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魂揺さぶる名作漫画 『孤高の人』 を知って欲しい②

漫画『孤高の人』 と 小説『孤高の人』

前回、原作である新田次郎の「孤高の人」は加藤文太郎という実在の人物をモデルにしていると書きましたが、漫画版「孤高の人」は、まさに現代のこの時代を生きる加藤文太郎について描かれています。

それゆえ主人公のパーソナリティに関しては実在の加藤文太郎と比べると、単独行を好む(孤高の人)という点以外においてはほとんど創作だと思われます。ただ、全体の話の流れは原作を汲んでいる部分もあり、著者も言っていましたが、原作を尊重しつついかに現代を生きる加藤文太郎の人生を作り上げるか、著者の戦いも垣間見えます。

さてそれでは漫画「孤高の人」の魅力について書いていきます。

魅力1:えげつない画力

漫画版「孤高の人」の作者は坂本眞一さんです。代表作に「孤高の人」の他、「イノサン」というフランス革命を舞台にした漫画があり、現在(2019年6月時点)その続編である「イノサン Rouge」が掲載中です。

この坂本眞一さんの描く絵が、ちょっとアホみたいな表現ですが、えげつないほど上手なんです。言葉で言っても伝わらないので、是非「坂本眞一」で調べてみてください。instagramでも作品を載せていらっしゃるのでチェックしてみてください。

ご覧の通り、漫画ではありますが、もはや絵画・芸術の域かと思うほど緻密なタッチであることがわかります。
色をつけた絵はアルフォンス・ミュシャのポスター絵画を思わせるような世界観です。

「孤高の人」はまさにこの芸術的なタッチによって生み出されています。言葉にできない程美しく、そして平等に無慈悲な山の世界が、人の絵で表現可能な最大レベルで描写されています。また、生きづらい世の中、山という極限の世界で生まれる人間の喜怒哀楽や、登山家の命を支える叡智の詰まった洗練された道具なども圧倒的な説得力で描写されています。

魅力2:擬音表現がない

魅力1にも通じますが、この漫画には擬音の表現がありません。擬音の表現とは山岳漫画で言えば「ガラガラガラ」「ヒュー」「ザクザク」など作中で発生する音や感情の描写に使われるものです。某有名漫画だと「ドンッ!」とか「ざわ…ざわ…」とかですね。

いわば漫画において欠かせない表現手法でありますが、この「孤高の人」にはありません。それは全てを絵のみで表現しようとする作者の試みによるものです。実際この作品において絵が伝えてくる表現には凄いものがあります。まさに圧倒的画力があってこそできるワザです。

また表現手法の一つとして度々使われる状況の比喩表現も見逃せません。例えば登山中の上空からの氷塊の落下を、大量のコンテナが落下する絵で表現しています。氷塊は本当にコンテナやそれ以上の大きさになる事がありますが、絵だけでは読者がイメージするのに限界がある場合、誰もが見たことのあるコンテナを使用することで、状況の迫力が誰にでも伝わるようになっています。

魅力3:主人公の変化 (成長ではなく変化)

この物語の主人公は人との関わり合いを極端に避け、単独での行動を好む人間です。ゆえに極力人間関係を避け生きていこうとしますが、彼の目指すK2東壁という山を目指すにあたり、人との関わりが不可避となってきます。

その中で頑なだった彼の人間性にも徐々に変化が生まれていきます。それは多くの人にとっては歓迎される変化である一方、多くの人が良しとしないけれど何か大切なもの、を失っている事にもなるのです。

普通とは何か。誰が普通を決めるのか。
幸せとは何か。誰が幸せを決めるのか。

手に入れたもの、失ったもの。 
失ったもの、手に入れたもの。

僕たちも生きていく中で、手に入れるために失わなければならないものがあります。
自分の中の変化に違和感を感じて悩む主人公が最後に出した答えとは。
是非作品で確認してみてください。

魅力4:山に全てを捧げる人、それを取り巻く人の人間模様

なぜ山に登るのか。

山に魅せられた一部の人以外にとってこれは当然の疑問だと思います。
なぜなら山を登るという行為は失う代償があまりにも大きいからです。
ましてそれを自分の大切な人がするとなると、不安にならない訳がありません。

しかし山に登る人にとって、それは山に登る事は自分の存在価値だと言えるほど大切なものです。

ゆえにそこには軋轢や悲劇が生まれることになります。

大きなものへの挑戦の裏には、挑戦そのものと同じくらいのドラマがあったりします。
これが自分なら、大切な人なら。考えてみるのも面白いと思います。

まとめ

読んで欲しいと書いておきながら、実は僕はこの漫画を持っていません。

バックパッカーをする資金を貯めるため、節約に節約を重ねていたからです。その為、僕は事あるごとに古本屋に行ってこの本を繰り返し繰り返し立ち読みしていました(すみません…)。

この本は読む時の自分の状況によって感じ方が変わります。また誰に感情移入するかという事も変わってきます。

どんな生き方が正しいとかではなく、自分が今向いている方向はどこなのか迷った時、この漫画は必ずヒントを与えてくれるような気がします。

僕としてはまず仕事を見つけてお金を貯めて、全巻セットを購入する事に向かって頑張ろうと思います。

読んでいただきありがとうございました。

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