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自立と自己解放の物語。映画『あなたの名前を呼べたなら』

大好きな映画に『君の名前で僕を呼んで』がある。北イタリアの避暑地。17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)は、アメリカからやって来た24歳の大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)と出会う。やがて激しく恋に落ちるふたり……そのふたりが、互いに自分の名前で相手の名前を呼び合う(たとえば、私が相手に向かって「葉子」と呼ぶ、という意味です)。それは二人だけの秘密で約束だ。

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相手を自分の名前で呼ぶことで相手との境界線が曖昧になる。一瞬、「なんじゃそれ、意味がわからん?」と思われるかもしれないが、肉体的だけでなく精神的にも、相手と渾然一体になりたいと願うことは、恋愛感情における根源的欲求に他ならないと私は思うのだ。

特別な相手から呼ばれる自分の名前には特別な意味が生まれる。

たとえば、それまで苗字で呼び合う相手と付き合うことになり、初めて名前で呼ぶ。または、呼ばれる。ただ、名前を呼ばれるだけで、自分の存在が、その人にとってのその他大勢から唯一無二の特別な自分となる。えもいえぬ照れくささからくる緊張からの弛緩があるし、それにより互いの自己重要感がググッと高まりあう。その瞬間がもしかしたら恋愛関係におけるクライマックスなのかもしれないと思うほどだ。

ファーストネームでの呼びかけは、「幸せホルモン」「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンが増加することがわかっているそうだ。オキシトシンは、脳の下垂体後葉から分泌されるホルモンの一つで、出産や授乳時、親しい者との抱擁や性行為でも増加する。

「名前を呼ぶ」という効能は私たちが考える以上に大きい。

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あなたの名前を呼べたなら』は、現代に身分制度の影が色濃く残るインドが舞台。建設会社御曹司と住み込みのメイドによるラブストーリーと謳われている。一方、都市部で近代的生活を送るリベラルな富裕層と地方で身分制分や因習に縛られて生きなければならない人たちとの断絶の物語でもある。

ただ、名前を呼ぶ

好意を寄せる相手を「名前で呼ぶ」ことが絶対に許されない社会を生きるひとりの女性にとって、それは自立と自己解放の物語となる。

https://mi-mollet.com/articles/-/13444

https://mi-mollet.com/articles/-/17613

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