ちょ、そこの元サブカル女子!~白川ユウコの平成サブカル青春記 第二十七回/だいたい三十回くらい書きます

1997年 平成9年 21歳 大学3年生


☆11月 山一證券破綻、宮台真司『まぼろしの郊外』、町田康『供花』ドゥマゴ文学賞

 大学の同級生・シノブさんと、京都二泊三日の旅をした。学園祭にはEvery little thingが来るということで、興味がないのでその日程を充てた。紅葉の美しい季節だから宿の手配は大変なのだけれど、彼女はジャニーズのメンバーの追っかけも趣味のひとつで交通や宿泊の事情に明るい。安くて各地へのアクセスが良く、清潔で便利なホテルを予約してくれた。民俗学専攻で、荒俣宏先生・京極夏彦先生・岡野玲子先生のファンでもある。美食家。一緒に古都を歩くのにはうってつけの友達だ。一方、私は美術史専攻で、インド美術やシルクロード史の授業をとっていた。古典和歌も勉強中。同人作家・田村由美先生おすすめの隠れ家的洋食店に行ったり、嵐山や嵯峨野でクラスメイトの誕生日プレゼントを一緒に探して、祇王寺に寄り、化野の念仏寺まで歩いたり。
 レンタルビデオ屋さんで働いているコイちゃんに、軍服パブを紹介してほしいといわれ、彼女も入店した。ビデオ屋さんと掛け持ちで勤務。
 筋肉少女帯のファンということで意気投合、ラブリーさんと三人でクラブチッタ川崎まで足を伸ばした。大槻ケンヂ氏は「海外でマジックマッシュルームをやったらバッドトリップして自律神経を病んだ」といっていて、まあ恋愛関係のゴシップは流れてきてはいたので「オーケンもうだめだよね」「あれじゃあねえ」などと話しつつ、会場へ。
 三人とも「キャーーーーーーーーー!!」大槻氏は本調子ではなく、歌詞を譜面台で見ながら歌ったり、座ったりしていたけれど、ラストは問答無用の「釈迦」!!ドロロの脳髄!!
 ライブが終わると「はぁぁぁ…最高」「かっこよかった…」「やっぱりいいわ…オーケン…」と惚れ直してしまった。
 渋谷Bunkamuraにて、ドゥマゴ文学賞記念として、受賞者の町田康氏と、選考委員の筒井康隆先生が対談するという。二枚チケットを取ったけれど、コイちゃんはその日はお父様のお誕生日ということで、当日券を買おうとしている人を捉まえて一枚買ってもらった。
 対談の最後に、町田氏の、詩集『供花』の中の作品の朗読があった。さすが町田町蔵!!INUのヴォーカル!!のパワフルなシャウトが圧巻であったが、その後、筒井先生も朗読をなさるという。そういえば、若い頃は喜劇役者に憧れていて、俳優のお仕事もされている。思いがけなく舞台が見られる!
 「あの角を曲がると」みたいな短篇?詩?を暗誦された。こんなに声の良い方だというのは知らなかった。角を曲がるたびに、不思議なことが待っている。次は?次は?とわくわくする。すばらしかった。なんという贅沢だろう。ここに来てよかった。
 クリスマスには、予定のない私とコイちゃん。仕事場のビデオならタダで借りられるという。下高井戸の私の部屋で観ようということになった。
 リクエストしたのは、一本は「シド&ナンシー」。ジャンキー馬鹿男と、アメリカン馬鹿女。我々の間でしばらく「お茶の時間にしましょーよー!」が流行った。
 もう一本は、バクシーシ山下監督「電撃ショックレイプきみの素顔が見たい」。『人格改造マニュアル』で電気ショックの方法を書いていた鶴見済さんが出演していると聞いたので。
 再生してみると、ほんとに出てる!
もっと驚いたのは、男優として、ライターズ・デンの受講生が出ていたのだ。「魔王」という名前で。
 鶴見さんは、電気ショック技師として出演しており、しかし女優さんに本当に電気を流すシーンはなく、家庭用の100ボルトのコードをこうして裂いてこうしてこめかみに当てて、という説明だった。
 ドキュメント的な構成で、ベッドの上だけでなく撮影クルーまで映しこんでいる。女優さんはこの男優役の彼と顔を合わすのは初めてのようだ。「あの、私、本番NGなんです。生理なんです」とかなんとか逃げようとしはじめた。山下監督は「じゃあ、ここにいる全員の男からだれでも相手選んでいいよ」。私は、鶴見さんを彼女が選んだらどうしようどうしよう、そんなシーン無いはずだけど、選ばれたときの反応が見てみたい…としばし興奮。選ばれたのは、音響だか照明だかのスタッフの若い男子であったが。どうやら童貞らしい。その後は、つつがない本番で、わりと普通の内容となった。
 レンタルビデオ屋さんには、アダルトビデオの会社の営業マンがときどき来るという。ある日、コイちゃんが「浅草ロック座のチケットもらったよ。桜樹ルイちゃん出るって」。
 桜樹ルイちゃんといえば、AV女優のなかのトップスター。中学生のときから雑誌でお姿を拝見し、卒業文集の自己紹介に「ほじってください桜樹ルイです」と書いたほどだ。日本全国の男性の性欲を掌握している…それは圧倒的な存在。「行く!」
 ビデオは引退して、ストリッパーとしてデビューしたらしい。
 二人で浅草へ行き、意を決してストリップ劇場へ。一階の窓口で割引券を出してよく見ると、学割のほうがお得?私は昭和女子大学の学生証をそこで見せた。エレベーターで上階へ。
 当然お客さんは、女性は私たち二人だけ。前座の二人のストリップ嬢たちは、なんなのよっていう顔で睨みつけてきた。しかし、専属の三代目東八千代さんは、裸も美しいのだけど、ダンスの上手さに驚いた。大学の講座でバレエやタンゴなどは観ているけれど、エンターテインメントとしてのダンスは宝塚もなにも知らず、初めて観たのが彼女なのだ。びっくりした。かっこいい!
 桜樹ルイちゃんは、ダンスも頑張っているけど、その健気さが魅力だった。お尻と脚がすらっとしていて、美を保つことにかけてさすがはプロフェッショナル。ラストは全裸で開脚。
 エロい、というよりも、シュール。なぜ今この場所にこれが。手術台の上にミシンと蝙蝠傘、みたいな。なんてことを思った。
 トイレに行くと、女子トイレを使う人なんていないらしく、新築のように綺麗だった。広々としていて、車椅子対応の間取り。そういえば、お客さんも、高齢者や、杖をついた人、髷を結う前のお相撲さん、いろんな人がいて、完全バリアフリー対応。建築構造の、弱者、多様性への取組は行政よりも進んでいる印象だった。

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