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KAREZMADインタビュー:膨張し続ける好奇心の宇宙

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立体の集合体が放射状に広がるグラフィックや、ポリゴンティックにシェイプされたポートレート作品で知られるアーティストKAREZMAD。長年大阪をベースに、グラフィックデザインやストリートアートの分野で活動してきたKAREZMADが原宿「JOINT BAR」で個展を行った。

ARアプリ「Artivive」を通してカメラを向けると作品が動き出し、音が流れる仕組みを取り入れた革新的な作品だった。仕組み自体は“革新”と言うほど新しいものではないかもしれない。しかし、その動き方やエフェクト、音や音楽は作品性を損なわぬようにこだわり抜かれ、その世界観を拡張するとともに、誰が見ても楽しめるようなエンターテイメント性を孕んだアート作品だった。それこそがARの成熟を感じさせるフレッシュさを伴ったインパクトを鑑賞者に与えていたのではないかと思う。

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「自分が好きなもの、かつビジュアルで直感的にカッコいいと思えるものを作りたい」と、とことん自分の好きを突き詰めていながら、ファンを楽しませることを忘れないKAREZMADのスタンスは、ポジティブなバイブスを共有することが前提のコミュニティ、クラブカルチャーやスケート、グラフィティといったストリートで培われてきた感性とバックボーンがあるからこそではないだろうか。

グラフィック、スケート、ヒップホップ、そしてホビー。それらを横断的に取り込み宇宙のように膨張していくKAREZMADのアートのルーツ、そのパーソナリティにフォーカスした。

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「Chim↑Pomの作品を見ても、その時は正直よくわからなかった」

ーKAREZMADさんが個展「AstRo」や米さんとともに参加した日本初のフィジカルNFTアート展覧会「クリプトーキョー(CrypTOKYO)」で披露したARを使った作品は新鮮でした。ストリートアートで知られるKAREZMADさんが絵を描きはじめたのはいつ頃ですか?

KAREZMAD:絵自体は子供の頃から描いてましたよ。というのも母が美術教師やったんですよね。だから家に絵の具がいっぱいあったし、描けばみんな褒めてくれるから嬉しくて描き続けていました。

ーそれからストリートアートの世界にはどのようにして入っていったんでしょうか?

KAREZMAD:17,8の頃、グラフィティライターのVERYくん(VERYONE)と出会ったのがきっかけです。単純に面白かったんですね。そこから大阪芸大にも行ってアートを学びましたけどグラフィティアートの方が自分としては魅力的だったんですよ。だから大学も辞めちゃって。そこからずっとストリートでグラフィティアートをやってましたね。大阪の中心、難波とか僕、家が天王寺なんですけど、天王寺周辺とかでタギング(自身の名前=タグを描くこと)したりピース(作品)を描いたりしてました。

ーVERYONEさんの他、KAREZMADさんに影響を与えたグラフィティアーティストっていますか?

KAREZMAD:やっぱり一番は大阪のグラフィティライターの人らですね。CMK(CMK Gallery=1999年に発足し、グラフィティを軸に商業施設の壁面、音楽作品のアートワーク、アパレルまで手がける。CASPER、VERYONE、VATOら著名なライターが所属)の人たちとか。

あとはDELTAとか、TOTEM II、亡くなってしまったPhase2も好きでした。3D系のグラフィティをやっている人たちからやっぱり影響を受けましたね。

米原康正(以下:米):Phase2は俺の写真使ってコラージュ作品作っていっぱい送ってくれたりしたんだよ。そこに置いてあるスケートボードデッキもそうなんだけど。(インタビューは米原康正の「オフィス・サマサマ」で行われた)

KAREZMAD:これやばいっすね(笑)。Phase2はグラフィティを僕が始める前、中学生の頃に「Fine」に作品が載っていてそれがすごい好きでした。

ーサーフ系のイメージがある「Fine」に載っていたというのも意外です。

KAREZMAD:当時はヒップホップとスケート、スノボーがちょこちょこ載っていたんです。

ーやはりKAREZMADさんにとってグラフィティ以外の、スケートなどのストリートカルチャーも作品に大きく影響していますか?

KAREZMAD:スケートも好きやったし、グラフィティに出会ってからはクラブへ遊びに行ったりもしてたので、そういった友達は増えましたね。そこからクラブイベントのフライヤー作って欲しいと頼まれるようになりました。それまでずっと手で描いてたからPC触ったことなかったんですが、やりながらグラフィックデザインを覚えていきましたね。そうしたらだんだんレコードやCDのアートワークとかグラフィックデザインの仕事が増えていきました。楽しかったし好きだったので、その間はアート制作からは自然と離れていました。

ーグラフィックデザインの仕事をメインにしてから、再びアート作品を制作するまでに何かきっかけがあったんでしょうか?

