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「フラット」は「イーブン」ではない。矢沢永吉さんのこと

被災された皆様に改てお見舞いを申し上げます。

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台風により、昨日、矢沢永吉さんの43年ぶりの日比谷野外音楽堂の公演が中止された。

矢沢さんの怒りに火をつけたのは、配信計画について送られてきた一通のメール。そのメールへの返答が公開されている。

相手が大きい存在であればあるほど、「自分ひとりのメッセージなんて」という軽い気持ちがあるのかもしれない。少しだけ溜飲を下げられてスッキリするのかもしれない。人の意見に同調することで、より匿名性が増して自分の存在が溶けていく気楽さもあるのだろう。

webマガジンの編集長時代、顔を晒してメッセージを発信することには緊張しかなかった。意図せず誰かを傷つけたり、誰かを煽動したりすることがないよう、とにかく大勢の顔も知らない誰かにではなく、大切な友達にメールを書くような気持ちで記事を書いていた。

矢沢さんはその何倍もの、私たちの想像を絶する緊張感と思いやり、そして何より責任をもってアーティストとしての自分を晒し、サバイブしてきた人だ。その人が怒りを発露しなくてはならない。しかもファンクラブの会員に。なんて哀しいことだろう。

以下はジェーンさんの対談集『私がオバさんになったよ』から、光浦さんとのやりとりの一部。

光浦靖子 見られる側が圧倒的不利なんだよね。
ジェーン・スー たしかに、見る側とイーブンではないですね。攻撃を受ける側になるというか。
光浦 被害者というかね。加害と被害に近いものが。

矢沢さんのHPだけでなく、Twitterを始めとするSNSも然り。誰でもメッセージが発信できて、誰にでもメッセージが届く。そんな時代を私たちは生きている。関係性がどんどんフラットになっていく構造をもう止めることはできないとは思うけれど(もちろん素晴らしい利点もたくさんある)、顔を出して前に出る側と匿名の観ている側とでは、関係性はイーブンではないのかもしれない。そう冷静に一呼吸置いてから、便利なツールを活用していければよいな、と思う。



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