たった一人のための言葉、だからこそ強い|「苦しかったときの話をしようか」感想

尊敬するマーケター・森岡さんの著書、「苦しかったときの話をしようか」を読んでいます。

この本は、森岡さんが就職活動を控えた娘さんに向けて、少しずつ書きためていたノートが基になっています。基になっているというより、ほとんどそのまま掲載しているそう。

この本の第5章~第6章だったかな。終盤の文章の熱の入りようが凄くて。途中から涙が止まりませんでした。ビジネス書で泣いたのははじめての経験でした。

内容としては、森岡さんのキャリアのなかで一番辛かったときの話。そのときどんなに悔しくて、どれほど恐怖を感じていて、何度投げ出したいと思ったのか。その度に現実にいかに立ち向かっていったのか。

そして、今まさに社会人としての旅をはじめようとする娘に向けての激励のことばの数々。失敗すること、辛いこと、逃げ出したいことがあるのは君が挑戦している証拠なんだと。

何よりも響いたのは「君は大丈夫だ。」というフレーズです。

このことばは終盤で何度も何度も繰り返し語られています。親から子へ贈られる絶対の肯定。

何の根拠もない、といってしまえばそれまでかもしれない。けれど森岡さんはきちんと根拠も語っていました。

以下は、娘さんが生まれたときのエピソードです。

君は私の左手の薬指を不意にギュッと掴んだ。そのときダイレクトに伝わってきた温かさは、なんて儚くて、なんて確かな存在感だったろう! 君の小さな手のひらと米粒のような指先が掴んでいたのは、指一本ではなく、私という存在のすべてだった。


後ろは一切振り向かなくていい。君自身の人生を充実化させるために何が必要か、それだけを考えながら前に進めば良いのだ。もう親の期待とか、親孝行とか、そんなことも一切考えるな! 小さな手で思い切り薬指を握ってくれたあの瞬間に、君の一生分の親孝行はもう十分に済んでいるのだから。君たちが生まれる前に、どうやって生きていたのかが思い出せないくらい、私は幸せだった。君たちが生まれてきてくれたおかげで、二十数年もの時間を共有してくれたおかげで、この世界の誰よりも私は楽しくて幸せだったのだから。


すこし引用が長くなってしまいました。

あまりにも真っ直ぐな、親の愛。同じことを思っている親が何万人いても、子供にその思いを伝えることが出来る人はきっと数えるほどしかいないでしょう。

森岡さんのこの言葉が娘さんに伝わり、さらには活字になって日本中の人々に届いているのはほとんど奇跡です。

この世界に生まれてきてくれた、だから君は大丈夫。娘さんただ一人に向けて書かれた森岡さんの言葉は、たった一人のための言葉だったからこそ、何の関係もない私や、多くの人々の心に深く響いてくるのだと思います。

言葉は、届けようとする対象が広いほど力が薄くなる気がします。いろんな人に気を遣っていくと表現がぼやけてしまう。
反対に届けたい対象を絞るほど表現は鋭利になる。他人の心まで深く届くようになる。

そんなことを強く感じました。

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