KAREZMAD:作品制作もやりたいなとずっと思ってはいたんですね。2011年の東日本大震災があった年に、Chim↑Pomが大阪でエキシビションをやったんです。岡本太郎の「明日の神話」に追加した福島第一原発の絵や震災が起きてからその当時までを記録した映像作品を展示した「REAL TIMES」だったかな確か。それを僕もスタッフとして手伝うことになったんですね。手伝うと言っても店番やってただけなんですけど。

そこでChim↑Pomの作品を見ても、その時は正直よくわからなかったんです。「何でこんなことやってんのかな?」って。来場者に作品のテーマとか聞かれるんですけど、うまく答えられなくて先輩に怒られたりしました(笑)。それまでずっと目で見てすぐわかるようなビジュアルのカッコいいアートが好きだったんですけど、こういうアートも面白いなと、自分もまた作品を作ろうと思わせてくれましたね。

ーどういった作品を制作されたんですか?

KAREZMAD:そこからは政治的なメッセージのある作品を作ったりしていたんですが、色々やってみて、ここ数年はグラフィックが主体の作品性に立ち返っている感じですね。作品に依りますけどビジュアルがメインでそこにメッセージをさりげなく入れるような。


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「最初に描いたNYのダンサーは、最近Billie Eilishのアパレル作ってるらしいです」

米:カーリー(KAREZMADの愛称)はその時々でいろんなスタイルがあるのが面白いんだよねー。

KAREZMAD:SFアニメとか好きなのもあって、アニメ的な絵も描いてましたしね。

ーKAREZMADさんというと、やはり幾何学模様で立体的なグラフィック作品とファッションアイコンやアーティストをモチーフにしたポートレート作品の印象が強いです。さまざまなスタイルを経て、今のスタイルに定まったのはなぜですか?

KAREZMAD:芸大の頃は油絵科だったので油絵の作品も描いたり、デッサンやってみたり、色々やってはみたんですよね。でも、結局自分が好きなものを描きたいと思ったんです。そこからファッションインフルエンサーだったりラッパーを描くようになりました。その時、インスタグラマーが盛り上がってる時で、描きたい人を見つけては「描かせてくれへん?」とDMでコンタクト取ってました。

ー例えばどんな人に連絡取ったんですか?

KAREZMAD:最初はNYのダンサーですね。何も知らずにパッと見て、カッコいいなと思って連絡しました。そしたら気に入ってくれて「俺の弟も描いてくれ」って(笑)。その弟が、まだ10代くらいですけどかなり有名人だったみたいなんです。最近も「America’s Got Talent」とかオーディション番組にも出てました。最初俺が描いた兄貴の方は、最近はBilie Eilishのアパレル作ってるらしいです。

ーKAREZMADさんが描く人物は海外の人が多いですが、どうやって関係性を広げていったんですか?

KAREZMAD:描いた奴らがInstagramにアップしてくれて、それでまた連絡がいっぱい来るという感じでした。ギャングみたいなやつからも依頼が来たり(笑)。そんなことが2年くらい続きましたね。

ーDesiignerとかLil Yachtyとかラッパーも描いてましたよね?

KAREZMAD:あれは僕が描きたくて描いたものなんです。その当時の新しい人、街のヒーローというか。地元のフッドスターみたいなやつを描きたくて、あえて若い人を描いています。今後は日本の人も描きたいと思っていますね。

「攻殻機動隊」や「ブレードランナー」。ARが繋げるKAREZMADとSF

ー「AstRo」を先ほど実際に拝見させてもらったんですけどやはりARアプリと連動した作品に圧倒されました。

KAREZMAD:ありがとうございます。

米:ARを使った作品自体はたくさんあるし、注目されているけどあれほど動きがあるARはなかなかないんじゃないかな。カーリーのことを知らない人でも楽しんでもらえると思います。

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ーやはり動きにはこだわってプログラミングされているんですか?

KAREZMAD:僕が使っている「Artivive」は比較的動きが付けられるものなんです。その代わりに3Dモデルは入れることができない。一長一短はあるんですが、僕は動きを重視している感じですね。

米:それを使い出した理由ってあるの?

KAREZMAD:それもInstagramでメッセージもらったんです。「使ってみないか?」って。「Artivive」の人と話した時に言っていたのは最初はCMとか企業向けに展開していたみたいなんですけど、単発で終わってしまうことが多かったそうで、それでアートで利用できないかということで色々なアーティストに声をかけたということらしいです。時間軸や動き、音も入れられる。平面の絵に色々なものを付与できるし、表現が広がってこれは面白いなと。

ーSF映画の世界が現実になった感じがしました。

KAREZMAD:「攻殻機動隊」とか「ブレードランナー」みたいですよね。そういう世界観が好きだし、自分の作品にもフィットするんじゃないかと思って使い始めました。

ーKAREZMADさんの作品はもともと動きを感じる絵だと思うんです。止まっているけど動いているような。それを実際にARを使って動かすというのはとても相性がいいですよね。ご自身ではARを使ってみた手応えをどのように感じていますか?

