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美しい自転車


『旧型自転車主義』
平野勝之
山と渓谷社

僕は車に乗らない。
免許は一応持っているが、なんせ、車の運転が嫌いだ。性に合わない。
あんなものが安全だとは到底思えない。自分が死ぬならともかく相手を殺す可能性のある凶器に平気で乗れる気持ちがわからない。
自分が死ぬならともかく、と書いたが、もちろん死ぬのは嫌だ。
でも、自分が死ぬときは、イヤイヤ運転をしている最中の事故死ではないかと思っている。
仕事でどうしても乗らなければならないことは1年に1度あるかないかだが、ゼロではない。
「ほらやっぱり~」とか思いながら死んでいくのだ。
どうせそうなのだ。
ああ嫌だ嫌だ。

何年か前に緊急の仕事で乗らなければならなくなった時、社用のバンが全部出払っていて社長のボルボに乗って出かけたら案の定ぶつけてしまい、それがもとでそのボルボは廃車になった。
それ以来、会社では「あいつには車を使う仕事を振るな」と暗黙のルールが(ありがたいことに)あるようである。

そんな僕だから、車を愛でる人の気持ちもわからない。休日にせっせと車を磨いている人の気持ちもわからない。あんなものに何十万、何百万も払い、常にも莫大な維持費をかけて、高価なガソリンを食わせる気持ちもわからない。

・・・と、思っていた。

だが、この本を読んで、あああああ、と思った。
これならわかる! と。

車ではない。自転車である。

自転車といっても、なんか熱帯の昆虫みたいなカラーリングの車体やらヘルメットやらウェアやらでビュンビュン走ってるような、ああいうのはちょっと趣味ではない(目立ったほうが安全だから、という意味はわかります)。
この本に出てくるのは、多くは30年以上前の、最古は80年前のツーリング車である。
いきなり冒頭に出てくる黒ずくめの自転車に目を奪われる。
う、美しい!
続いて出てくる白馬のような自転車も!
こんなのもし僕が所有していたら毎日でも磨く!
もちろん乗り倒す。車は嫌いでも昔から自転車は大好きだ。

サイクリング車、ランドナー、スポルティフ、細かい区分はよくわからないけれど、なんせ、荷物を積めて長距離を走れる、そういうジャンルの自転車を中心に、、過去の名作を集めた本である。
著者は映画監督の平野勝之氏。自身もランドナーに乗って激寒期の北海道を走破し、それだけで1本映画を作ってしまうような人だ。

飽きもせず、この本の自転車たちを、毎日眺めている。
使い込まれては手当てを受けてきた老自転車たちの勇姿。
僕は自転車量販店のチープなクロスバイクに乗っていて、今まではこれで十分だと思っていたけれど、こういう本を見てしまうと、乗り倒し甲斐、磨き甲斐のあるちゃんとした自転車に乗りたくなってくる。
この本に出てくるイギリス、フランス、イタリアの旧型自転車じゃなくても、日本の量販車であっても、これからの付き合い方次第で独自の輝きを出せるのではないかと、アラヤ、丸石、ミヤタあたりの質実剛健な自転車の購入を考えている最中である。

(シミルボン 2018.6.21)

後日談。アラヤの質実剛健車を購入し、すっかり自転車人になっております。

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