世界の穴を埋めていく。

信仰は競馬によく似ていると思うことがあります。 ビギナーはよく穴を当てます。 ところが馬のことを勉強し始めたら、当たらなくなります。
/遠藤周作


某学校で講義をした時に、以下のような質問があった。

「ニーアオートマタのようなヒット作を出してしまうと、次の作品に期待されてプレッシャーが大きくないですか?」

的な内容。初見の印象としては「何も世の中に出してない学生が心配するような議題かそれ?」っていう感じだったんだけど、自分の中の割と重要なところを説明できそうだな、とも思った。


ディレクションって仕事は、まず、製品として完成させる事が求められる。その為には、全部の要素を70点くらいの及第点にするのが必要。
売れるとかどうとか、良いものを作るとか、そういう事以前に「完成させないと……」という焦燥感だけでドライブしている。

とにかく完成させる為には、効率を重視しなくてはいけない。

僕は「ゲーム性」と呼ばれる、アクションの熱い駆け引きや、対戦のバランスや、RPGの成長曲線に興味がない。そういう部分は僕じゃない人の方が上手く作れるので、任せる。

シナリオやアートディレクションも、「ソコソコでいいんじゃない?」って思ってる。んだけど、こっちはなかなか難易度が高い。理由は、上記の「ゲーム性」に振り回されてしまうから。「ゲーム性」は人もお金もかかるから、コントロールが難しい。一方で「シナリオ・アート」は割とコントロールできる。なので、「シナリオ・アート」がゲーム性にすり寄る必要があるんだけど、セクションを横断したコントロールは誰もやってくれないので、渋々ながらやっている。

まあ、それも70点取れればいい。


世の中には100点を目指してモノを作ってるクリエイターがたくさんいる。知り合いのゲームクリエイターで言うと、ICOの上田さんとか、ベヨネッタ神谷さんとか、ペルソナの橋野さんとか、デモンズソウルの宮崎さんとか、十三機兵の神谷さんとか、ダンガンロンパの小高さんとかが、そんなタイプな気がする。

なんていうか、作品に一本背骨が通ってるというか、カラーがハッキリしているというか。「こういうの作りたいんだな」っていうのがよくわかる人達。


一方で自分は、そういうモチベーションはあまりない。
フリーで一人でやっているというのもあり、スタッフの個性もバラバラでコントロールしづらい事もあるんだけど、そもそも飽き性なのが原因にあると思う。

スゴイ飽き性。
仕事に飽きて、別の仕事を作る、みたいな事をやってパンクする。
そうやってパンクしてるのに、こんなところで文章書いてる。
狂ってる。

そうやって、パンクし続け、締め切りを遅れて、人に嫌われて、作品も出せなくなって、業界から消えるのかな、とかよく思う。
でも止められない。


衝動の根っこにあるのは「穴を埋めないといけない」という脅迫観念だ。

世の中でやられていない事、何かの事情でまだ実現できてない事。
それらは全部「穴」で、埋めなきゃいけない。

だから、スクエニで暗いゲーム出したり、ラスボスを音ゲーにしたり、ヒロイン救う為にセーブデータを消したり、舞台設定を吉野家だけに限定したストーリー漫画原作やったり、カードで地形を表現したりしてきた。大きい穴も小さい穴もたくさんあったし、上手くいったこともあれば、失敗もたくさんある。

ヒットするか、儲かるかどうかはあまり重要じゃない。
ソーシャルゲームをやりはじめたのも「他のゲームクリエイターがガチャに対して批判的であまり参戦しようとしなかったから、穴がたくさん残ってるんじゃないか?」というヨコシマな動機だったし。


穴を埋めるっていっても、それだけでゲームは完成しない。そこそこ意味の判る話を作らないといけないし、そこそこ面白くないといけないし、そこそこ絵もキレイじゃないといけない。そこは70点になるように、努力をしないといけない。

そんなに努力してるのに、全然埋まってない。
まだまだ世の中には大量に穴がある。
嬉しい。

だって、穴を埋めるのが趣味だから。プチプチを潰したり、かさぶたを剥がしたりするのと同じで、それは自分にとっては快楽行為だから。

さらに言えば、他人が穴を埋めていく様子も大好きだ。
とにかく、この世界の穴は埋まらなければいけない。


ペルソナの橋野さんと話した時に、橋野さんが「ゲーム作りを通して世界を少しでも良くしないといけない、と思ってる」と言っていた。「スゴイなあ」と驚きつつ、自分には全く存在しない感性だと思った。

イーロン・マスクとか、この世界を救いたいらしい。
最近、某偉い人と対談させて頂いたときも似たような事を言っていた。

一方、自分はとにかく「穴」であれば何でも埋めたくなる。
もちろん、世界を良くするような「戦争を無くすゲーム」とか「児童虐待を無くす映像」とかも作りたい。作りたいけど、実装方法がよくわからない。だから出来ない。

でも、世界を悪くする「穴」も埋めたい。
「コンシューマーゲーム機で性器がもろ出し」のゲームとか。
「実際の死刑囚の執行タイミングを決める」ゲームとか。
「核ミサイルのボタンに直結した」ゲームとか。
実装方法は判るけど、法律や社会情勢が許さない、から出来ない。

僕は戦争には反対なんだけど、日本が戦争になった時に政府から「戦意を高揚させるゲームを作ってくれ」と言われたら、作ってしまう気がする。

それで、戦争が終わったら、石を投げられて、死ぬ。
それまで、穴を埋め続けるんだ……と思いながら今日もアイスを食べてる。

アイスクリーム万歳。

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