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「お前、だれ⁉」@シブゲキ

ここ数年の私の貢ぎ先と言ってもいいダンスパフォーマンスグループ「s**t kingz(シットキングス、以下シッキン)」のkazukiとNOPPOの2人が、また新たな扉を開いた。今回彼らが開いた扉は・・・

「お笑い×ダンス」

脚本にかもめんたるの川崎う大、監修にフジテレビの竹内誠を迎え、ダンサー、振付師としてキャリアを積んできたkazukiとNOPPOがコントに挑戦する。お笑いが好きなkazukiが幼馴染みでチームメイトでもあるNOPPOを誘って実現した今回のコントライブ、ファンである私は第一報を聞いた時「この二人はそう来たか!」と驚きと納得だった。シッキンで舞台と言えば、Oguriとshojiによる朗読×ダンスの舞台「My friend Jekyll」の再演があったが、かなりシリアスな舞台のshoji&Oguriチームに対して、「お笑い」に挑むkazuki&NOPPOチーム。見事に対照的だ。

*「My friend Jykill」の感想は下の記事をご覧ください。

そんな思いっきり対照的な舞台に挑む2人。日頃のトークでも頭の切れ(ツッコミどころのセンス)が光るkazukiと、絵に描いたような右脳型のNOPPOの凸凹コンビ。身長も凸凹なら中身も凸凹な2人が繰り広げるダンス、楽しみでしゃーない!…おっと思わず砕けてしまった。楽しみで仕方ない!

…と、意気込んでチケットの抽選に申し込むもファンクラブ(062)先行、LINE先行、一般販売と3回申し込んで3回振られる前途多難ぶりだった。しかし、同じ思いの人たちが多かったのか追加公演と千穐楽の配信が決まり、何とか追加公演のチケットを取ることができた。これに関してはシッキンの運営サイドにこの場で改めて強く言いたい。

私たちの見たい欲、舐めてません?(笑)

というのは冗談で、コロナ禍で中々劇場を押さえるという事のリスクは大きいはずなので、本当に追加公演を決めてくれたこと、またコストだってバカにならないであろう配信にも踏み切ってくれたことに感謝!

1.前半はコテコテコント&キッレキレダンス

さて、見終わった後の感想としては「あれ?これってコント?普通にお芝居だった!」というのが正直な思い。「笑えなかった」という事ではなく、前半は2人がワチャワチャとコントを繰り広げて「ほんとバカだなー」と笑いの連続だったのだが、後半の展開、物語が核心を突き始めるとそれが普通にジーンと来る内容だったので、前半と後半で印象が違ったのだ。

開幕前のチラシなどのビジュアルやイントロダクションから、何やら無人島に漂流し、その際に記憶喪失になった二人?が出会ってドタバタするのだろうという大体の設定は事前にインプットしつつ、いざ幕が上がる。

***(以下、ネタバレありの感想です!)***

 目が覚めると無人島に漂着していた橋本浩一(kazuki)。自分ひとりだけしか島にいないかと思いきや、同じく漂着した小川敬太(NOPPO)と出会う。2人は共に自分の名前しか覚えていない記憶喪失の状態だったが、とにかく無人島生活を乗り切り、脱出するため力を合わせることにした。こうして2人の漂流生活が始まるのだが…

 狂言回し、およびツッコミ担当が主人公・浩一を演じるkazuki、ボケは目の前に現れた得体の知れない不思議な男として登場するNOPPOが担う。NOPPO演じる敬太は、食べ物を見つけたら2人で分け合うと約束したにもかかわらず「毒味したという事にしよう」と言って一人でリンゴを食べたり、貴重な雨水をボトルに貯めるため2人でブルーシートに雨水を貯めようとするのにボトルではなく自分の口に入れるなど、時に天然、時に確信犯的にボケていく。それに対してツッコミをしていくkazuki。

