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    どこかで見聞きした何かや言葉を、気の向くまま、考えてみるマガジン。 記事や書籍などの推薦もあり。ニュースソース、真偽のほどは、ご自身で確認を。

最近の記事

エンデの『はてしない物語』

 エンデの『はてしない物語』を読んでいて、ふと「これは空虚さを描き続けているのだ」と気付いた。  自分の心の中にある「何もないところ」「埋まらない空白」。それゆえに、生まれ続けていく物語の話。 子どものころに描くお話が、情報の充溢や自由な心から生まれているのだというのは、大人の視点であって真実かどうかはわからない。  むしろ知らない事、満たされない事、不自由な現実から、物語は生まれるのだということが、すでにバスチアンの置かれた境遇から指摘されている。  そしてそのこと

    • 愛する人に求める少しのこと

      いかなるときも、信じられること。 物事の正確さ、正義、倫理観において、安心できる姿勢を貫いてくれること。 誰かの役に立つことを、自身の能力を最大限に生かす努力をもって、求めようとしていること。 他者の協力や協調を、自身への称賛ではなく、結果への近道として受け入れる用意のあること。 理性と感情の均衡を重んじ、言葉の行使に慎重であること。 けれども、言葉のない感情こそ、理性の担い手であることを知っていること。 私が求めたようにではなく、あなたの嘘のない姿でいてくれるこ

      • 蜘蛛の糸の経済学

        誰かを優先することと、自分を大事にすること。 この二つが同時に叶えばいいと思う。 「遠慮するな、自分を出せ」 「自分に自信をもって、意見を通せ」  そんな言葉ばかり聞いていると、ふと世の中には「自分を優先するか」「他人を優先するか」の、二種類の人間しかいないような気がしてくる。  さらには、他人を優先する人間は損をする一方で、自分を優先させる人たちは限られたパイを取り合い、勝者がたった一人のレースに勝たねばならないのだというような、そんな脅迫めいたメッセージまで、受

        • ふわふわの魔法

           通勤スタイルで、両手が自由になるバックパックやリュックのデザインはシンプルかつ、薄型のものが多い。スマホの普及で格段に増えたスタイルだが、最近どうしても気になるのが、そんな黒ばかりのシックなリュックに、ぷらんと一つだけ、小さなぬいぐるみのキーホルダーがぶら下がっている確率の高さだ。  背中の主は学生、社会人と、老若男女を問わない。どのような経緯で入手したのか、かわいらしい、ふわふわのぬいぐるみを揺らして歩いているのを見ると、たまらず好感を抱いていしまう。  単なる目印な

        エンデの『はてしない物語』

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          14本

        記事

          この国に、この国民在り

          エヴァン・オズノス著、笠井 亮平訳、白水社、2015年。 『ネオ・チャイナ 富、真実、心のよりどころを求める13億人の野望』 (原題:Age of Ambition:Chasing Fortune,Truth,and Faith in the New China)  ゆっくりと時間をかけて、2段組、縦書きで印字された文章を読み進めた。語弊を怖れずに言えば、イギリス生まれの記者だからというのもあるのだろうか、中国への "自然な" 親しみをもって、できるだけ "大人な" 解

          この国に、この国民在り

          自分を雇う

          「ずっと働きたいなぁ」 「いや、無理でしょ。自営業とかじゃない限り」 そういうやりとりを友人として、死ぬまで働くことの難しさに初めて気付いた日。病院のベッドで、自宅で、ひとり息を引き取るよりも、さいごまで人と関わりながら、生きていたい。 長すぎる定年後の人生を、保険と年金だけで乗り切るのは辛いだろう。身体の自由が今より利かなくなるだろうし、体力も限られてくる。その段になって、自分が本当にしたいことがわかるかもしれない。そのとき、できるだけ選択肢があれば嬉しいだろう。「働

          自分を雇う

          小さな声の言語

          語学学習が好きで、大学を卒業してからも興味を持った言語を、ちょこちょこと、つまみぐいするように勉強している。今は、小説を読みたい、ドラマを楽しみたいという動機で、「普通語〔putonghua〕」とされる ”中国語” 、北方言語寄りの標準語学習をしている。 けれど、はじめから言語学習が好きだったわけではない。思い出せば、中学に上がったときは、NHKの英会話講座を受けるために、決まった時間、ラジオの前に座ることさえ恥ずかしかった。 一人で会話文の受け答えをしたり、登場人物にな

          小さな声の言語

          さわって、反射で読む

          ときどき衝動的に本を買い求める。 新品の本、古本、電子本。学生時代は、本を一冊買うのにも、あれを諦め、これを借りて・・・と悩むことひとしおだったが、社会人になって予算の自由度が高くなった。本屋に足を運んで、気になったものをその場で買うのも好きだし、パソコンでの調べ物が高じて、Amazonで参考書を注文してしまうこともある。 紙の本は保管に場所をとるし、重いし、ホコリが積もらないよう掃除しなくてはいけないしと、色々と持っておくには大変な面も多い。それでも、電子本のみで満足で