KAREZMAD:色々な表現、手法、作品だけじゃなくグラフィックデザインや動画も手がけてきたのでそういった経験や技術が活かせると思っています。

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ー今までのKAREZMADさんを複合的に表現した最新系が「AstRo」で観られた気がします。キュレーターを務めた米さんとの出会いはいつ頃なんですか?

KAREZMAD:付き合いとしてはかなり古いですよ。僕が大阪にいる頃、居候していた事務所があって、いろんなアーティストや服屋さんが集まっているような面白い場所でした。米ちゃんが大阪来る時はそこに立ち寄るという感じでしたね。その時に紹介してもらって出会ったのが最初ですね。

ー今回、東京・原宿の「JOINT BAR」で旧知の二人がタッグを組んで個展を行ったのはどんな経緯があるのですか?

米:カーリーが横浜で個展をやるっていうことで再会したんだよね。久しぶりにカーリーの作品を観たらゴリゴリにARを活かした作品でまだコロナ前だったかな。最初は驚いたね。「何コレ?」って。今度「横浜に出てこようと思う」って言うからさ。じゃあ東京でもお披露目を兼ねて、最初は仲間も多い「JOINT BAR」で開催することになったのが今回だね。

ー今は横浜にいらっしゃるんですね?横浜をベースに選んだのはなぜですか?

KAREZMAD:横浜に友達が多くて、ちょくちょく足を運んだりしていたからですね。東京にも来てましたけど、東京はあんまり関係性が作れなくて(笑)。

ーそれは意外ですね。

KAREZMAD:横浜では個展もやって手応えはあったし、ストリートで描いてる人たちとも仲良くなれました。

ー横浜は昔からグラフィティも盛んなイメージがあります。

KAREZMAD:ミューラル(壁画)をやっている人が結構多いですね。横浜には渋谷忠臣さんというアーティストの方がいるんですけど、一緒に何度か作品を作る機会もいただきました。

ーMoment JoonさんやANARCHYさんのアルバムアートワークを手がけた方ですね。

KAREZMAD:そうですそうです。その渋谷さんが会社を作ることになり声かけてくれて、一緒に仕事することになったのが横浜に行く理由としては一番大きいですね。

米:ずっともったいないなって思っていたからいい機会だよね。東京っていまだにどこか体質的に、東京に来ないと興味示してくれないんだよ。大阪が悪いとかじゃなくて、東京の大多数の人は外の土地のことを掘ることをよっぽどじゃない限りしないからさ。だから、一度こっちで作品を見せておけばもっとカーリーの知名度も広がるんじゃないかなと思ってたわけ。

そんな時にイギリスのNFTプラットフォーム、BAE が日本で初のリアル展覧会「クリプトーキョー」をやるってことで誘われたの。カーリーの作品はデジタルだったら絶対映えるなって思って、カーリーにも声をかけて一緒に参加してもらった。作品を出してもらったけど、会場ウケ抜群だったね。

ーNFTアートとも相性良さそうですもんね。

米:デジタルデータとしてただ存在するだけじゃなくて、ARが入ることによってさらに付加価値が高まるし分かりやすく楽しめる。海外勢は大喜びしてたし、実際に作品も売れたからね。

ーその人だけが楽しめるARアートって夢がありますね。

米:人が来たら「ちょっとコレ観てよ」って楽しんでもらえるからね。オーダーメイドのARを組んで、所有者の名前を入れるとか色々なことができそう。

音や演出のこだわり。作品とともに飛び出すストリートのグルーヴ感

ー一方で、街の中の看板やミューラルにARを仕掛けても面白いですね。それは可能なんですか?

KAREZMAD:可能です。実はすでにやっているんですよ。僕のInstagramを遡ってもらえたら観られます。この場所に行って「Artivive」を使ってカメラをかざせば動くので、試してみてください。(Android→こちら

ー未来感ありますね。ARでの“タギング”というか、パブリックアートの新しい楽しみ方かもしれない。「AstRo」では各作品でARと同時に展開される音楽もこだわっていると感じたのですが、コレは全てオリジナルで制作したものなのですか?

KAREZMAD:パブリックアートでAR付けているものは、Valknee(バルニー)の曲とか雰囲気に合いそうなアーティストの楽曲を、インスタから差し込んでいます。自分の作品のARに付ける音楽は基本的に交流があるアーティストにお願いしています。

ー「AstRo」で展示した作品に付けていたアーティストについて教えていただいてもいいですか?また、どのようにお願いしているのでしょうか?