 こうしたコント部分は割とコテコテな展開。2人の芝居もナチュラルなのは、これまで”無言”とはいえ様々な設定の舞台を作ってきたからこそ。kazukiの台詞ありの芝居は私の知る限り初めてだが、概ねナチュラル。彼の台詞は状況説明も兼ねることが多く、ツッコミをする場合でも、本家のお笑い芸人たちがするコントのように必要最小限のワードで”スコーン!”と突き抜けるようなツッコミともまた違うので、その辺りの勢いの付け方やテンポ感が難しいだろうなーと思った。
 NOPPO扮する小川敬太のキャラクター設定は天然そうに見えて、でも裏(一人になった時)ではちゃっかりズルのする、という変わっているし抜け目ない奴だけどどこか憎めない奴、という感じで、NOPPOの元々のキャラクター(口数は多くないけど言う時は言うし、たまに斜め上を行く発言もするw)にも通じているので、本人たちのキャラクターを踏まえた当て書きも多く、自然な印象を受けた。ここは今回のライブの発端であるkazukiの責任感と、そのkazukiへ全幅の信頼を寄せ、全てを委ねるNOPPOの関係性そのものでもあるのだと思う。
 しかし、台詞と台詞の間だったりは、やはり「プロのそれだな」と感じた。シッキンのライブパフォーマンスでもコミカルなモノは多いが、そこには仲良しな4人が作り出す独自のムード、ノリがある。しかし今回は脚本にかもめんたるのう大氏、監修に竹内氏という「笑い」に関するプロの客観的な目が入っている。なので、目の前で繰り広げられるボケとツッコミが(当たり前だけど)普段見慣れているkazukiとNOPPOの掛け合いではなく、「浩一」と「敬太」になっているのだ。

 このコントの細かな設定などは目新しいという事はなく、いつかどこかで見たことある感じのベターなもので、そのコテコテなコントの随所にキッレキレのダンスを組み込んでくるから面白い。その最たるシーンは、何と言っても敬太(NOPPO)と猿(kazuki)のダンスバトルだろう。リンゴを取ろうとする敬太とそれを阻む猿との対立からのダンスバトルへと展開していくが、1人と1匹がキッレキレなダンスを踊るという事での笑いに加え、「猿が敬太の脇毛を抜く攻撃をする」というボケをダンスでやってのける。こちらは笑うことと「ダンスかっこいい!!」と目をハートにすること、どっちのリアクション取ればいいの??と大忙しだった。

 ちなみに前半で一番私が「おっ!」と思ったのは、序盤の2人で島を探索する様子をダンス(とパントマイム)でダイジェスト的に見せるシーンNOPPOと黒豹との格闘シーン
 まず探索シーンだが、席が下手側の端だったのもあり細かなシチュエーションを汲み取り切れない箇所もあったが、崖から落ちたり、木の実のようなものを蹴ったり、何かを見つけてハイタッチしようとするけど身長差でハイタッチできなかったり…とクスっと笑える要素を散りばめながらのシーン。ここでの感想は、

ゲームの中みたい!2人の漂流生活的なゲームにしてほしい

最近の3Dで高画質のクオリティの世界ではなく、ファミコンとまではいわないがスーパーファミコン位の画質と十字方向にしか動かない世界で、ピコピコした音楽にのせてノルマ達成したりミニゲームでコインやらアイテムやらをゲットしながら冒険するあの感じ。音楽や誇張気味の効果音、照明などからそうした印象を持ったのと同時に、その音にパキッとはめて踊る2人のダンス(パントマイム)が余計に「ゲームっぽい」のだと思う。これまでのシッキンのダンスを見ていて、ダンス知識ゼロの私の感想では、kazukiとNOPPOの2人は特に1音1音に振りを合わせる時のハマり方がきちっとしている印象だ。1つの音の鳴り始めから鳴り終わりまでのわずかな間の中で、その音の核となる一瞬の瞬間で振りを合わせている(音を取っていく)感じ。本来なら「かっこいいー」につながるこのダンスのクオリティの高さが、ここでは「ちょっと人っぽくない(ゲームの世界っぽい)コミカルさ」になっているのだ。(多分本当はすごいことをしているのに、見ていてすごいことをしているように思わせず「くだらないなー」と笑いながら見てしまっていることが、彼らの術中に嵌ってしまった証拠だ)
 黒豹との格闘シーンは、NOPPOが右手に黒豹の頭部のぬいぐるみをはめて自分で黒豹を動かしながら格闘するシーン。こうした人形を使う手法はコント的だし、登場した瞬間はそのアイデア(自分の手で人形を動かす)という、語弊を恐れずにいえば「チープな手法」に会場全体も笑うのだが、その動かし方が絶妙で、時々角度によっては本当に一匹の黒豹が襲っているように見えてくるのだ。人形は肘まであるので、その人形の長さも絶妙なのだと思う。ちゃんとその頭部の後には胴体が続いているということ想像させるだけの長さがあり、それに加えてNOPPOの身体のコントロールの良さで、単に「チープな手法で動物と葛藤するコント」の領域を超え、日頃身体一つで楽しんでもらうための見せ方を突き詰めているダンサーとしての矜持を感じさせた。(やや大げさだが、でも妙にハッとした瞬間だった)

