曲語り~「箱の中」の曲

 三ヶ月前、職場で久しぶりにキーボードを叩いたら、「ねこふんじゃった」しか両手で弾けませんでした、すーこです。右手はまだかろうじて動くものの、左手が全然覚えてない。楽譜を見れば体が勝手に動いていたあの頃とは、すっかり変わってしまったなぁ。
 約十二年前、九年続けたピアノを受験勉強を機に辞めたっきり、曲を弾くことはなくなりました。高校で合唱をしており、楽譜には二年半毎日触れ、発声練習曲を両手で弾いたり、音とりで担当パートを片手で弾いたりしていて、今でも仕事で楽譜と向き合うから楽譜にはよく触れるのですが、ピアノは当時少し練習をサボっただけで(私は)弾けなくなっていたので、そりゃ弾けなくなるよなぁと。逆に、「ねこふんじゃった」だけ弾けるあの現象に名前をつけたいと思いました(笑)と同時に、噂に聞いていたけれど、本当に「ねこふんじゃった」は弾けるんだと妙な感動を覚えました。

 さて、前置きが長くなってしまいましたが、表題の件につきまして、綴っていきたいです。
 この記事を上げようと思ったのは、読んでくださった、コメントをくださった方には言わずもがなですが、一昨日書いた「箱の中」という短編小説に出てくる曲を考えたり、みなさまのコメントを拝読したりして、「箱の中」の“曲”に焦点を当てて語りたいなと思ったからです。

 始めに断っておきたいことがあります。コメントで「クラシック曲」と書きましたが、よくよく調べてみると、「クラシック曲」と言わない方もいるそうなのです。「クラシック曲って言ってたじゃん。当たらんわ。」とお思いの方、申し訳ございません。私自身は後期ロマン派だからクラシック曲だと思っていたのですが、確かに100年ほど前と近現代なので微妙な時期のようです。すみません…
 以降は「箱の中」のネタバレを含みます。ネタバレになり、またイメージを壊したくないという方もいると思います。ネタバレを含む点をふまえ、読みたい方だけ読み進めていただけましたら幸いです。ただ、作品への思いは、いつかまとめて短編小説あとがきのようなものを書く機会があれば、そこで書きたいと思います。

 まず、みなさまに挙げていただいた曲を列挙いたします。曲のイメージをおためしでお尋ねしてみたら、反響がすごく驚きました。こんなにコメントをいただけ、とってもうれしかったです。

J.S.バッハ「主よ、人の望みの喜びよ」(『心と口と行いと生活で』第10曲 コラール)
ショパン「ノクターン」(「夜想曲第2番変ホ長調作品9-2」)
シューマン「トロイメライ」(『子供の情景』第7曲)
チャイコフスキー「花のワルツ」(組曲『くるみ割り人形』第8曲)

 素敵な曲ばかりで、改めて一つ一つ聴かせていただき、どれも作品に合い、みなさまの感性に惹かれ、私の作品をしっかり読んでくださったんだなぁととってもうれしくなりました。感想をくださるくらいですものね。みなさま違っており、みなさまの重ねてこられた歴史を感じました。本当にうれしかったです。
月山六太さん
射谷友里さん
ぢぇぃさん
りみっとさん
ありがとうございました。
作品感想をくださったH川さんもありがとうございました。

 ここからは、私が選んだ曲について語りたいと思います。

 最初、ショパン「別れの曲」(練習曲作品10-3)が浮かんだんです。望は、ゆりこに「別れ」をきちんと告げたいと思って贈るから、この曲なんじゃないかと。

ショパンを好きで、よく親のCDを借りて聴いていて、これも好きな曲の一つなのですが、これがオルゴールから流れてきたら、ゆりこはあまりに悲しい…手紙を読む前に号泣してしまうなと思ったんです。

 どんな曲なら、この雰囲気に合うだろう。
 いろんな曲を考えました。ただ、どちらかの感情に寄りすぎる。二人ともに寄り添う曲にしたい。そう悩んでいるうちに、ふと、この曲が浮かんだのです。

ホルスト「木星、快楽をもたらす者(ジュピター)」(組曲『惑星』第4曲)

オルゴールは、平原綾香さんの歌でお馴染みの第四主題にあたる箇所なのですが、ぜひ全てを通して聴いていただきたいと思っております。というのも、恥ずかしながら私自身、今回初めて全て聴いて、衝撃を受けたんです。こういう曲だったのか…!と。
 全体として、壮大で明るい曲ですが、その中に、孤独と愛と希望があるなと思いました。それが二人それぞれにぴったりなのではと感じたのです。二人が重ねてきた年月の奥行きも感じられるのではと思い、この曲をオルゴールの曲にしようと決めました。
 二人の幸せな日々、それぞれの孤独(闘病、遺されし者)、長い年月、最後に感じられる光…全部が詰まっていると思うんです。
 希望と、二人それぞれの決意の強さ(妻への別れと願いを込めて病を隠し通したこと、全てを知りまるごと背負って二人で生きていくこと)を曲に背負ってほしかったのですが、この曲にはまさにその希望と強さがあると思いました。有名な部分から知りましたが、「木星」そのものがこの作品への親和性という意味で合うと思っています。それは著者自身の願いも込めて。
 大きく明るく遠い。「木星」は望の象徴にも思います。「快楽をもたらす者」としての「木星」。必ずしも快楽だけではないんですよね。でも、ゆりこにとっても、望にとっても、互いにそういう存在でした。
 オルゴールで流れる第四主題の部分だけでも、この「木星」のよさが詰まっており、感じ取れると思っています。最後の音に希望が感じられる曲にしたい。その願いを、この第四主題が叶えてくれました。
 また、平原綾香さんの歌もとても好きです。

こどもの頃初めて聴いて震えました。久しぶりに聴くと、今の私にとても沁みました。

 よく音楽を題材にした記事をお書きの方がいらっしゃいます。BGMに設定されたり、小説のモチーフにされたりする方も。そういう記事はより情感豊かになり、その著者の方のお人柄も伝わってきます。だからこそ、自分がそういう記事を書く勇気を持てなかったのですが、今回どうしても書きたくなり挑戦しました。
 オルゴール曲を設定することで小説が豊かになり、その曲やみなさまのコメントでの曲について触れながら私の内面と感じ取ってくださったみなさまについて語り芸術作品を鑑賞する。芸術の秋にこのようなチャレンジができたのは、スキとコメントに勇気をいただいたからです。みなさまに重ねてお礼申し上げます。

 本当言うと、最初はオルゴールにする予定もなかったんです。プロットには「木箱」とだけ。でも、気づけばオルゴールになっていました。そういえば私はオルゴールが好きだったのだと思い出しました。十五年以上前に熊本の小さなオルゴール館を家族で訪れ、少し早い誕生日プレゼントにショパン「ノクターン」のオルゴールを買ってもらってから好きです。好きすぎてLINEのアイコンにしています。かわいらしい水色のハートの箱に、小さいリボンの装飾が右上に施されています。当時から「ノクターン」が好きでした。オルゴールを好きになった原体験です。

 四年前、友人や後輩に付き合ってもらい、ずっと行きたかった六甲の「オルゴールミュージアム」に行きました。そこは、私の頭の中にあるオルゴールの概念を覆す、様々なオルゴールが所狭しと並んでおり、夢のような場所でした。忘れられない思い出です。

 望からのオルゴールが、ゆりこの癒しとなり、また、日々の活力となることを願っています。

サポートしてくださる方、ありがとうございます! いただいたサポートは大切に使わせていただき、私の糧といたします。