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最近の記事

20200911

//根暗男子と不登校女子のありふれたボーイミーツガール  僕はいま、ひとりの女の子と向き合っていた。  名前は知らないが、僕はその子のことをひっそりと『うさぎさん』と呼んでいる。見た目的にウサギを連想するとか、そういうことでは一切なかった。一般的にいう「うさぎ系女子」なんてのは、ゆるゆるふわふわしていて甘えるのが上手で「寂しいと死んでしまう」みたいなパターンを押しつけられている、よく言う「イヌ系女子」や「ネコ系女子」とはまたちょっと違う厄介さを持った女子だと思う。  外見

    • 5歳まで人間ではなかった私へ

      「よるさんって、悩みとか無さそうだよね」とよく言われる。 まあ、確かに、(悩みは)無い。ただ、これは「解けるまで考えるから、悩みはない」だけなので、ただ楽観的な奴だと思われるのも実のところかなり癪なのだけれど、大凡「悩みがない」のはその通りなので、私は私の優先順位に従って「そうだね」と応えることが大半だ。 ただ先日、知人から「傷付いたこともあんまりなさそう」と嘯かれ、あまりにも人を見る目のなさに思わず笑ってしまった。冗談だとしても、あまりにもなあまりにもだ。 そのおかげで、

      • サナトリウムにて

         いまとなってはもう遠い幼い頃の夏、それも生茂る木々を見上げた先の空を思い出すような薄い皮膜のかかった白い光、ここはいつもそんな天気だなと、窓の外を見ながら医者は思う。  そんなタイミングで声をかけられて、先生、という個人の名前には程遠い呼称にも随分慣れたなと思いながら、医者は声に釣られて振り向いた。 「こんにちは」 「こんにちは。――今日は具合良さそうだね」  聴き慣れた声にひとつ微笑みを返してやると、相手の目元がゆるく弧を描いた。睫毛も眉毛も抜け落ちているものだから、体毛

        • 宇宙うさぎの灰色ニーカ

           天気の話でもするかい、とそれが笑った。  これから人間と一緒に一仕事することになる、人間とは随分かたちの違うそれは、口のなかにうまいことパスタを巻いたフォークを突っ込みながら、イートインの席を共にする人間から視線を外し、もう一度己の手元の皿に持ってあるパスタを、くるくるとフォークに巻きつけはじめた。 「それが地球式の雑談の入り口なんだろう?」 「はぁ」  人間が肯定とも否定ともつかない応えを返したのは判ったのだろう。それはまるで片眉を上げたような表情をした。 「僕の思い

        20200911

          20190825.

           仮にその人間をダユと呼ぼう。  元はサキムニというものだったのだが、いまはダユだ。  ダユはつい先程、手首では生温いと首筋に包丁を当てたところだった。この包丁は黄色をしてこぢんまりとしたものであって、ダユがいま住んでいる近くのスーパーで、しばらく前に、果ては生きるため、近くは食べるための料理をするために購入したものだ。  実に愛らしい雑貨だと、かつてのサキムニは思っていた。  それをほんの先刻、首筋に押し当てた。よくある話だ。些細な積み重ねが最後に、ほんの『些細』に弾かれて

          20190825.