2.後半は伏線の回収~切ない過去と、真実

 物語は漂流生活の間の中で、記憶を取り戻した2人の過去のシーンが回想されていく。一見何の脈絡もないそれぞれの過去、そこで登場する壺や石投げがやけに得意というエピソードが実は重要なヒントになっていて、話が進み、とうとう浩一(kazuki)の夫婦生活の破綻という記憶が蘇ることで、浩一は自身が刑事(石投げの橋本の異名を持つ)である事を思い出す。そして全てを思い出した浩一は同時に敬太(NOPPO)のことも思い出す。
 敬太は自分が捕まえた”ジャパニーズ・ルパン”と綽名される怪盗であった。全てを思い出したと告げる浩一。すると敬太は、自分は記憶喪失などしていなかったと打ち明ける。全てを悟った2人の前に一隻の船が見えてくる。「ようやく脱出!」と思った時、浩一は敬太を見逃すことを提案する。

というあらすじで、後半は結末に向けて「お前、だれ?」という問いの核心に近づいていく。過去の思い出の回想シーンの中で様々な強烈なキャラクターが登場すると同時に、物語は深刻味を帯びていく。後半に登場するキャラクターは、

①リンゴ農園を営む敬太の祖母(声はほぼ平泉成、kazuki)
②高校時代の浩一の担任の先生(「教え子から変わり種の成功者が出る」という自分都合で応援する、NOPPO)
③浩一の元妻(結婚前は浩一より低かったのに結婚生活の間に30㎝伸びてギネスを目指す、NOPPO)

この中でも特にハイライトになるのが、浩一の元奥さん。まずNOPPOの女装姿にファン一同胸キュンする。派手さはないけどかわいい。ずっと「あーこれ、なんだかんだ一番モテるやつじゃーん」と思いながら見てた(笑)

結婚後、どんどん背が伸びる奥さん。浩一の背を抜いてさらに伸びるに従って浩一と奥さんの心の距離も伸びていく…。前半はコミカルにそのやり取りが展開していくが、一度離れてしまった距離を縮めることができないと悟った瞬間、「ラストダンス」が始まる。

‥‥「泣けるんですけど――――!

2人の出会いからすれ違って離れるまでをダンスで表現したこのパート。愛おしい時間から悲しい結末をオリジナルソング「とどかない」に乗せて踊る2人。NOPPOの女装姿が気にならない!(笑)なんだったら愛おしい!!
 一気にその世界観に引き込まれて「こんな切ない気持ちになるなんて聞いてないぞ!!」と、まさかのうっかり泣きそうになる。今脳内で思い起こしてもNOPPOの踊りのしなやかさったらない。もうね「奥さんは背はどんどん大きくなってるかもな、心は変わらずお前を思って繊細なんだぞー!」と言ってやりたい(笑)。そして自分の小ささ(物理的な小ささではなく心の小ささね)が不甲斐ないとは思っていても、別れる結末にならざるを得なかったことを全て受け止めて踊る浩一(kazuki)のラストダンス。ダンス自体は力強いはずのに”弱い”と感じさせたダンスだった。

