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廃駅からの脱出

「走らないので、このありさまです」

駅長さんがしょんぼりしているので見渡すと、廃線になったのをいいことに、終点駅の線路を埋め尽くす勢いでボウボウと草が生えている。

「電車が走っていた頃は、いつでも帰れると思っていたのですが」

がっくりと肩を落とす駅長さんが気の毒になったので、ホームから線路を見下ろして「こんなところで生えません!」大きな声で毅然と叱ると、草たちがどよめきながら腰を抜かした。張った根を慌てて引き抜き、おぼつかない足取りで右往左往しているので「いつまでもウロウロしません!」さらに大きな声を出して叱ると、草たちが一目散に散り逃げていく。

レールと枕木が姿をあらわすと、駅長さんが飛び上がって喜んだ。

いそいそとホームから降り、レールの端を掴んだ駅長さんが、枕木ごと線路を軽々持ち上げる。布団にシーツをかける時のようにふわりと大きく腕を振り上げると、線路が縄梯子みたいにやわらかくしなりながら、空に向かってはがれていく。

「今日はとくべつに高いですねぇ」

雲のまっすぐに棚引くのを嬉しそうに見上げて、そこから垂れ込むように伸びる線路の枕木に足を掛けて、駅長さんがするすると秋晴れにのぼっていく。


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シロクマ文芸部の企画に参加させていただきました。

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