KAREZMAD:今回お願いしたのはTACKERとNARSEAという二人で、TACKERは僕と同じ年でトラックを作ってくれていて、僕の作品を何枚か見せてそこから合いそうな音をいくつか送ってもらってその中から選ぶと言う感じです。NARSEAはまだ19とかで若いんですけど、「AstRo」にも来てくれました。

米:NARSEAはもともと三重の津市出身で今は名古屋だっけ?東京来て一緒に飲んだけど「三重ならこれ祭りですね」って言ってたのが面白かったね(笑)。

ー実際に作品を描いてさらにARのプログラミングをして、という過程はすごく時間がかかるんじゃないかと思ったんですがいかがでしょうか?

KAREZMAD:僕はアートで抽象的なものを表現したくて、動きや色彩とか「カッコいい」とか「イケてる」という感覚をキャンバスに落とし込みたい。ノってくると勢いでそのまま仕上げちゃうみたいなことはありますけど、制作は最初の一歩がすごく時間がかかりますね。

ー緻密で複雑な立体が集合している作品の、スタートからゴールまでどう展開させているんですか?

KAREZMAD:PCでイメージを作るんですけど、ランダムにいろんな線を描いていくんですね。角度を変えてみたりとか、とにかく色々描く。それを繰り返していくうちに「いいな」と思う瞬間が訪れるんです。それをどんどん増幅させて作品に仕上げていきます。画面の見え方とキャンバスだと見え方が違うので、下絵はイラレである程度作っておいてキャンバス上に描き直していく感じですね。最初の「いいな」と思った瞬間の初期衝動や勢いを失わないように気を付けています。

ー作品制作する上でのインスピレーションはどんなものがありますか?

KAREZMAD:音楽とか、映画含め映像作品とかですかね。音楽は何でも聴くけど軸はヒップホップです。周りでヒップホップやってる人が多いので、制作中はずっと友達のミックス聴いたりしています。

ー最近、特にお気に入りの映画や音楽は何かありますか?

KAREZMAD:最近だと「シン・エヴァンゲリオン」とか。さっきもちょっと言いましたけど「攻殻機動隊」や「新世紀エヴァンゲリオン」などSFアニメが好きで影響受けています。黒いアウトラインを入れるだけでアニメっぽくなるし、色使いも「ガンダム」っぽいと言うか、スーパーロボットカラーが潜在的に影響していて、つい選んでしまいますね。

ーホビーカルチャーやアニメともKAREZMADさんの作品は親和性がありますよね。最後に、今後の展望や実現してみたい構想はありますか?

KAREZMAD:大きな展示もやりたいし、作品作りもしていていくことはもちろんですが、今回米ちゃんの紹介で「EMISSION」というブランドとコラボしてアパレルも制作して販売させてもらいました。今後もこういったアパレルアイテム制作やコラボレーションも積極的にやっていきたいですね。

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米:まだ今回見せていない作品もたくさんあるんだよ実は。今回は言わばウォーミングアップ。お披露目が目的だったんだけど、それでもたくさんの人が見にきてくれたし、次は大きな展示をやりたいよね。これは昔から一貫しているけど勝手に突っ走っているものは、実はそんなに好きじゃないんだよ。ちゃんと人が好きになってくれる、ファンが付くってことが大前提。そういうアートが好きなんだよね。カーリーは絶対ファンが付くじゃん。

KAREZMAD:今回「クリプトーキョー」から「AstRo」の流れで、東京という場所を舞台に自分も手応えを実感できたので本当に良かったと思います。

好きなものを描き続けるKAREZMADのピュアな探求心がアートやストリートカルチャー、あらゆる事象をサンプリングして抽象化する。その作品の持つグルーヴは、これからも鑑賞者を魅了し心を踊らせてくれるだろう。

すでにあるもの、普遍的なものを魅力的なものに作り替えると言うのもストリートカルチャーやヒップホップに根ざしたD.I.Y.マインドに通ずるものがる。スマートフォンをかざしてみよう。一見何気ない景色や見慣れたパブリックアートにKAREZMADの“タグ”が仕込まれているかもしれない。

横浜に拠点を移し新たなチャプターを開始したKAREZMADが、これからどんな仕掛けで楽しませてくれるのだろうか。KAREZMADは描かれるアート作品と同様に未だその世界観を拡張し続ける。純粋に創作を楽しむという、グラフィティと出会った頃の初期衝動と勢いを宿したままに。

KAREZMAD Instagram / Twitter

インタビュアー:望月“Tomy”智久


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