 勝手なイメージだけど、kazukiのダンスに対してこれまで1ミリたりとも「弱さ」を感じたことがなかった。シッキンの中でも飛び抜けてキレキレだし、音の取り方えげつないし、自信に満ちている。何と言うか、どんな時でも「完全無欠」感があった。そういうイメージだったので、どうしようもない思いを吐露するように踊るkazukiの姿は印象的だった。「笑い×お笑い」という新機軸を打ち出した舞台が本作の意義かもしれないが、私にとってはこのダンスを観ることができたことが最大のお土産になった。

 ラストの結末(泥棒と刑事という関係)は、まぁ何と言うかキレイに終わるためのちょうどいい設定ということなのだろう。欲を言えば、浩一が記憶を戻してからの2人のコントなりダンスなりの掛け合い、もしくは刑事として怪盗・敬太を追いかけていた頃の回想シーンなどがあっても良いかなと思った。あるいは、2人で生活している最中に敬太の素性がばれそうな怪盗の片鱗を見せるなど、単に「変わった人」ではなく後から「あぁだからか!」と思わせる部分を前半に散りばめられていたら、筋としてもっとしっかりしたかなと思う(私が見落としていただけであれば申し訳ない)。

おまけ.カニ様ダンス

劇中に出てくる巨大なカニの「カニ様」。そのカニ様ダンスがハイライトと言えばハイライトなのに、おまけ扱いして申し訳ない(感想の流れでどうしても組み込めず、かつ流石に触れない訳にはいかないのでw)。
 事前に「カニ様ダンス」の練習動画もアップされ、会場全体で踊るために用意されたこのシーン。どんな流れで登場するのかと思いきや、、、いや、「カニ様」というフレーズから、島のヌシ、あるいは神様的な感じで「カニ様」が登場するんだろうとは思っていたが、そのビジュアルがまさか2人でカニの左右をするとは!(笑)そりゃ2人しかいないんだから具現化するならそりゃそうなんだけど、そこまで振り切るとは! それぞれカニの半身部分の着ぐるみを着て、右半身がNOPPO、左半身がkazukiと並ぶことで一匹のカニを表しているので、常にカニが右肩上がりになっているのが地味にツボだった(笑)。 箸休め的にみんなで踊ってワイワイするとこで、こういうシーンは単純に楽しい(リズム音痴な私にとっては意外と単純ではないのだけれども)。

てな感じで、前半は大いに笑いつつ、後半は意外としっとり、キレイに終わったので、「おっ?これはコントか?普通にお芝居だったな!」という感想に至った。楽しかったけど消化不良な部分もあり、何がそうさせたのかなと色々考えをめぐらすと、ちょっと「欲張り」な舞台だったのかもしれない。コントもするしダンスもするし、ストーリーもキレイにまとめたい、という感じが、上手くまとまっていると言えばまとまっているけど、裏返せば「もっとできたのでは?」と思ってしまう点でもある。
 コントにするなら1本の長いストーリーではなく芸人さんのコント(がどのくらいなのか分からないけど)数分のコントをいくつもやるとか、喜劇とするならもっとストーリーを練らないと喜劇としての完成度は望めない。その辺りがやや欲張りだったのかなーと。ファンとして楽しんでみる分には十分楽しいけど、例えばこれをシッキンファンじゃない人が見てのめり込ませることができるかと問われると、私としては正直「うーん、ちょっと弱い」と思ってしまう。

vol.1ということはvol.2もあるのだろうと勝手に期待しているし、ここからさらにぶっ飛んだ設定でぶっ飛んだ「お笑い×ダンス」を見てみたいので、ここで終わらせないでほしい。何だったら眼の肥えたお笑いファンを唸らせる、いや爆笑させる「お笑い×ダンス」ネタを作ってほしい!!!

※ゲネプロの動画がyoutubeに上がっていたので、私が推してるゲームっぽい感じも見れます。



 










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