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日本一の餃子屋さんは熊本・天草にあった⁉︎

4日間の熊本〜天草。いつかこの滞在を思い返すとしたら、間違いなくこの餃子屋さんでの出来事を思い出すだろう。世界文化遺産に認定されたばかりの崎津集落に足を運び、その穏やかな風景に魅せられたにもかかわらず、である。

その店は、モーニングコーヒーを飲むためにたまたま入ったカフェに置いてあった地元誌に載っていた。

このおじいちゃんの作る餃子は絶対に美味しいに決まってる。

写真を見ただけだが、この手の鼻は効くほうだ。お腹はまったく空いていなかったが、そのカフェから歩ける距離にあったこともあり、友人を無理やり同行させる。

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あった。雑誌を見て想像したよりかなりのヴィンテージな佇まいで。

扉の前に立つ。

なぜ、営業中の札を2枚、重ねる?

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札はかかっているものの営業中の空気をまるで放っていない。勇気をもって扉を開けてみる。

テレビを観ていたお父さんがゆっくり振り返る。「お帰り」とでも言いそうな人懐こさで、「いらっしゃい」とニッコリ。

「餃子、食べられますか?」

「大丈夫だよ」

「実はお腹がいっぱいで。でも、どうしても食べてみたくって。2人で1人前でも良いですか?」

「いいよ、いいよ」

少々耳遠くなっているらしいお父さんと大きな声でやりとりをし、カウンターに腰を下ろす。悠々と動くお父さんを見ていたら…

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お父さんはおもむろに道具を並べだし、

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皮を麺棒で一枚一枚伸ばし始めた。

「えっ、今から?」

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「作り置きなんてしないんだよ、ウチは」。

餃子屋歴は修行期間をいれて、約60年らしい。御年80歳(推定)。

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伸ばされた皮にひとつひとつ餡が詰められていくのを眺める。何を尋ねても、オヤジギャグがすぎて、ふざけ、おどけ続けるお父さんだが、手元は手慣れたもの。そして、

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絶対に一人前じゃない量が焼きあがった(笑)。

そうこうしてる時、孫の運動会に行っていたらしい近所のスナックのママが勢いよくお店に入ってきた。私の2つ隣のカウンター席に腰を下ろし、

「雨で濡れちゃったわ〜」

「おでんの差し入れありがとね〜。雨で冷えちゃったからあったまれたわよ。助かった〜」とお父さんとひとしきりやりとり。そして、カウンター席に並ぶ私たちに向き直し

「っで、あなたたちは、どこから来たの?」

「よくこの店に入ってきたわね。なんで?」

「ここの餃子は本当に美味しいから、間違いないわよ」

たたみかけてくるママ。さすが、一瞬で店の空気をすべてもっていく笑。

皮はモッチモチ、肉汁、ニンニクたっぷりの餃子をほうばりながら、ママのマシンガントークを聞く。耳が遠いらしいお父さんは、もはや、ママの話しとは全く会話関係ないことを話し出す。そして、「餃子、美味しい〜」と私たち。

誰が誰の話を聞いてるのか分からなくなるカオスぶり。互いにおかまいなしに話し続ける有り様は、まるで久しぶりに茶の間に集まった親戚の団欒のよう。

なんだか懐かしい。

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唐突に「これも食べなよ」とおでんを置くお父さん。

「へっ?」と戸惑う私たち。

「いいのよ、いいのよ、ここは座っているとなんだかいろいろ出てくるのよ。私なんかになると、勝手に冷蔵庫も開けちゃうの」とママ。

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ちなみに、ママ曰く「ラーメンは美味しくないから私がメニューからはずしちゃった(写真右上の空いている部分)。あ、でも、焼めしは美味しいわよ」。さらに、瓶ビールの値段をお父さんがまったく値上げしないものだから、500円→600円→650円と勝手に壁の表示を勝手に書き換えたのもママらしい。なんとも自由(笑)。

そうこうしていると、シャチョーと呼ばれる(絶対に社長ではない)近所のおじさんが合流。さらに店内が活気づく。ひとしきり皆で盛り上がったものの、空港へ向かう時間が迫っていたため、無念のお会計。

「餃子1人前で600万円!」。

でた、オヤジギャグと思いつつ、「え、おでん代もとってください」と言うと「いらん!」と一言。1000円と出すと、「はい、400万円」とおつりが100円玉で4枚返ってきた。消費税は面倒だからとったことがないのだそう。「税率、明後日から上がるんですよ」と言っても、「そんなのは知らん!」の一点張り。

再訪の約束をしようとすると、「年内で締めるから」とポツリ。「そうなんですね」とガッカリしていると、「大丈夫、週に1度は言ってるから。この8年くらいずっと私は聞き続けているわよ。また、いらっしゃいよ」とママ。「もう、中国に帰らなくちゃ行けないから」とお父さん。

もう、何が何だか分からない(笑)。

とにもかくにも天草でこの店に行きさえすれば、お父さんが餃子を包んで焼いてくれるし、もしかしたら味の染みた九州おでんも食べられるかもしれないし、地元の方々の団欒にもまざれるし、夜はママのスナックでテレサ・テンを熱唱することもできる。

こんなふうに旅先が「私の街」と思えるような体験が私は本当に大好きだったりする。

この餃子屋さんの餃子が日本一かどうかは分からないが(ちゃんと美味しいですよ!)、私にとってココが日本一思い入れのある餃子屋さんとなった。

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お父さん、次、会える日まで、どうかお元気で!

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