          さわって、反射で読む

          福祉の視点

          流行りのものには疎く、おおむね話題になっているときは知らないことが多い。 北川恵海(きたがわえみ)著『ちょっと今から仕事やめてくる』KADOKAWA/アスキー・メディアワークス 、2015年。 原作は同名小説だが、自分が観たのは映画の方だ。 成島出監督、福士蒼汰・工藤阿須加出演(配給:東宝)2017年。 はじめは、胃が痛くなるような場面が続き、見続けるのをやめようと何度か思ったが、結局最後まで観た。 行きつ戻りつしながらも、少しずつ人が変わっていく、強くなっていくと

          福祉の視点

          「見られたい自分」で好かれたい

          「イメージしてた人と違った」 少女漫画の一コマではなく、現実に言われる言葉である。 「イメージって?」 と、訊いてしまいたいのだが、そこはぐっと抑えて笑ってごまかす。 どうやら人は他人を認識する際、その人の直接的な言動の積み重ねというより、もっと曖昧な何かを根拠にしているらしい。 湧いた疑問符は大きすぎて、子どものときの自分は、世の中一般そういうものだと、考えを保留することにした。普通に生活しているつもりでも、当人の思いをよそに、勝手に作られていくイメージ。これには

          「見られたい自分」で好かれたい

          読みやすい文章

          万城目学(まきめまなぶ)さんのエッセーを読んでいると、 読みやすい文章が書けるようになってきたら、文章が上達した証だという意見があった。 そうなのかぁと思うと同時に、確かに今は、どの書店で立ち読みをしても、ものすごく読みやすい本ばかりが並んでいると、納得する。 単に子ども時代の記憶と比べて、「そりゃぁ大人の頭で読めば違うだろう」というのでもなく、出版年で遡るほど、その違いが歴然としている。 何年が境なのか、つきとめられてはいない。 ただ、1970年代の本は難しく、1

          読みやすい文章

          誰かのために怒ること

          電車の中で時折、見知らぬ人同士の、諍い(いさかい)を目にする。 荷物や肩がぶつかり、「謝れ」と言う人。 ぶつかったほうは、小さな声で「すみません」と言うが、その態度が気に入らない、馬鹿にするなと、追い打ちをかけられる。 「謝ったからいいじゃないか」と場を離れようとすると、それでも場が収まらない。遠巻きに眺めて思う。何が正解なのだろうと。 「怒り」を感じることは、自分の尊厳や、大事だと思っていることを傷つけられたり、蔑ろ(ないがしろ)にされたことを改めて認識し、必要があ

          誰かのために怒ること

          匿名社会の深度

          「書く・読む」行為は、いまや「話す・聞く」と同じ速さか、それ以上の速さで実現可能だ。 紙やペン、字を書くスキルといったものから、パソコンもしくは携帯一つで事足りる。その唯一の道具の使用方法も、ますます容易になっている。 通信技術の発展が、書き手と読み手との間のタイムラグを取り去った。 匿名性を盾に、「話す・聞く」が自由になれない現実の力関係から、「書く・読む」を解き放った。 ネットワーク社会が叶えてくれる匿名性の深度は、対人関係における平等への希求にはじまる。 けれど

          匿名社会の深度

          SNS

          誰かに話を聞いてほしいだけなら、聞いてほしいまさにその瞬間に、時と場所を選ばず、言いたいことを言える場所があればいい。 人を呼んで言うほどのことでもないけれど、ちょっと言いたい。聞ける余裕のある人が常にそこにいる、そういう安心感で、発信するメッセージ。 自分以外の人が日ごろ何を感じ、何をしているのか。 自分という籠の中だけでは退屈してしまっているから、拘束されない自由な環境なら、顔の知らない誰かの失敗談やら、おもしろい話なら聞いてみたい。 愚痴やら文句でも、顔の見えな

          耳を傾ける自由

          自分はどちらかというと、ぼんやり人の話を聞いていたい人間だと思う。 話したい、という欲求に勝るのが、聞く面白みとでもいうのか。 休日の昼どき、珍しい場所で外食などをすると、さっそく周囲の話し声が耳に入ってくる。 もちろん一人で食べに入っている。注文さえ済めば、ほかに優先することがない。 周りのお客の中で特に目立つのが、大きな声が途切れない女性二人組。 彼女たちの会話を聞く中で、気付いたことがいくつかある。 それは、どちらかが話し役で、一方が聞き役に徹底しているというこ

          耳を傾ける自由

          楽しい学校

           何のために学校へ行くのか。 1. 集団生活を学ぶため、 2. 世の中に色んな人がいること知るため、 3. 勉強するため。  小学校入学から、高等学校卒業に至るまで、自分の学校へ行く理由は、ほぼ3番に終始していた。1番、2番の理由はおおむね、「閉じた社会の中でとにかく我慢の仕方をおぼえること」なのだと解釈していた。  それでも自分は思い返す度、良い先生にも出逢えたし、奨学金を得て、望めるだけの教育を受けることができた。たとえ陰湿ないじめに遭っても、成績だけは自分のた

          楽しい学校