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オンライン授業でも授業料変わらず!?

新型コロナの影響で、大学に多くの学生を集めて対面授業を実施することができなくなりました。多くの大学は本年度前期の授業開始を遅らせ、オンライン授業を実施すると決めました。

オンライン授業実施で、多くの学生が疑問に感じたことがあります。それは、

「授業料は変わらないのか?」

というものです。大学に通えないのだから、大学の施設は利用できない。僕が通っている芸大・美大には対面指導を中心とする演習系の授業がありますが、オンライン授業になるとそれらが例年のようには受けられません。

例年より確実に授業の質は落ちてしまいます。決して大学が悪いわけではありませんが、客観的事実として質は落ちます。そもそも通信制ではない大学である以上、通学して対面での授業に価値があることは明確です。

例年より授業の質が落ちるとなると、授業料はどうなるのか。学生は、減額されて当然と考えます。

この減額を求める理由は、経済的に厳しいからではなく、「授業内容に見合った授業料を!」という当然の主張に基づいています。

では実際に、大学に授業料を一部返還せよ、と要求するにはどうすればいいのでしょうか。どういう理論で攻めればいいのでしょうか。

1)そもそも授業料とは?

ものすごく根本的な話から始めます。僕たちは授業料を大学に支払っているわけですが、何の対価としてお金を払っているのでしょうか。まあ、「授業」の対価なんですが、最高裁判決に以下のような記述があります。

(大学の授業料等は)一般に,教育役務の提供等,在学契約に基づく大学の学生に対する給付の対価としての性質を有するものと解され

最判平成18年11月27日民集第60巻9号3437頁[不当利得返還請求事件]


つまり、授業料は「入学時に契約した授業内容の対価」ということになります。これだけ読むと、「僕たちが入学した時に大学と契約した内容の授業が行われないのだから、対価として支払っている授業料の一部が返還されて当然」という主張が通ると思います。

2)法的なハードルは高い

しかし、別の最高裁判決を見てください。これは、「説明・宣伝された教育内容の一部が変更され実施されなくなったことが、不法行為かどうか」が争われた裁判です。不法行為であれば、債務履行等の請求ができます。

(裁判要旨)
学校による生徒募集の際に説明,宣伝された教育内容や指導方法の一部が変更され,これが実施されなくなったことが,親の期待,信頼を損なう違法なものとして不法行為を構成するのは,当該学校において生徒が受ける教育全体の中での当該教育内容や指導方法の位置付け,当該変更の程度,当該変更の必要性,合理性等の事情に照らし,当該変更が,学校設置者や教師に教育内容や指導方法の変更につき裁量が認められることを考慮してもなお,社会通念上是認することができないものである場合に限られる。

最判平成21年12月10日民集第63巻10号2463頁[教育債務履行等請求事件]

つまり、説明・宣伝された教育内容の一部が変更され実施されなくなったことが不法行為と認められるには、

①教育内容全体の中での当該教育内容の位置づけ
②当該変更の程度
③当該変更の必要性、合理性等
以上の事情に照らし、
④当該変更が学校側による教育内容や指導方法の変更につき裁量が認められていることを考慮してもなお
⑤社会通念上是認することができないものである場合に限る

と、これらのハードルを越えなければなりません。①や②が、今般の新型コロナの影響によるオンライン授業化には当てはまる可能性がありそうですが、オンライン授業化は感染拡大防止のために行うという必要性と合理性がありますし、そもそも大学には変更をする裁量があります。また、オンライン授業化が社会通念上是認できない変更とは言えないでしょう。

これにより、オンライン授業化に変更されたからといって、その分の授業料を大学に返還させる法的な根拠は乏しいと言わざるを得ないと思います。

3)学則は返還を認めていない

そもそも、多くの大学の学則では、休学以外の理由で、既納の学費を返還しないと定められていると思います。入学時に誓約書にサインした以上、返還はかなり厳しいでしょう。

4)大学側の事情

例えば、大学の施設を利用できないのなら施設費は返してほしいと学生が求めても、通学が再開するまでの施設維持費は当然かかるわけです。

また、オンライン授業化に対応するために、教職員は例年より激務をこなしていることでしょう。しかし、給与は変わらない。

こうした、大学側の事情というのにも、僕たち学生は意識を向ける必要があると思います。大学と学生が不必要に対立しても意味がない。

経済的に苦しく、学費納付が困難な場合の話ではありますが、僕は、大学に直接学費の減免等を求めるのではなく、国や自治体による大学への交付金や助成金を求めることのほうが効果的だと思います。

実際に、野党・国民民主党の玉木雄一郎代表は、経済的に苦しく学費が払えない学生、また、経営に不安を感じている大学への支援策として、 国から大学への交付金や助成金の交付・増額を政府に求めていくことを表明しています。




5)では言いなりか

だからといって、「授業内容に見合った授業料を!」という主張を引っ込める必要はありません。

本年度前期は確かに、納付する授業料と実施される授業内容は釣り合いませんが、4年間というスパンで考えればいいのです。

まず前提として、本年度前期のオンライン授業をできるだけ例年の授業の質に近づけるよう大学に求めます。そして、後期以降に振替授業等を求める。また、余剰分の授業料を、学生に有益な形で還元することを求める。大事なのは、4年間で受ける授業と4年間で支払う授業料を釣り合わせることです。

学費は高額です。私立だろうが国公立だろうが。そうした授業料と授業の質について考えることはものすごく大事なことだと思います。自分が支払った授業料は適切に使われているか。この意識は、税金の使い道が適切かどうかを考えることと似ているし、納税者・有権者となったときに必要なものだと思います。

以下、参考記事です。

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