棄損される前に手当てをし続けることが大切であると思います。中心市街地の空洞化はだんだんと進行しつつある新しい現象なので、それに対して新しい仕組みで、諸外国より学んでいこうという事と理解しました。

西村さん
 一つわかりやすい例を挙げますと、大阪府大東市では市営住宅の建て替えをやっています。その市営住宅の建て替えにあたって、普通なら公共がお金を出して建設をして、市営住宅として運営していきます。しかし公共が建てて公共の財産のままだと、実はその分の固定資産税は一切放棄しているわけなんです。今回やられたのは民間が市営住宅を建てて、20年間くらい行政が借り上げる。そして20年間はお金を払い続けるんですけど、固定資産税が入ってくるので、実はチャラなんです。それによって財政的にも非常に楽になるし、民間が建てて運営をするからコストも低く建てられる。民間が関わる部分を残しておけば、公民連携により、民間による面白い運営をしつつ、市営住宅として行政でサポートをするみたいな関係が作れるわけです。今は例として市営住宅を上げましたが、駐車場も道路も公園も、もう少し行政の部分を民間で活用したらどうかと考えていくと、いろんな面白いことが起こっていく時代であると思います。
 なので岡崎市のQURUWAは可能性だらけであると思います。これから凄く楽しくなると思っていて、そこに皆さんがぜひ参加をして、自分なりに出来ることを小さくやっていくという事が、これからの始まりなのではないかと思います。

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シンポジウムの内容は以上となります。
長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。「暮らしを豊かにするまちの使い方最前線」いかがでしたでしょうか?
今後も気になる話題があれば、noteにまとめていければ良いなと思います。
これからもよろしくお願いします!


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