ちょ、そこの元サブカル女子!~白川ユウコの平成サブカル青春記 第二十五回/だいたい三十回くらい書きます

1997年 平成9年 21歳 大学3年生


☆4月 消費税5パーセントに引き上げ、アニメ「少女革命ウテナ」
☆5月 神戸連続児童殺傷事件、阿部和重『インディヴィジュアル・プロジェクション』、電気グルーヴ「A」、Cocco「ブーゲンビレア」

 ライター志望の人は、編集プロダクションでアルバイト経験を積むといい、となにかで聞き、またしてもdaily anをもらってきた。決まったのは、高田馬場のマンションの一室の会社。旅行ガイドブックの制作の下請けで、私の仕事は、一年前のデータを次回も使えるかどうか掲載された飲食店や宿泊施設に電話で問い合わせることと、原稿やゲラなどの書類を、元請の出版社に届けること。有楽町の読売旅行さんや、小石川庭園の近くの昭文社さん(社屋の建築がとても斬新でお洒落でびっくりした)などに行き、夕方だとそのまま直帰でいいよと言われたりして、社員二人はほとんど無言の職場でお給料は安かったけれど楽だった。
 大学も三年生になるとだいぶ授業時間が減った。教職免許を取る気はなく、頑張れば学芸員資格が取れるけれど、そうすると土曜日にも通学しなければならない。資格取得は図書館司書一本にした。
 東京の本屋さんで働くのが憧れだったところにちょうど紀伊国屋書店渋谷店がアルバイトの募集、渋谷駅南口東急プラザ内のお店に入店した。白いブラウス、バーバリーチェックっぽいスカートの制服。本や雑誌が2割引で買える!
 品揃えにも驚いた。かつて宮台真司氏、鶴見済氏が執筆していたという「流行観測アクロス」を初めて見て、これがだいたいの若者向けファッション誌の元ネタ…ストリートスナップがモデルの仕込みじゃないリアルなやつだ…東京の雑誌の作り手はこれを読んでいるのか…それを薄めたのが田舎に流れてきてるのか…と目から鱗。
 レジカウンター上に、ベストセラーが面出しと平積みで置かれていて、郷ひろみ『ダディ』の週や、最相葉月『絶対音感』の週などいろいろだったが、ある日、「この本は発売中止になるから入荷分を売り切ろう」ということで、福島次郎『剣と寒紅』を売り出すことになった。三島由紀夫の弟子というか、性関係にあった年下の男性による暴露本らしい。矢の刺さった美青年・サンセバスティアンが表紙絵。三島の遺族から申し立てを受けたのだとか。三日ほどで捌けたようだった。
 夜九時までの勤務で、タイムカード式。残業は15分単位で付くので、アルバイトのみんなでタイムカード機械の前でおしゃべりをしながら時間稼ぎをして、9時15分をまわるのを待つ。ある日、さすがに正社員の店長が怒り、それからはわざとトイレに行ってゆっくり手を洗っての時間稼ぎという暢気な職場だった。
 編集プロダクションも、書店も、時給は安い。奨学金だけではインドには行けない。貯金をするために再び歌舞伎町を目指す。
 ホステスの面接に向かおうと新宿東口を歩いていると、スカウトマンに捉まった。手塚治虫先生の描く掏り犯のような小男。名刺には鈴木ナントカというありふれた名前。私が受けようとしているお店よりも条件がよいという。面接をばっくれさせられてついてゆくと、まあファッションヘルスに売りとばされそうになるわ、いかついおっさんの愛人契約につれていかれそうになるわ、逃げたら簡単にその逃げ込んだ雑貨屋までおいかけてくるわ。
 と、そこに、ミリタリー系のコスプレの男性が呼び込みをしているお店があった。キャバクラ系の様子。そういえば軍服パブなるものがあると聞いてはいた。女衒の小男を撒くためにも「すみません、面接いいですか」と声をかけると、オールディーズの音楽のかかっている地下のお店のさらに地下の部屋に通してくれた。
 そこにいた店長はアメリカ系の軍服を着た女性、「あなた、飛び込みで来たの!?歌舞伎町の怖さをぜんぜんわかってない!」と呆れられたものの、その怖いもの知らずの度胸を買われたのか、即採用。私には「№67 エレナ」という名が与えられた。
 ずぶの素人で大学生ということもあって「アシスタント」(いわゆるヘルプ)として勤務。「レギュラー」(指名争いをするお姉さんたち)が各常連客たちの席を回る間の繋ぎや、大人数のテーブルの賑やかし。衣装は、アーミー、ネイビー、NASA、騎兵隊の4バージョンをローテーション。白のエナメルの7センチ以上のピンヒールだけ各自で用意。ここもやはり「厚生費」というものをさっぴかれていたが、謎が解けた。
 社長(ヤクザ風ではない、アーリーアメリカン好きの、某テニス選手の家の向かいに住んでいるのが自慢のおっさん)のテーブルにつくと、無口な格闘家風のごっつい男がいる。それが用心棒との噂。厚生費とはたぶんそういう防衛予算のようなものなのだろうなあと考えがおちついた。
 レギュラーのお姉さんたちはプロフェッショナルなホステスだけれど、アシスタントの女子は有象無象の見るからにフリーター女子たち。
 私の後に入店した、美術短大の女子となぜか酒鬼薔薇聖斗の話題で意気投合。お店では、女の子同士での連絡先の交換は禁止。しかし禁を破り、ラブリーさん(仮)とは急速に親しくなる。聞けば、筋肉少女帯、人間椅子のファン。同志!!
 従業員同士が一緒に帰ることも禁止されているので時間差で店を出て、沖縄そば屋あたりの角を曲がり、ラブリーさんと待ち合わせ。社長の悪口、レギュラーさんたちや常連客の噂、音楽、漫画、洋服の情報交換…。中野区のフリーマーケットの会員登録をしているというので、一緒に出そう!という話にもなった。クラブに行こう!ライブに行こう!とにかく遊ぼう!
新しい友達ができた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?